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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

ましろ色シンフォニー 瓜生桜乃SS~うすべに色の糸~ 第4話

窓から漏れる蛍光灯の光が、既にお兄ちゃんが
帰宅していることを教えてくれる。

私は玄関の前に立ち、深呼吸をする。

目の前のこの扉を開ければ、後戻りすることはできない。

それでも、背中を押してくれた親友のためにも、もう逃げることはやめよう。

手を取り合って歩いてゆきたい人がいる。

たとえそれが一般的に兄と呼ぶ存在であっても、この気持ちは止められない。

大きくなった想いを、自分で否定したりしない。

私はお兄ちゃんが好き。世界で一番、誰よりも好き。

今はただこの気持ちを信じて、私はドアに手をかけた。



食卓に対面して座り、お兄ちゃんが作ってくれた晩御飯を食べる。

「―――って隼太が言ってたんだ」

「それはおもしろい」

私たちは何気ない会話をかわす。

最近はほとんど顔を合わせなかったため、溜まった話題は多く、
会話が弾むこの瞬間はやっぱり心地よい。

ゆっくりご飯をいただきながら、やがて話題がつきかけた頃。

私は口を開いた。

「お兄ちゃん、話があるの」

「・・・うん」

私の真剣な顔で察したのか、お兄ちゃんも表情を引き締める。

「あのね、この前お父さんから電話があったの」

「・・・・・・」

「久しぶりに声が聞けて嬉しかったけど・・・急に、怖くなったの」

私は目を伏せ、拳を握り締める。

「私たちの関係が変わったら・・・お兄ちゃんがいなくなっちゃうかも
 しれないって・・・そう、思っちゃったんだ」

声を絞り出す。足が震えてしまう。本当は逃げ出してしまいたいくらいだ。

だけど、踏ん張らないといけない。

今逃げてしまうと、これから先もずっと逃げ続けてしまうから。

私は頭を上げ、お兄ちゃんから真正面を見据える。

「今から行きたい場所があるの。ついてきてほしい」

私のお願いに、お兄ちゃんは無言で頷いた。



コートを羽織って外へ出ると、満天の星空が地上を照らしていた。

気温が下がり、刺すような寒さの中、私たちは並んで歩く。

私から手を繋いでみると、お兄ちゃんは拒まなかった。

繋いだ手から伝わる温もりが私に勇気を与えてくれるようで、
私は確かな足取りであの場所へ向かう。

「ここは・・・」

旧市街の一画、時が止まったかのように全く代わり映えしない歩道。

大切な思い出が眠る場所。

「昔、私がここで迷子になった時、お兄ちゃんが迎えにきてくれたよね」

「・・・うん」

「すごく・・・嬉しかった」

あの時だけじゃない。

その後も迷子になるたびに、お兄ちゃんは私を見つけてくれた。

愛理と会ったあの日だって、お兄ちゃんは来てくれた。

いったい、どれほどの優しさを私はお兄ちゃんからもらっただろう。

それなのに私は、お兄ちゃんに甘えるだけで何もしていない。

そんな私の優しさが、お兄ちゃんを傷つけてしまった。

兄妹なのに。兄妹だから。

変な理屈で自分をだまして、お兄ちゃんを見てやしなかった。

「私は・・・」

目を背けるのは、もうやめよう。

まっすぐ、最愛の人を見つめる。

心臓の激しい鼓動が、バクバクとなって苦しいほどだ。

それでも私は勇気を振り絞って・・・



「あなたが・・・」




「・・・好き・・・です・・・」



そう、告げた。



突然だった。

お兄ちゃんが動いてぎゅっと私を抱きしめた。

「お、お兄ちゃん・・・痛い・・・」

「ご、ごめん」

お兄ちゃんが離れる。しかしすぐに私が抱きしめ返す。

お兄ちゃんの手が再び私の背中に回される。

「桜乃・・・」

すぐ傍に、お兄ちゃんの顔。

整った顔立ち・・・光を宿した純真な瞳・・・形の良い薄紅色の唇。

私はゆっくりと目を閉じた。

普通の兄妹では絶対にしないことをするために。

お兄ちゃんが動く気配。顎を持ち上げられ、そして・・・

「・・・・・・」


私たちはとても甘ったるい、恋人同士の口付けをした。


永遠にも思える時間の中、私たちは名残惜しむように唇を離す。

「お兄ちゃん・・・」

「好きだよ、桜乃」

再び、キスをする。

時間が、止まってしまえばいいのに。

幸せに満たされて、星空が祝福してくれているかのようなそんな錯覚まで覚える。

でも、今だけは世界に私とお兄ちゃんの二人きり。

眩暈がしそうなほどの喜びが身体を駆け巡り、
私とお兄ちゃんはずっと、ずっと、抱きしめあっていた。






一方その頃。

西園寺明希(さいおんじ・あき)は友達に電話をかけていた。

「ねぇ知美、わたしのために協力してくれない?」

「はいはい。ところで、あの先輩なんて名前だったっけ?」

わたしは一文字ずつ、愛おしむように先輩の名前を口にする・

「瓜生・・・新吾先輩だよ」

一目ぼれだった。

他の男子生徒なんか目じゃないくらいかっこいい。

あの人と仲良くなりたいな。

そして願わくば、彼女として付き合いたいな。

電話を切ってベッドに寝っ転がり、天井を見上げる。

先輩・・・好きな人いるのかな。

「確か隣のクラスに妹さんがいたよね」

その子からも協力を仰げれば百人力だ。

胸に手を当てて深呼吸する。頬が熱く火照っている。

まるで覚めない夢の中にいるようなそんな心地。

わたしは目を閉じて、まぶたの裏にあの人を思い描く。

どうやら今夜もドキドキして眠れないようだ。

えへへ、会いたいなぁ。早く明日になぁれ。
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  1. 2012/06/03(日) 00:29:43|
  2. ましろ色シンフォニーSS
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ましろ色シンフォニー 瓜生桜乃SS~うすべに色の糸~ 第3話

「桜乃、今日の放課後空いてるかしら?」

「大丈夫。何か用事?」

「ええ。授業が終わったら桜乃の教室で待っててくれる?」

「うん、わかった」

今も私はお兄ちゃんと歩み寄れずにいる。

家にいるのも気まずくて、愛理の用事は好都合だ。

このままではいけないと知りつつ、一歩踏み出す勇気を出せない。

私は、きっかけを求めていた。



放課後。終業のチャイムが鳴り、下校を生徒に促す。

クラスメイトたちが帰宅の途につく中、私は教室で愛理を待っていた。

12月の空は早くも暮れ始め、教室の隅のカレンダーが
目まぐるしかった今年も終わりが近づいていることを教えてくれる。

持ち上がった結女との仮統合。

そこで出会った姉と呼べるような存在と、個性豊かな仲間達。

そして・・・変わるかもしれない、私たちの関係。

たとえそれがどんな結果になっても、受け止めたい、ちゃんと。

「おーい、桜乃っちゃん」

来訪者は意外な人物だった。

「隼太さん?」

「瀬名ちゃんから案内を頼まれた。ついてきてくれ」

「は、はい」

鞄を持って廊下へと出た。



「あ、来たわね」

たどり着いたのは、ぬこ部の部室の前だった。

そこには愛理のほかに天羽先輩、アンジェの姿があった。

「愛理、これは・・・?」

状況がつかめず首をかしげる。

「今からここに、瓜生君が来るわ」

「え・・・?」

お兄ちゃんがここに・・・どうしよう。私はまだ答えを出し切れていない。

「瓜生君の気持ち、知りたくない?」

「・・・・・・」

「めんと向かったら言えないこともあるでしょう?
 今のあなたたちに必要なのは、素直になることよ」

「紗凪ちゃんが新吾君を連れてくるの。桜乃ちゃんは隠れててね」

天羽先輩に腕を引かれ、部室の裏へ回りこんだ。
愛理たちからは死角となる場所だ。

「ここにいてね。出てきちゃダメだからね~」

天羽先輩が戻っていく。

私は観念して、壁に背中を預ける。夜の帳が下りつつある空を見上げていると、
やがてお兄ちゃんと紗凪さんの声が聞こえてきた。

「みう先輩、連れてきました!」

「強引に拉致した、の間違いじゃないかな」

「うっさいぞクズムシ」

「ったく。それで、みんな集まってどうしたんだ?」

どうやらお兄ちゃんも何も聞かされないまま来たらしい。

「桜乃のことよ」

「・・・・・・」

「実は桜乃から相談を受けていたの。瓜生君との関係で悩んでいるってね」

あ、愛理ぃ・・・

「単刀直入に聞くわ。瓜生君、桜乃のことをどう思ってるの?」

「って愛理、直球すぎない?」

「こういうことははっきりさせるべきなのよ。たとえあたしたちの
 やってることがおせっかいでしかないとしてもね。それで、どうなの?」

「・・・好きだよ。妹としてじゃなく、女の子として」

ぎゅっとスカートの裾を握る。

「それがどんな意味を持つか、あなたならわかるわよね」

「そうだね。目を背けても桜乃が妹だって事実は変わらない。
 この想いが本当は許されないこともわかってるつもりだ」

「それでも、桜乃が好きだと言うの?」

「いつも一緒にいてくれた一番大切な存在だから。この気持ちは
 決して一時の気の迷いなんかじゃないよ」

お兄ちゃんの想いが、私の心に喜びと痛みを伴って溶け込んでくる。

お兄ちゃんの気持ちは、私の気持ちの裏返し。

私はずっと、お兄ちゃんを見てきた。

この感情が恋になったのは、いつからだっただろう。

「なぁ椋梨、義兄妹って結婚できるんじゃなかったか?」

「まぁ、法律上は一応な」

「じゃあ、二人がくっついても何の問題もないじゃん」

「ところがそうは問屋がおろさないんだよ乾っちゃん。
 俺たちはともかく、世間は好奇の目で見るだろうからな」

それは私が一番危惧していることだった。

私はお兄ちゃんのためならどんなことでも耐えられる。

でも、そのことでお兄ちゃんが傷つくのは絶対に嫌だった。

「桜乃って本当にしっかりした子よね。だからこそあんなにも苦しんでいる。
 最近の桜乃は見ていて痛々しいくらいよ」

「桜乃ちゃん、あんまり部活にも顔を出さなくなったもんね・・・」

「みう先輩が悲しんでるじゃねーか!クズムシ、全部お前が悪い!」

「さすがさっちゃんさん、シリアスな時でも罵倒を忘れませんね!」

「・・・変な感心のしかたはやめろっての」

「と、とにかく。ねぇ、瓜生君、どうして桜乃を好きになったの?」

「え・・・」

お兄ちゃんが私を好きになった理由・・・?

「兄妹の絆を覆すくらいの強い理由があったんじゃないの?」

「・・・わからない。でも、ずっと前から好きだったんだと思う。
 それに気づいて意識したのは・・・最近だけど」

自分に当てはめてみる。どうして私は、お兄ちゃんを好きになったのかな。

お母さんを失って悲しみにくれていた私に突然できたお兄ちゃん。

いつも無理していて私にいっぱい優しくしてくれた。

嬉しい反面、まだ子どもだった私は何もしてあげることができず
歯がゆい思いでいたことを覚えている。

そんなある日、私は遠出をして迷子になってしまった。

お兄ちゃんの誕生日プレゼントを買ってあげようとして、
旧市街まで行ったのがいけなかった。

夜空に星が瞬き始めた頃、歩きつかれてうずくまっていた私を
見つけてくれたのはお兄ちゃんだった。

「桜乃」

「あ・・・」

泣き顔を見られたくなくて、目元の涙をぬぐう。

「よかった、やっと見つけ・・・ごほっ、けほっ・・・」

気づく。お兄ちゃんが額から汗を流していることを。

きっと私のことを必死になって捜してくれたんだ。

「ごめんなさい・・・無理させちゃってごめんなさい・・・」

お兄ちゃんの背中をさすってあげる。

「だ、大丈夫・・・」

お兄ちゃんは私を立ち上がらせて手をひっぱって歩き出す。

「それより、どうしてこんな遠くまで一人で来たの?」

「迷惑、かけたくなかったから・・・」

それがこんな事態になっては本末転倒だ。自分の情けにまた涙が溢れてくる。

「迷惑だなんて思わないよ。僕たち、家族だよ?もっとわがまま言っていいんだ」

その言葉は嬉しいと思う。でも、私の心は申し訳なさのほうが勝っていた。

そんな私の気持ちを見透かしたように、お兄ちゃんは繋いだ手に力を込める。

私を一生懸命捜してくれた、汗ばんだ小さな手は温かかった。

「桜乃は僕の妹なんだ。迷子になったら必ず見つける。約束する」


「だからもう、泣かないで。ずっと傍にいるから」


それはとても優しい、魔法の言葉。

ただ温かくて、うれし涙に変わった涙がぽろぽろと零れ落ちる。

私はお兄ちゃんに向かって、言った。

「ありがとう、お兄ちゃん」

「・・・・・・」

ぽかんと口を開けたお兄ちゃん。

初めて、私がお兄ちゃんのことを「お兄ちゃん」と呼んだ瞬間。

・・・ああ、そうか。

次第に鮮明になっていく記憶。

あの時に、この想いが芽生えてしまったんだと思う。

優しいお兄ちゃん。大好きな、私のお兄ちゃん。

あの頃から、この気持ちはちっとも変わってない。

「これからどうするつもりなの?」

「桜乃と話したいと思う。もう一度俺の気持ちを伝えたいんだ」

「今の桜乃は気持ちの整理がついてないから、逃げるかもしれないわよ」

「それなら、どこまでも追いかけるよ。ずっと一緒にいると約束したからね」

お兄ちゃん、あの時のことを覚えてる・・・?

「なんだか新吾らしくないな。桜乃っちゃんは特別ってことか」

「この件だけは、空気を読んでいられないからね」

「はは、そりゃそうだ」

「けっ、馬に蹴られて骨折しろ」

「・・・いろいろツッコミ所が多いけど、とにかく、もう行くから」

「待って」

愛理が呼び止める。

「あたしね、羨ましいと思ったの」

「え・・・?」

「あなたたちと初めて会った時、あんなに仲の良い兄妹は見たことなかったから、
 二人がすごく眩しかった」

優しい愛理の声。慈しむように紡ぎだす。

「そうしたら、次の日に学校で再会したでしょ。本当に驚いたけど、
 今のあたしは、あなたたちを見つめることにしたの」


「どうしたら、あたしもこんな風になれるかなってね」


「・・・・・・」

「瓜生君は、誰かのためなら平気で自分を後回しにする人よね。
 それは、悪いことじゃないと思う。でも、そんな自分を
 本当に想ってくれる人がいる、それを忘れたらダメよ?」

「・・・うん、肝に銘じる」

「あなたたちが過ごした時間は、きっと兄妹の鎖に負けないわ。
 愛しい人のために自分のできることを精一杯がんばる。
 それが、誰かを好きになるということじゃないかしら」

これは、私にも向けられた言葉だろうか。何故かそう思った。

「悔しいけど、あたしにできることなんてたかが知れてる。
 でも、二人をずっと見てきたんだもの。二人がどんなにお似合いか、
 あたしがきっと一番知ってるわ」

足音。愛理がお兄ちゃんに近づいたのかもしれない。


「大丈夫。きっとうまくいく。あたしはそう信じてる。
 だから瓜生君も、桜乃のことを信じてあげて」


「好きになった人を、受け止めてあげて」


お兄ちゃんの返事はなかった。たぶん、言葉はもう必要ないと思ったのだろう。

遠ざかっていく足音が聞こえ、あたしは表へと移動した。

「愛理・・・」

「・・・まったく、人の気も知らないで」

「え?」

「なんでもないわ。それより桜乃、瓜生君は勇気を出したわ。
 あなたは・・・どうする?」

答えは決まっていた。

「行くね」

「うん。朗報を期待しているわ」

愛理の尽力に応えたい。

明日、彼女にありがとうと言う為に。

ここから、一歩を踏み出そう。

胸に息づく自分の気持ちを抱きしめて。

私は、お兄ちゃんの元へ向かった。
  1. 2012/05/27(日) 00:28:47|
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ましろ色シンフォニー 瓜生桜乃SS~うすべに色の糸~ 第2話

嬉しかった。

それなのにどうして、あんな突き放すような真似をしたんだろう。

激しい心臓の鼓動は今だ冷めない興奮を物語り、身体が熱く火照っている。

「お兄ちゃん・・・」

好きって言ってくれた。私のことを、女の子として。

ずっと待ち続けていた。心の中のどこかで、願っていた。

もしかしたら・・・って。

お兄ちゃんと過ごした時間。それを積み重ねて、この想いを育んできた。

そしてそれは、お兄ちゃんも同じだった。

知ってしまったお兄ちゃんの想い。

きっともう、私たちは元の兄妹には戻れない。

私たちは、どこへ行くんだろう。



あの日から、私はお兄ちゃんを避けるようになった。

朝食を一人で食べて一人で通学し、夜は自分の部屋に篭っている。

お兄ちゃんに会うのが怖かった。どんな顔をして会えばいいのだろう。

「愛理・・・愛理なら・・・」

私は親友を学食に誘った。

「・・・そうだったの」

いつも話を聞いてもらうお礼に私がおごってあげたコーヒーを一口飲んで、
愛理は息をついた。

コーヒーカップの中の揺れる水面は、私の心のよう。

「おかしいと思ったのよね。瓜生君、すごく落ち込んでるから」

「・・・・・・」

「桜乃も、同じみたいね」

力なく頷く。最近眠りが浅く、疲れが溜まっている。

落ち着かない日々が、私を責めたてるようにひどく遅く流れてゆく。

「やっぱり、ダメなのかな。兄妹は好きになっちゃいけないのかな・・・」

兄妹で恋をするということの意味を、私は何もわかっていなかった。

「ねぇ、もし愛理が私だったら、愛理はどうする?」

「難しい質問ね・・・」

愛理は困ったように視線を落とす。

「変なことを聞いてごめんなさい。でも、私、もうどうしたらいいか
 わからないから・・・」

「・・・・・・」

愛理はじっと私を見つめる。彼女の瞳に宿る光はまっすぐで、
私は彼女のそんな表情が好きだった。

「あたしなら・・・やっぱり、好きって伝えると思う」

「・・・どうして?」

「人を好きになった自分の気持ちを、否定したくないから、かな」

「否定・・・?」

どういう意味だろう。私は愛理の言葉を待つ。

「あたしは・・・男の子を好きになったことがないから、
 今の桜乃の気持ちは完全にはわからないかもしれない。
 でも、桜乃が瓜生君をどんなに好きか、それはわかるつもりよ?」

「・・・・・・」

「あたしは、諦めたくないって思うわ。自分に嘘をつきたくないもの」

「でも、兄妹なんだよ?」

「なら、桜乃は瓜生君が好きな気持ちをなかったことにできるの?」

絶対にできない。こんなにも愛おしいのだから。

「桜乃は兄妹って鎖に捕らわれすぎて、瓜生君をちゃんと
 見ていないんじゃないかしら」

「・・・え?」

「瓜生君もずっと悩んでいたはずよ。彼だって立場は同じなんだから。
 それなのに桜乃に想いを伝えた。どうしてか・・・わかるでしょ?」

「・・・・・・」

「それは、桜乃が本当に好きだからよ。二人が付き合うことの
 困難なんか百も承知で、それでも、桜乃を女の子として愛したいと
 思ったからよ。だけどそれは、いけないことなの?もしもそうなら、
 好きになった自分が可哀相じゃない。少なくとも、あたしはイヤ・・・」

愛理の想いが伝わってくる。紅潮した頬を引き締めて、私のことを
真摯に考えてくれているのがわかる。


「兄妹だからって、負けないでよ。簡単に諦めないでよ。きっと後悔する。
 あたしは・・・二人の笑っている顔が、好きなんだから」


その言葉で、私はどれほど救われただろう。


「ありがとう、愛理」

「勝手なことばかり言ってごめんなさい。でも、何があっても、
 私は桜乃の味方だからね」

胸をはって言える。この人と親友になれて、本当によかった。

でも、やっぱり気になることもあって。

「あの、愛理は本当にお兄ちゃんのこと好きじゃないんだよね?」

愛理が目を丸くする。

「もしかして・・・心配?」

「あう・・・」

私って、いやな子だ。

愛理はいたずらっぽく笑い、優しい微笑を私に向けた。

「大丈夫よ。瓜生君は友だちだし、あたしはきっと一生独身だから」

冗談か本気かわからなかったけど、それはとても素敵な、
大人の女性に見えた。
  1. 2012/04/22(日) 00:12:56|
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ましろ色シンフォニー 二次創作 瓜生桜乃SS~うすべに色の糸~ 第1話

「愛理が、お姉さんだったらよかったのに」


親友に言った言葉は、嘘じゃない。

それなら私は、素直にお兄ちゃんを好きになることができた。

妹としてではなく、一人の女の子として。

「私は・・・妹」

それは不変の事実。お兄ちゃんと私を繋ぐ大切な糸。

今まではそれでよかった。ずっと傍にいられると思っていた。

でも、違った。

いつかお兄ちゃんにも、傍に寄り添う本当に大切な人ができてしまう。

お兄ちゃんの隣にいるのが、私じゃなくなってしまう。

「・・・・・・っ」

最悪の光景を想像して、胸がぎゅっとわしづかまれたように痛んだ。

大きくかぶりを振り、連鎖する負の思考を振り払う。

こんなの、ダメだ。全然私らしくない。

あの日、お兄ちゃんが告白されたのを目撃した瞬間から、
私の中で、何かが変わった。

いつも、おにいちゃんのことを考えている。

気づいたら横顔を見つめていて、その背中を目で追っている。

私は、お兄ちゃんを意識している。お兄ちゃんのことが、頭から離れない。

「どうして、妹はお兄ちゃんを好きになっちゃダメなの・・・」

その問いを返答してくれる人は、誰もいなかった。



その日は朝からお兄ちゃんの様子が変だった。

私と目が合うとすぐに目を逸らし、そわそわと動き回って落ち着かない。

「お兄ちゃん・・・?」

「・・・え、ああ、ごめん。ぼうっとしてた」

話しかけても上の空で、時折困ったように息を吐き出す。

居心地の悪い空気が食卓を包んでいた。

「ごちそうさま」

食欲が出ず、食べかけの料理をラップで包む。

いつも通りの味付けのはずなのに、今日はひどく味気なかった。

「・・・・・・」

沈黙が場を支配する。こんなに会話の無かった食事は初めてかもしれない。



電話がかかって来たのは、夕食の後片付けを終えて
お兄ちゃんがお風呂に入った頃だった。

「はい、瓜生です」

「おお、桜乃か。久しぶりだな」

男性特有の、低く太い、でも優しい声。

仮統合などでずっとドタバタしていたから、すごく懐かしく感じる。

「お父さん・・・」

仕事の関係で遠く離れて暮らす、私たちの父からの電話だった。

「元気でやってるか?」

「上々。お兄ちゃんも元気。お兄ちゃんはお風呂に入ってる」

「相変わらず、仲が良さそうだな」

「うん、世界で一番の仲良し兄妹」

自分で言っておいて、胸がチクっと痛んだ。


「新吾に言っておいてくれ。親がいない間に桜乃に何かしたら、
 家からたたき出すとな」


「・・・・・・」


絶句する。


受話器を持つ手が振るえ、私しかいないリビングの空気が張り詰める。

お父さんは冗談で言ったんだ。それくらいわかる。

それなのに。

「・・・桜乃?」

「・・・ん。伝えとくね」

私は大切なことを失念していた。

例えお兄ちゃんに想いが届いても、お父さんたちにどう説明するのか。

受け入れてもらえなかったらどうしよう。

最悪の場合、お兄ちゃんと引き離されてしまうかもしれない。

そんなの、私には耐えられない。


だったら・・・だったらやっぱり、兄妹のままで――――――



――――――――――――――――



お風呂から上がった私は、ヘアブラシを持ってお兄ちゃんの部屋へ向かう。

ほてった身体に冷たくなってきた空気が気持ちいい。

私はこの2階へ続く階段を上る時、いつもドキドキしている。

お兄ちゃんは何をしているかな、とか。

今日はいっぱいお話できるかな、とか。

いつも、そんなことを考えている。

「・・・・・・」

いつも通りを心がけて、部屋の扉をノックする。

「どうぞ」

大好きな人の声。ゆっくり扉を開ける。

「おじゃまします」

「いらっしゃい」

ベッドの端に静かに座り、お兄ちゃんを見つめる。

「これ・・・」

右手に持ったブラシを見せる。

「お兄ちゃん、髪をすかしてほしい」

「それくらい、お安い御用だよ」

お兄ちゃんにブラシを渡して背中を向ける。

「痛かったら言ってね」

「・・・平気」

お兄ちゃんが私の髪にブラシを通していく。

傷つけないように優しく、ゆっくりと。

私を大切に思ってくれていることを再認識して、嬉しさがこみ上げてくる。

「こうしていると、小さな頃を思い出すよ」

「え?」

「時々、リボンを結んであげたりしてたよね」

それは懐かしい記憶。

たぶんあの頃の私は、お兄ちゃんにリボンを結んでもらって、
お兄ちゃんが私のお兄ちゃんであることを実感したかったんだと思う。

本当は新しくできたお兄ちゃんにたくさん甘えたかった。

でも、できなかった。お兄ちゃんは身体が弱くていつも辛そうだったから。

私はきっと、些細なことでもいいからお兄ちゃんと繋がりを求めていたんだ。

「髪・・・伸びたよな」

伸びた分は、私とお兄ちゃんが過ごしてきた二人の時間の証。

「またお願いしていい?」

「いいよ。でも、用事はこれだけじゃないよね」

「・・・・・・」

「何か話があるから、来たんだろ?」

お兄ちゃんはやっぱり鋭い。私のことなんて、何でもお見通しみたいだ。

「お兄ちゃんは・・・お兄ちゃんなんだよね」

何度も心の中で反芻した。皮肉にも、その絆が鎖となり私を縛っている。

「私は・・・妹、だから」

だから兄と結ばれることはない。結ばれてはいけない。

残酷な現実に泣きたくなってしまう。

「お兄ちゃんは・・・いつも私のこと、心配してくれるよね」

「気にしすぎだったかな?」

「そんなことない。私はすごく嬉しい」


だけど。


「それは・・・妹だから?」


口からこぼれた問い。ずっと怖くて聞けなかった。

親友の顔を思い浮かべる。今だけ、あなたの強さを貸してほしい。


「私が・・・妹だからなの?」


お兄ちゃんはしばらく黙ったあと、口を開いた。

「・・・うん。桜乃は大切な妹だから。でも、もう一つ理由があるんだ」

お兄ちゃんの瞳に強い光が宿る。私たちは見つめあう。

そしてお兄ちゃんは、言った。


「桜乃が、好きなんだ」


・・・・・・え?


耳を疑った。


私の頭の中に、一つの可能性がよぎる。


違う、そんなことはありえない。


「好きって、私もお兄ちゃんのこと、好きだよ」


心臓が激しく脈打ち、息が苦しい。

そうだ、お兄ちゃんは私のことが妹として好きなんだ。

だから、変なことを考えてはダメ。


「たぶん、桜乃の言っている好きとは違う、好きだよ」


「・・・・・・」


「俺は、一人の女の子として、桜乃が好きなんだ」


一瞬、目の前が真っ白になった。


お兄ちゃんが、私を・・・・女の子として、好き・・・?


信じられない。私は夢を見ているのかもしれない。

だって、こんなことありえない。

でも、心の奥底では期待していた。ずっと、私の想いが届いてほしかった。


お兄ちゃんと恋人になりたいって。


だから――――――


「何言ってるの?」


嬉しい、お兄ちゃん。


「兄さん、私たちは兄妹なんだよ?」


いっぱい抱きしめてほしい。


「冗談でも、そういうこと言わないほうがいいと思う」


いっぱいキスもしてほしい。


「冗談で、こんなこと言わないよ」


「本気なら、もっと言わないほうがいい」


私ね、お兄ちゃんと、いっぱいデートがしたいんだよ。


「・・・そうかもしれないな」


お兄ちゃんは力なく途方にくれたように首を振った。


「・・・・・・」


お兄ちゃんの表情が悲しみに染まる。

瞳が揺れ、小動物のように、私より幼く見えてしまう。


私は、お兄ちゃんを傷つけた。


「ごめん、変なことを言って」

お兄ちゃんが頭をさげる。

だけどすぐに顔をあげて、また私を見つめた。

「でも、この気持ちは嘘じゃないんだ。妹としてじゃなく、
 一人の女の子として・・・俺は桜乃が好きだよ」

「・・・・・・」

どうしてなんだろう。飛び跳ねたいほど嬉しいのに、こんなにも、胸が痛い。

「・・・部屋に戻るね」

お兄ちゃんに背中を向け、一度も振り返らずに部屋を出た。
  1. 2012/04/02(月) 01:37:11|
  2. ましろ色シンフォニーSS
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ましろ色シンフォニー 乾紗凪SS~なみだ色のセレネイド~ 第2話

「さな・・・おい、紗凪」

呼びかけても、反応が返ってくることはない。

「・・・ミウ」

「にゃぁ・・・」

元気のない声が返ってきた。

意気消沈するあたしを、ミウは寂しそうに見つめるばかりだ。

「どうして、紗凪じゃダメなんだよ・・・」

あたししかいない早朝の部室に、深いため息が吸い込まれていく。

みう先輩と同じ名前にだけ反応する子猫に、あたしはいたたまれない
感情を覚えていた。

オス猫のシンゴと、メス猫のミウ。

二匹を見ていると、どうしてもあの二人を連想してしまう。

「お前・・・シンゴがいないと寂しいのか?」

ミウは食が細り、心なしかやつれてしまっている。

病気ではなく、原因はシンゴとの別れだろうと容易に推測できた。

「待ってろよ、もう少ししたら・・・会わせてやるからな」

ミウの頭をなでてやる。ミウは少しだけ身じろいだ。



「しまった・・・」

鞄を漁っていた新吾が困ったように息を吐き出す。

「どうしたの?」

「いや、ちょっと朝バタバタしていて、弁当を家に忘れたみたいだ」

お昼休み、あたしたちはいつものメンバーで、お弁当をつつくために
教室の一角に陣取っていた。

「一生懸命作ったのに・・・」

「桜乃、本当にごめん」

「じゃあ、どうするの?食堂に行く?」

「それが、手持ちも少ないんだ」

「ん~、貸してやりたいけど、今日は俺も金欠だしなぁ」

椋梨の言葉に、みんなも申し訳なさそうに頷く。

一応あたしは持ってるけど・・・みんなの前での貸し借りは躊躇われた。

「兄さん・・・はい」

桜乃ちゃんが玉子焼きを摘んだ箸を新吾に近づける。

「えと・・・これは?」

「おすそわけ。あ~~~ん」

「・・・・・・」

「おおっ!これは愛妻・・・いえ愛妹弁当ですね!」

興奮するアンジェ。こうゆうシチュエーション、好きそうだもんねぇ。

「新吾、やっぱりお前は俺の敵だ」

「ふ、二人とも待ってくれよ。桜乃、兄妹でもそれはマズイって。
 か、間接キスだし」

「私は気にしない」

「俺は気にするって!」

「お前・・・なに妹に発情してるんだよ」

クズムシと呼んでた頃の目で見てやると、新吾は冷や汗をかいていた。

しかし、本当に桜乃ちゃんはいい子だよね。お前も見習えと、
ここにいないあいつに悪態をついておく。


「わたしもあげるね。はい、新吾くん」


「そっ、それはダメですぅ~~~~~!」


伸ばされた箸の先端のからあげにかじりつく。

「あ・・・」

あっけにとられるみう先輩。あたしは真っ赤になって新吾にくってかかった。

「お、お前も普通に食べようとしてるんじゃねぇっ!」

「し、してないよ!」

「お前はこれでも食ってろ!」

あたしのお弁当箱からミニハンバーグを摘んで新吾の口内に突っ込む。

「むぐぅっ!」

「あ・・・」

「へ?」

なぜかみんながあたしを見ていることに気づく。


「間接キス・・・」


「~~~~~~~~~っ!」


声にならない悲鳴をあげ、あたしの体温が急上昇する。

身体が熱くて、あたしはしどろもどろになって必死に言い訳を探す。

「こ、これは・・・その・・・」

しかしあたしは、アンジェが意地の悪い笑みを浮べるのを見逃さなかった。

「お噂通り、お二人はやはりお付き合いをされているのでしょうか?」

「はぁっ!?」

これには二人の声がシンクロした。

「アンジェ、全然応援させていただきます!」

「ちょ、ちょっと、何寝ぼけたこと言ってるのよ!」

思わずあたしと新吾が付き合う光景を想像する。

だ、ダメっ!顔がにやける・・・!

必死に自制し、あたしはアンジェの口を押さえる。

「余計なことを言うのはこの口かぁっ!」

「んぐ~~~~~!」

「まったく、騒がしいわね」

「俺は楽しくて好きだな~」

「勝手なことばかり言うなよ!」

騒々しいお昼休みはあっという間に過ぎていった。

「・・・・・・」

みう先輩が新吾をずっと見つめていたのは、気づかないふりをした。



放課後。ペットショップへ向かうため鞄を持って教室を出る。

「紗凪」

背後から声をかけられ足を止める。

「し、新吾?」

びっくりして声がうわずってしまった。

「な、何だよ?」

些細なことなのに、どうしてもドキドキしてしまう。

表に出ないよう、平静を努める。

「何だよは俺の台詞。用事があったんじゃないのか?」

「は?用事?」

そんな話をした記憶はない。もししていたら、忘れるはずがない。

「瀬名がそう言ってたけど」

あ、あいつ余計なことを。

「そんなの別にない・・・こともない、わね」

思い直す。これはチャンスかもしれない。

「あたしは今から動物たちのエサを買ってくる。新吾、お前にも
 荷物持ちとして同行させてやる」

ああ、本当にあたしは、素直じゃない。

でも、新吾と一緒にいられるなら理由なんてどうだっていい。

あたしは、新吾が人のお願いをそうそう断れるやつじゃないことを
知っているから。

「うん、わかった」

あたしはずるいと、そう思うんだ。



最近、一日が終わるのがすごく早い。

朝におはようって言ったのに、気づけばいつのまにか空は茜色。

購入したエサを部室に置いて、あたしたちは夕陽に赤く染め上げられた
通学路を並んで歩いていた。

「なぁ、明日ヒマ?」

「ん?まぁ、特に用事はないかな」

ずっと考えていたことを口に出す。

「明日、もしよかったら・・・あ、あたしの家に来ないか?」

「え・・・」

新吾は目を丸くして、あたしの提案が信じられないといった様子だ。

「か、勘違いするなよ。シンゴが、お前に会いたがっているからだ」

「あ、ああ、そっか」

苦しいかなと思ったが、納得してくれたようだ。

新吾は苦笑して、少し思案した後頷いた。

あたしの胸が、温かい気持ちで満たされてゆく。

「よ、よし。なら明日9時に校門で待ってろ」

「うん、了解」

楽しい1日になればいいと、心から願った。
  1. 2012/03/20(火) 00:47:24|
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