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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

戦極姫 二次創作 乱世咲華~岩屋城の戦い~ 第壱話

「申し上げます!島津勢、大軍を率いて当城に進軍中!その数、五万!」

もたらされた一報に、評定の場は静まり返る。

しかし、それは決して臆したからではない。

味方合わせて七百余という寡兵ながら、士気は十二分に高かった。

全ての将兵が、己の命を託すに値すると心酔する、無双の大将がいたからだ。

「ついに来るか。皆の者、覚悟は出来ているなっ!?」

「おおぅっ!」

彼女の檄に、将兵たちは城を揺らさんばかりの熱気で応える。

武将とは思えない、白く肌理の細かい肌。

簪をつけた長い髪は艶やかに流れ、凛とした気品を全身に湛えて、
真摯な光を宿した双眸で前を見据えている。

彼女の名は、高橋紹運。

没落してゆく大友家を見限らずに忠節を尽くす、義に篤い名将だ。

「島津よ、易々とこの城を落とせると思うな」


時は戦国、天正十四年(一五八六)。筑前は大宰府、岩屋城において、

史上に残る激烈な篭城戦が始まろうとしていた。



「どうして義姉上は私の願いを聞いてくれないのですか!?」

同時刻、岩屋の北西に位置する立花城で、立花宗茂は憔悴していた。

「篭城するのなら、この城の方が遥かに堅固なのに・・・!」

報告によれば、敵は五万の大軍という。

いくら紹運といえど、六十倍の敵勢では勝ち目があるはずもない。

この立花城に移ってほしいと何度も使いを送ったが、
紹運は決して首を縦に振らなかったのだ。

「落ち着きなさい、宗茂。城主が取り乱しては兵の士気に障ります」

「落ち着けるはずが・・・!」

大友宗麟への言葉を、宗茂は必死に飲み込んだ。
主にやつあたりの暴言は許されない。

「・・・申し訳ございません」

「構いません。宗茂、あなたなら紹運の本心がわかるでしょう。
 紹運は私たちのために、命懸けで時間を稼ごうとしてくれているのです。
 ならばあなたが今すべきことは、篭城の準備をすることに他なりません。
 兵達の士気を高め、大将として指揮することだけを考えなさい」

「しかし、このままでは義姉上が・・・」

宗麟は目を伏せる。紹運の気持ちも、宗茂の気持ちも痛いほどわかるからだ。

「義母上に続き、義姉上まで失ってしまったら、
 私はもう生きていけません・・・」

数ヶ月前、宗茂は義母・道雪を病で失った。

その悲しみはあまりに深く、折れかけた心を紹運と宗麟の励ましで
どうにか繋ぎとめたが、今だ宗茂の心に暗い影を落としていた。

「こんな時に義母上がご健在だったら、すぐに妙案を思いつくでしょう。
 私は自分の不甲斐なさが悔しくてなりません」

ぽろぽろと、宗茂の眦から涙が零れ落ちる。

その様子を見た宗麟は―――


宗茂の頬を、平手で強く打ち付けた。

「っ!?」

乾いた音が響き、宗茂の頬に痛みが走った。

宗茂は驚愕する。過去に宗麟に手を出されたことは、一度としてなかった。

「しっかりなさい、立花宗茂!いつまで二人に甘えているのですか!」

声を荒げる宗麟。そこに普段の彼女の姿はなかった。

「あなたは道雪から立花の家を継いだのでしょう!
 立花の名に、泥を塗るつもりですか!?」

それはまるで、鬼と呼ばれた道雪の如く―――

「思い出しなさい、宗茂。その脇差を紹運から渡された時のことを」

「・・・・・・」


それは、道雪が死去して一月ほど経った頃のこと。

岩屋の大広間にて、宗茂と紹運は二人きりで向かい合っていた。

「宗茂、そなたにこの刀を託す」

紹運は、一振りの脇差を宗茂に渡す。

「これは?」

「私が高橋の名跡を継いだ時、父上から賜ったものだ。名を長光という」

「そ、そんな大事なもの、私には受け取れません!」

慌てて戻そうとするが、紹運は拒み、宗茂を見据える。

「いや、私はそなたにこそ受け取ってほしいのだ。
 今のそなたにはそれだけの資格があると私は思っている」

「義姉上・・・」

「ただし、一つだけ誓ってもらうことがある」

紹運はそこで言葉を切り、


「この乱世、万が一にも私たちは敵味方に分かれるかもしれない。
 
 その時は宗茂。そなたが立花の先頭に立ち、この刀で私の首を取りに来い」


そう言い放った。

「な・・・何を仰るのですか!?」

宗茂が、自分の耳を疑ったのも無理はないだろう。

二人は義理とはいえ姉妹の絆で結ばれている。

その姉が、夢にも思わなかった言葉を妹に向けて発しているのだ。


「それが、一家の当主になるということだ。
 
 よって今日を限りに、義姉妹の縁を切る」


宗茂はひどく動揺する。
紹運は紛れもなく、本心を口にしていると直感したからだ。

「わ、私は・・・」

紹運は、間違ってはいないのだろう。

しかし宗茂は、どうしても賛同することができなかった。

「宗茂、私の目を見ろ」

紹運は宗茂の肩に手を置き、宗茂を引き寄せる。

紹運の両眼は強い輝きを宿し、そこには何も邪念がなく、
水面のような瞳に、宗茂は見とれていた。

「私たちは童子の頃から常に一緒だったな。私も過去を想うことがある。
 だが、人はいつか、前に進まなければならない時が来る。
 自分の道を、自分で切り開いていくんだ」
 
「義姉上・・・」

不意に、宗茂は涙を流していた。

「まったく。いつまで経っても泣き虫なのだな」

泣きじゃくる宗茂を、紹運は優しく包み込む。

「宗茂、自分の信じた道を歩け。

そなたが道を違えぬ限り、家臣たちは必ずついてきてくれる。

この先も苦難の連続だろうが、決してくじけるな」

「・・・・・・」

厳しくも温かい言葉が、宗茂の心に響く。

「忘れるな。例え戦場であいまみえることになっても、
 
私の心はそなたと共にある。姉上も、空よりそなたを見守っている。
 
そなたはもう、せんではない。立花宗茂という立派な武将だ。
 
信念を失わず、守るべきものを守るために、一生懸命生きていくのだぞ」

宗茂はもう、泣いていなかった。

涙を拭い、凛とした眼差しで言葉を紡ぎだす。

「約束します。命の限り、信義を貫き通すと。あね・・・紹運殿」

紹運は頷き、微笑を湛えていた。


―――どうして私は、こんなにも愚かなのだろう。

紹運殿を心配するあまり、大切な約束を忘れるなんて。

「盗み聞きをしてごめんなさい。ですが、私はあなた達の矜持に
 感服しました。あの時の気持ちは、失ってはいないでしょう?」

そうだ、私が今すべきことは泣き喚くことではない。

紹運殿を信じ、私に命を預けてくれる家臣たちを信じることだ。

「ありがとうございます。ようやく目が覚めました」


義母上が生涯を尽くした主のために。


紹運殿が今まさに貫く信義のために。


私は、私の成すべきことをしよう。


私は立花宗茂。この城の、城主だ。


「すぐに篭城の準備を指揮します」

宗麟は頼もしげに宗茂を見、己の役目を告げる。

「私は上方に上り、羽柴公に嘆願してきます。
 数千の兵をお借りして 必ず戻ってきます。その間は、頼みましたよ」

「御意にございます!」

刻々と、決戦の時が近づいていた。
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  1. 2013/02/20(水) 01:15:33|
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戦極姫 二次創作 乱世咲華~岩屋城の戦い~ 第弐話

岩屋城では紹運の指示の下、大量の石や岩、
大木などが城内や砦に運び込まれている。

「敵は遠くないうちにやってくる。急げよ」

無論、紹運自身も精力的に動いている。

圧倒的不利なのは百も承知。

それでも、万全の準備を以って敢然と立ち向かうだけだ。

「殿、何故立花城に移らないのです?
 篭城ならあちらのほうが遥かに適任でしょう」

家臣の一人が紹運に伺ったのはそんな折だった。

「その話はもう終わったはずだ。それとも、あまりの兵力差に臆したか?」

「めっそうもございません。死を恐れていたら、とうに城を出ています」

「ならば口ではなく手を動かせ。
 一縷の望みでも、死中に活路を見出すためにな」

「・・・はっ」

誰もが無謀と思う篭城だが、紹運には思惑があった。

確かに、立花城に紹運と宗茂が篭れば、
兵の数もまとまり長く時間を稼げるだろう。

だが、それは同時に、立花城を落とされたら一巻の終わりとも言えた。

兵力の差は覆しがたく、本国の援軍も迫ってきているため
敵も本腰を入れて一気呵成に攻略してくるだろう。

紹運は、できるだけ寡兵で岩屋に篭り、敵を引き付けることが最善と考えた。

敵勢は数こそ多いが他国籍の寄り合いのため、士気も高くはない。

必ず、数を過信して油断するはずだ。

大打撃を与えることができれば、立花城への攻撃も鈍化するだろう。

紹運はそう踏んでいた。

何より―――


紹運は、宗茂を守りたかった。


宗茂には、宗麟と共に生き延びてほしかった。


そのためなら、この命、いくらでも捧げよう。


悲壮とも言える、強き覚悟が紹運を突き動かしていた。



篭城の戦術、敵の進軍経路の予測、物資・兵糧確保の手順・・・

夜の帳が下りるまで宗茂たちは意見を交わし、宗茂は大広間へ向かった。

今後の方針を伝えるためだ。

既に家臣一同が並び、当主を待っている。

そこで宗茂は、ふと違和感を覚えた。

何名かの家臣たちが、まるで何か、意を決したかのように剃髪しているのだ。

気になったものの、家臣を見回し、宗茂が口を開こうとした時だった。

「殿、我ら一世一代の嘆願があります」

真剣な面持ちで声を上げたのは、重臣の吉田右京だった。

「右京殿・・・?」

「耳川での戦い以来、多くの将々が大友を離れております。
 
 明日をも知れない乱世と言えども、主君への大恩を忘れるのは愚の骨頂。

 国へ報いるには、義を措いて他にございません。 

 正に今、その身命を賭して忠義を貫こうとする紹運殿の下へ
 
 我らを向かわせてくださいませ!」


右京の声が、大広間に響き渡った。


―――宗茂はこの瞬間を、生涯忘れないことになる。


右京をきっかけに、家臣たちが次々と援軍を名乗り出たのだ。


宗茂は胸に熱く込み上げるものを感じながら、当主として引き止める。

「・・・それは、聞き入れられません」

宗茂も援軍を送りたかったが、絶望的な状況にある
岩屋へ行けという命令は、命を捨てろと命じるのと同義だ。

紹運を助けたいのは宗茂の本心だったが、それは当主としてでなく
宗茂個人の想いが強く、家臣たちを巻き込むのは酷だろう。

また、己が養子であることも宗茂に引け目を感じさせていた。

「この城に篭り、羽柴殿の援軍を待つのが最善です。わかってください」

そして家臣たちは、そんな宗茂の胸の内を知っていた。


道雪と共に、戦場を駆け抜けてきた宗茂をずっと見てきたのだから。


「我ら立花の名の下に、義によって死にたいと存じます。

 どうか、よろしくお願いします・・・!」


「・・・・・・」

感極まった宗茂は、静かに涙を流す。

もはや彼らを止める術はなく、またその必要もなく、
宗茂はただ、泣き続けた。


その夜、遅くまで惜別の儀が執り行われた。

夜が明け、出発の時。

宗茂はなるべく身寄りのない者がと願い、
家臣たちもそれに応えて計、三十五名が集まった。

これが今生の別れになるだろう、誰もがそう思っていた。

宗茂は毅然した態度で言い放つ。

「例え武運つたなく命尽きようとも、
 
 皆の顔と名は生涯忘れないと約束します!
 
 立花の名を汚さないよう、力の限り戦ってください!」

勇ましい宗茂の姿に、将兵はかつての主の姿を見た。

「はっ!」

決意を胸に秘め、全身を気迫で覆い、将兵たちが岩屋城へ向かっていく。

宗茂は遠ざかっていく彼らの背中を、いつまでも見つめていた。



にわかに表が騒がしくなり、紹運はついに敵襲かと身構えたが、
どうやら違うらしい。

「何事だ?」

「立花城より、援軍にございます!」

「・・・今行く」


城門の前に数十の兵を確認し、紹運は歩み寄る。

「これはどういうことだ、吉田殿?」

「微力ながら共に戦いたくはせ参じました」

「宗茂殿の命令か?」

「自らの志願によるものです」

「・・・ひとまず礼を言う。しかしその必要はない。
 立花城へ戻って、来る島津に備えよ」

「決して物見遊山で赴いたのではありません。
 我ら既に覚悟はできて おります。
 帰れと仰るならば、この場で腹を切るまで」

兵たちが一斉に抜刀して、刀を腹部に押し当てる。

その様を見てしまっては、流石の紹運も折れずにはいられなかった。

彼らのような忠臣と死ぬのも悪くない、と。

「あいわかった!改めて御礼申し上げる!
 私たちは一蓮托生、最期まで運命を共にしよう!」


―――姉上、貴方のご遺志は受け継がれています。


どうか、私たちを見守っていてください。


道雪と己の生き様が間違ってなかったことを知り、
紹運の胸の内は草原を吹き抜ける風のように涼やかだった。
  1. 2013/02/20(水) 01:17:35|
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戦極姫 二次創作 乱世咲華~岩屋城の戦い~ 第参話

北上を続ける島津軍を率いるのは、島津義弘と妹の歳久だ。

岩屋城を落とせば九州統一は目前だが、義弘は一抹の懸念を抱いていた。

「たかだか七百で篭城とは、何を考えてるんだろうな」

「自暴自棄になっとるだけじゃろう。
 愚鈍な主君ほど、持ちたくないものはないのう」

「まったくだ、はっはっは」

士気が、低いのである。

日向、肥前、肥後など他国の兵士たちも多く集まって結成された軍勢は
まとまりにかけ、本来の力を出せないのではないか。

「としちゃん、どう思う?」

「大丈夫です。きっとすぐに落とせます。それよりも・・・」

歳久は此度の戦より、後に待ち受ける羽柴勢に頭を悩ませていた。

皆が、何の苦もなく勝って当然と考えている。

しかし、義弘だけは嫌な予感を拭えずにはいられなかった。

それは鬼島津と恐れられる、義弘の野生のカンが教えたものだった。

そして結果を先に言えば、その予感は的中していた。


日の本一の結束を誇る主従の恐ろしさを、

島津勢は心の底から思い知ることになる。



一方、大友宗麟は数名のお供を引きつれて、馬を走らせ大阪を目指していた。

昼も夜もなく走り続けているため疲れがたまっているが、
悠長に休んでいる時間はなかった。

「お願い・・・間に合って・・・」

沈痛な面持ちで宗麟は呟いた。

大友家衰退のきっかけとなった耳川の敗北は、
宗麟に原因の一端があった。

キリスト教を妄信し、神社や寺院の破壊を繰り返した結果
家臣たちは離れていき、耳川では島津勢に付いてしまったのだ。

また、政を省みなくなったことも追い討ちをかけた。

日々の暮らしに困窮した町民たちが賊に身をやつし、
領内の治安は荒れすさんだ。

それでも宗麟を見限らなかった家臣もいたが、
多くの有能な将が耳川で戦死するという最悪の結果を招いた。

その時になってようやく目が覚め改心した宗麟だったが
既に遅く、旧臣たちが戻ってくることはなかった。

悲嘆にくれる宗麟を立ち直らせたのは、道雪と紹運だった。

宗麟を想い、厳罰覚悟で諫言をしてくれた二人に
全く耳を貸さなかった自分を恥じた。

二人の支えもあり、ひたすらに汗を流してようやく
街がかつての賑わいを取り戻した頃、心労が溜まった道雪が
病に倒れてしまったのだ。


「道雪・・・私はあなたになんと詫びたらいいのか・・・」

人払いがされた道雪の部屋。

もはや車椅子に座る体力もなく、道雪はずっと寝たきりの状態でいる。

医者に見せたところ、既に末期の病状で手の施しようがないらしい。

前兆はあったはずだが、病をおして道雪は己や民のために
身を粉にして働いてくれた。

それを思うと、道雪をその様な目に遭わせた己が腹立たしかった。

「家臣が主君のために働くのは・・・当然のことでしょう」

やせ細った身体が月明かりに照らされている。

「私のほうこそ・・・申し訳ございません。
 こんな時に動けない不義を・・・お許しください」

「いいのです。いいのですよ、道雪」

声にも力なく、その時が遠くないことを嫌でも思い知らされる。

「今はしっかり休んで、身体を癒してください」

道雪は己の病状を知っている。

それでも宗麟はそう言わずにはいられなかった。

「宗茂の様子は・・・どうですか?」

「疲れたのでしょう、ぐっすり眠っています」

「あの子には悪いことをします・・・・」

道雪の願いで、二人には道雪の病状を話していない。

紹運は薄々気づいているようだが、宗茂は知らないだろう。

いや、本当は気づいているが、認めたくないのかもしれない。

「宗麟様にも・・・天下統一を果たせず、先立つ不幸をお許しください」

「やめなさい、道雪。病は気からと言います。
 鬼道雪と畏怖されたあなたが弱音なんてらしくないですよ」

「ふふ・・・望んで頂戴したのではないのですけど。
 宗麟様、お手をお借りしてもよろしいでしょうか?」

彼女を支え、上半身を起こさせる。その身体は、あまりに軽く・・・

「ごほっ・・・けほっ・・・!」 激しくむせ返る道雪。

「道雪・・・!」

「大丈夫・・・です。今宵は月が綺麗ですね」

雲一つない満月。今頃兎たちも餅をついているのだろうか。

「不本意ではありますが・・・鬼道雪として最後のお勤めを致しましょう」

道雪の目が細まる。

「私が死ねば・・・島津が好機と見て侵攻してくるでしょう。
 よってしばらくは私の死を隠し、その間に羽柴殿と同盟を結んでください」

「羽柴殿と?」

「織田信長亡き今・・・こほっ、羽柴殿が天の覇を唱えようとしています。
 時流すらも味方に付け、四国も降ってはもう誰も止められないでしょう。
 大友も同様、豊前・豊後を攻められたら成す術がありません。
 領地を守るには、同盟を請うべきです」

「・・・わかりました」 忘れないよう、胸に刻み付ける。

道雪は息をつき、月夜に微笑んだ。

「これで、私の役目も終わりです」

道雪の身体から力が抜け、倒れこむ道雪を宗麟はどうにか受け止めた。

ゆっくりと道雪を横たわせる。

「太平の世を・・・この目で見て見たかった・・・」

道雪の瞳から一筋の涙が零れる。

「道雪・・・鬼の目にも涙ですか?」

口をついたのは軽口だった。自然に、いつもの様に。

道雪は虚をつかれたように呆然とするものの、

「ふふ・・・世が世なら、花も恥らう私を殿方は放ってくれないでしょう」

珍しく、道雪も冗談を言う。

「いえ、不器用なあなたのことです。殿方に話しかけられても
 固まってしまって、何もできない様子が目に浮かびます」

二人は笑いあう。ずいぶんと懐かしいやりとり。

それからしばらく、昔話に花が咲いた。

二人が初めて会った時のこと。

男性に点数をつけようとして道雪にこっぴどくしかられたこと。

思い出を慈しむように一つ、また一つ。

やがて疲れたのだろう、道雪がうとうとまどろみ始める。

「もう休みましょうか」

「はい・・・」

宗麟は道雪の白い右手を、両手で優しく包み込んだ。


「あなたがいなければ、私はここまで来れませんでした。ありがとう、道雪。

 あなたは唯一無二の、私の自慢の家臣です」


主の真摯な想いが、道雪にまた感涙を流させる。


「ありがたき・・・幸せにございます・・・」


道雪は至福をかみ締める。


この御方に仕えることができて、本当によかった、と。



翌日―――


宗麟と紹運、宗茂に見取られながら。


立花道雪は、静かに息を引き取った。


母の腕に抱かれて眠る赤子のような、安らかな死に顔だった。


宗麟たちは、胸に穴が開いたような喪失感を覚えた。

遺言に従い、葬儀は密葬で行われ、紹運は気丈に振舞い、
宗茂はひたすらに泣き続けた。

悲しみも癒えないうちに宗麟は上方へ上り、秀吉と同盟を締結した。

難航も覚悟したが、ことのほか順調に進んだのは嬉しい誤算だった。

後で聞いたことだが、向こうの軍師が進言してくれたおかげらしい。

憂いの一つを断ち、宗麟は改めて道雪の葬儀を挙げた。

参列者の誰もが涙を流し、多くの弔辞が敵方からも寄せられた。

その中に島津も含まれていたのは、宗麟を見限らず
その生涯を捧げた武人に対する、敬意を表したのかもしれない。

そして今、島津によって紹運たちが窮地に立たされている。

「神よ・・・彼女たちをお守りください・・・」

祈りを捧げながら、東へと馬を走らせて行く。
  1. 2013/02/20(水) 01:21:58|
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戦極姫 二次創作 乱世咲華~岩屋城の戦い~ 第四話

七月十三日。


―――島津軍、来る。


城下を囲む幾万の兵を前に、紹運は不敵な笑みを見せる。

「なかなかに壮観だな。寄せ手の大将は誰だ?」

「島津貴久が次女、義弘とその妹、歳久のようです」

「鬼島津と智謀の歳久か。相手にとって不足なし、だな」

「殿、島津方より書状です」

「内容など見なくてもわかるが・・・目を通しておくか」

紹運の予想どうり、降伏を勧告するものだった。

さもなくば、明日からは攻撃も辞さないとのことだ。

島津の腹積もりは分かっている。

早々に紹運たちを降らせ、いざとなれば戦場の最前線に送り込むのだろう。

しかし、そうは問屋が卸さないというものである。

「私たちの愛する土地を土足で荒らしながら、降伏しろとは片腹痛い。
 断固拒否する、突き返せ!」

既に全員が討ち死にを覚悟している。降伏など、思いもよらない。

ところで島津は、どちらでも良いと考えた。

降らないなら、攻め落とす。それだけのことだ。

決戦は翌日に持ち越された。



七月十四日


決戦の火ぶたは、正午に切って落とされた。

「よし、皆行けぇっ!!」

大地を蹴り上げながら、地響きを立てて島津軍が突撃してくる。

「いいか、初手が肝心だ!引き付けて弾丸の雨を降らせ!」

凄まじい轟音が鳴り、一斉に火を噴いた銃弾が
殺到する島津軍をなぎ倒してゆく。

「ひるむな!一気に突っ込め!」

運良く被弾を逃れれば、続いて無数の矢が飛んでくる。

全身を矢で貫かれ、絶命する者が相次いだ。

「だ、駄目です!攻撃が激しく近寄れません!」

「何を言うか!こちらも銃で応戦するんだ!」

両軍の銃撃戦が始まった。しかし、次々と島津軍が打ち抜かれてゆく。

「くっ、手こずらせおって!やむをえん、迂回するぞ!」



「向こうは始まったようだな。俺たちも行くぞ!」

馬の腹を蹴り、騎馬隊が突進する。

「示し合わせ通りにやるぞ。焦るなよ」

砦では、敵を誘引するためあえて無抵抗を装っていた。

数を頼りに攻め込む兵たちを見やり、十分に引き寄せた頃。

「機は熟せり!縄を切れ!」

巨木を固定していた縄を切り、巨木が島津目掛けて落下してゆく。

「馬に乗っていては、機敏な動きはできまいっ!」

人馬共に押し潰され、圧死する者が続出する。

それだけでは終わらない。

「石を投げろ!つぶての嵐をくれてやれ!」

高地から投ぜられた石は十分な殺傷能力を持つ。

兵の顔面に直撃し、骨を砕いては血反吐を吐かせていった。

「おのれ・・・退け!退けっ!」

初日の攻防は、城方の圧勝に終わった。



七月十五日


開戦の報が宗茂にもたらされる。

「戦況は?」

「紹運殿以下、懸命に奮戦中。大軍にも引けをとらぬとのことです」

「・・・動きがあればすぐに報告をしてください」

信心深い宗茂ではないが、今は神にも祈るような心地で
南東の空を見上げる。

「ご武運を・・・」


岩屋城では、激戦が続いていた。

銃声が鳴り止むことは無く、兵たちの悲鳴が止むことも無く。

夥しい数の兵が、黄泉の国へ旅立っていった。

特に島津方の被害が甚大なため、歳久は焦っていた。

兵を休むことなく送り続けるが、ことごとく返り討ちにあっている。

「としちゃん、一旦兵を退いて体勢を立て直したほうがよくないかな?」

「・・・もたもたしていたら敵の援軍が来るます」

歳久はいつになく焦っていた。

そこには、圧倒的兵力差から生まれる油断もあったのだろう。

この篭城戦において、島津は二つの失態を演じている。

一つは高橋勢が寡兵のためにすぐ降伏、あるいは落城すると楽観視し、
攻城兵器を持ち込んでいなかったこと。

もう一つは、高橋紹運という将の器の大きさを見誤ったことだ。

「申し上げます!佐々川殿、山縣殿討ち死に!」

ここにきて、将までも倒れ始めている。

ようやく、歳久は己の不明を詫びた。

「・・・すみません」

「いいよ。姉妹でしょ」

義弘は、勇猛果敢なだけでなく、情も重んじる武人だ。

「後で皆に謝っとこうね」

既に相手を強敵と認め、高揚を抑えられずにいた。

「高橋紹運か・・・早く戦ってみたいね」

背負った槍が陽光に照らされ、鋭い先端がその時を待ちわびて輝いていた。


それからしばらく、膠着状態が続いた。

島津は攻め続けるが、決定打を与えるには至らなかった。

高橋軍も、やはり多勢に無勢、疲労が見え始め戦死者が増え続けた。

そして、島津はただ闇雲に攻めているのではなかった。


七月二十日


この日、城内は静まり返っていた。

覚悟はしていたが、現実に突きつけられると動揺は大きい。

「水の手を切られたか・・・」

篭城では、水の確保は何よりも重要だ。

まさに生命線なため、兵と罠を配置していたが持ちこたえられなかったらしい。

「重症を負いながらもかろうじて戻ってきた兵が、近くの村の老婆に
 褒美を渡して案内させたと島津が話すのを聞いたそうです」

「何てことを・・・!」

「よせ。今更詮無いことだ。それより水はあとどれくらい持つ?」

「良くて・・・四日かと」

「・・・そうか」

にわかに雨が降り出したのはそんな折だった。

見る見る勢いを増し、城を叩きつけている。

「・・・まだ天は私たちを見捨ててはいない!」

兵を分け、

「そなたたちは水を汲める物を外へ出せ。矢には気をつけろ。
 そなたたちは私についてこい!」


島津軍は豪雨に足音を消して外郭へ近づいていた。

水の手を切り、敵が戦意を喪失している今が好機と睨んだ。


「今だ!かかれっ!」


物陰より現れた高橋の兵たちが島津軍へ突撃していく。

雨が気配を消したのは、島津方だけではなかった。

突然の猛攻に兵たちは慄き、浮き足立つ。

その中で奮戦する者がいた。 義弘だ。

己の背丈よりも長い槍を軽々と使いこなし、
敵を突いてはまた新たな獲物を屠っている。

「あれが鬼島津か・・・」

紹運は獅子奮迅の活躍を見せる義弘を一瞥し、
義弘も視界に紹運を捉えた。

「高橋紹運・・・」

猛将の間に通じるものもあるはずだが、生憎と敵同士。

二人はすぐに視線を外した。

「ここまでだ、退くぞ!」 紹運たちが引き揚げてゆく。

「義弘様、追いかけましょう!」

「待って、これは罠よ!」

義弘は声を張り上げるが、豪雨にかきけされて最前線の兵には届かなかった。

櫓から現れた兵が矢を放ち、島津の兵が倒れていく。

「くっ・・・!」 義弘は唇をかみ締めた。

水の手を切られても、高橋勢の士気は衰えていなかった。
  1. 2013/02/20(水) 01:25:36|
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戦極姫 二次創作 乱世咲華~岩屋城の戦い~ 第伍話

大友宗麟は、窮地に陥っていた。

「へっへ、ここを通りたかったら金目の物を出してもらおうか」

運悪く、山賊と遭遇してしまったのだ。

「あなたたちと関わっている暇はありません。そこを退きなさい」

「ああ?てめぇら、自分の立場がわかってんのか?」

「わかってないのはあなたがたの方です」

宗麟は馬上から弓を構える。

「これは脅しではありません。邪魔をするのならば容赦しませんよ」

普段の宗麟なら、山賊とはいえ無理に事を荒立てはしない。

しかし、今は時間が惜しかった。

「な、何だ、やろうってのか?」

山賊たちが短刀を握り、一触即発の状態となる。


「そこまでにしましょうか、各々方」


いつの間に現れたのだろう。飄々とした若い男性が笑みを作っている。

「あなたは・・・」  宗麟はその男に見覚えがあった。

「誰だてめぇっ!」

「名乗るほど高尚な者ではありません。しかし揉め事のご様子、
 これを見ては放っておけない性分でして」

「関係ねぇやつはすっこんでろ!」

「これはご無体な。確かに私は通りすがりの者です。
 が、下賤の輩に指図されるほど落ちぶれているつもりもありません」

「ああ?」

「消え去るのはあなた方のほうです。山賊如きが私の邪魔をしないで頂きたい」

「・・・この野郎!」

賊の親分格が、男に向かって短刀を振るう。

だが、大振りの隙だらけ。

男はひらりとかわし、親分の足を引っ掛けて転倒させ、
その顔面目掛けて渾身の拳を叩き込んだ。

「ぐぇっ!」 鼻と頬の骨が陥没する感覚。

「お、親分・・・!」

男は残党を睨みつけ、

「我が身は軍師。しかしお前たち程度に遅れを取りはしない!」

その気迫に圧倒され、何と子分たちは親分を置いて逃走する。

「んなっ・・・はひやはへ、へへーら!」

親分も尻尾を巻いて逃げていった。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます。おかげ様で助かりました」

「あんな連中でも、平時に他国で殺傷沙汰はご法度。
 大変な問題になるところでしたよ」

「でもそれはあなたも・・・」

「そうですね。だからどうかご内密に」

「ええ、わかりました」

いや、今はそれどころではなかった。

肝心なことを聞かなければならない。

「あなたがここにいるということは・・・」

男は頷いて、後方を指差した。

その先を見た宗麟の顔に喜色が広がっていく。


「秀吉殿の命により、我ら三千の先遣隊が参りました」


七月二十五日

今日も、表では激戦が行われている。

紹運は本丸で負傷兵の手当てをしていた。

「うっ・・・くっ」

この者は既に両腕を打ち抜かれている。

神経を損傷しており、恐らく腕が上がることはもうないだろう。

「よく戦ったな。しばらく休め」

だが、兵の瞳に光が宿る。


「腕は動かなくても、足は動きます。足が動けば・・・盾にはなれる!」


兵が突如立ち上がり、駆け出していく。


「待て、どこへ行く!?」

口走って、それが間抜けな問いであることに気づく。

「・・・すまない」


既にどれほどの血が流れただろう。

物言わぬ夥しい死者の数が、戦の壮絶さを物語る。

両軍とも既に満身創痍。

特に、いつ終わるともしれない激戦に、島津方は辟易していた。

その島津本陣では軍議が開かれている。

「疲れているのは相手も同じ。総攻撃をかけるべきです」とは、
歳久の案だ。

「犠牲者は免れませんが、このままいたずらに攻め続けるより
 被害は少なくすむはずです。何より・・・時間をとられすぎました」

気づけば開戦から十と二日。これほどの苦戦は、完全な誤算だった。

「いつ羽柴の援軍が来るかわかりません。もう一刻の猶予もありません。
 皆、異論はありませんか?」

しばらくの沈黙の後。口を開いたのは、新納蔵人という男だった。

「恐れながら、私に考えがあります」

「それは?」

「改めて、紹運殿に降伏の勧告をするのです。
 私にその一任をお任せ願えませんでしょうか?」

不意に場がざわつく。今更何を言うか、と。

「紹運が聞いてくれるとはとても思えませんが」

「あれも人の娘。そろそろ心も折れかけているはずです。
 こちらとしても、兵を失わずに済む方法があるなら
 それを模索すべきでございましょう。あのような猛将を
 此処で失うのは実に惜しく、味方につけることができれば百人力かと」
 
「・・・・・・」

歳久はしばらく思案し、

「・・・わかりました。あなたに一任します」

「はっ!」
  1. 2013/02/20(水) 01:28:44|
  2. 戦極姫SS(完結)
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