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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

アイスクリイム

甘くて、冷たくて、酸っぱい。


私の恋は、アイスクリイム。


雪のように儚いそれは、触れれば簡単に消えてしまいそうで。


こんな気持ちは初めてで、どうすればいいかわからなくて。


私はずっと、自分の心に蓋をしていました。


溶けないアイスクリイムなんてないって、知っていたからです。



でもね。


今はちょっとだけ、信じていいかなって思うんです。




その日、頬を流れる汗をぬぐいながら、雲一つない真っ青な空の下、
私は真っ暗な気持ちで坂を上っていました。

「まったく・・・どうして私がこんな目に・・・」

わかってます。解答欄を全部埋めたのに、名前を書き忘れた私が悪いのです。

それでも、ですよ?

「何で二週間も補習を受けなくてはいけないのですか」

せっかくの夏休みが台無しです。

「泣きたいです・・・」

右手に持った溶けかけのアイスクリイムをいただきます。
口内に広がる甘酸っぱさに、涙の味が混ざっているような気がします。

「きゃっ」

背中に何かがぶつかり、そのはずみで転倒してしまいました。

べちゃっ!耳に気持ち悪い音が届き、胸に冷たい感触が広がっていきます。

ま、まさか・・・胸元を見るため身体を浮かします。

「・・・ぐすっ」 本当に涙がこぼれてきました。

白いブラウスが桃色に染まっています。

思いっきりアイスクリイムを潰してしまったのです。

これはもう、洗濯しても完全には落ちないかもしれません。

「何するんですか」

身体を起こして、私にぶつかってきた人を睨みつけます。

「わ、悪い。大丈夫か?」

その少年には見覚えがありました。一週間ほど前に
私のクラスに転入してきた七原くんです。

「大丈夫じゃないです。あなたのせいで服が汚れてしまいました」

「いや、本当にごめん。補習に遅れそうでさ、焦ってたんだ」

そうでした、補習が待っていたのでした・・・

踏んだり蹴ったり、今日は厄日でしょうか。

「もういいです。こんな格好じゃ学園に行けないので私はボイコットします」

「は?」

「私は100点なんです。答案用紙は・・・点でしたけど、
 名前を書いていればちゃんと100満点でした。
 そんな私が補習を受ける必要はないのです」

「すごく子どもっぽい屁理屈だな」

図星なので何も言い返すことができません。

「俺ん家すぐそこだから、その服洗っちまおう」

「・・・別にいいです。急いでいるんでしょう、
 早く行かないと遅刻しますよ」

「でも、ええと、上条・・・だよな。お前も補習なんだろ、一緒に行こうぜ」

「その理由が見つかりません」

「つれないこと言うなよ。二人で行けば怒られるのも半分で済むじゃん」

「・・・なるほど、一理あります」

私の話術を駆使して彼に遅刻の全責任を押し付けてやります。ふふん。

「こっちだ、ついてきて」



彼の住居はマンションの角の一室でした。

部屋には男の子らしく最低限のものしか置かれておらず
隅の方にダンボールが重ねられています。

「一人暮らしなんですか?」

「いや、親の都合がつかなくて俺だけ先に引っ越してきたんだ」

彼がクローゼットから取り出したものは、学園指定のジャージでした。

「・・・最悪です」

「一人っ子の俺が女の子の服を持ってたらそれこそ最低だろ」

しぶしぶ受け取り、洗面所へ消えます。

「覗いたらひどい目にあわせてやりますからね」

「はいはい」



洗濯したブラウスをベランダに干し、私と七原くんは
二人乗りした自転車で学園へ向かいます。

「私の服を汚した罰です。しっかりこいでください」

「つーか、同級生なのになんで敬語なんだ?」

「・・・そう教育されてきたのですよ」

私の両親は優しいのですが、礼儀には人一倍厳しく、
私も作法を幼い頃から叩き込まれてきました。

しかし、生来よりポカを多くやらかす私には向いていなかったらしく、
屈折したものがあり、それが溜まって今の私になった面もあるのですが。

「しっかり掴まっとけよ」

砂利道に入り、自転車がガタガタと揺れます。

「きゃっ・・・」

彼のお腹に回した腕に力を込め、身体を密着させます。

細身に見えた彼の身体は意外とたくましく、男の子なのだと実感します。

そういえ、男の子とこんなにくっ付いたのは初めてかもしれません。

何だかドキドキしてしまいます。

「上条は勉強できるんだよな。俺に教えてくれよ」

「先日の試験、良くなかったのですか?」

「それがさ、こっちの学校は前のとこより授業が進んでるんだよ。
 編入試験は何とかなったけど、このままじゃ置いていかれそうだからな。
 補習も自主的に参加したんだ」

「・・・真面目なんですね」

「まぁ、これからクラスメイトと仲良くなろうって時に夏休みに
 突入しちまって、遊ぶ友達がいないってこともあるんだけどな」

「あ、あの、それなら私と・・・」

「え?」

「な、何でもないです」

結局、言うことができませんでした。

ですが、胸の高鳴りは今も続いています。



「お前たち、補習すら遅刻するとはいい度胸だな」

仁王立ちした先生の貼り付けた笑みが怖ろしいです。

「先生、実は上条の遅刻は俺のせいなんです」

「何だと?」

「ほら、俺ってこっちに引っ越してきたばかりじゃないですか。
 まだ不慣れで、無理を言って案内してもらんたんすよ」

「それくらい、補習の後でもできるだろう」

「俺ってけっこう方向音痴なんですよ。それこそ学校の道順もおぼつかない
 くらいに。だから付き合ってくれた上条のことは多めに見てやってください」

「・・・まぁ、そういうことなら。しかしお前は倍増だぞ」

「うぃっす」

「・・・・・・」


机をくっつけて七原君と向き合いながら、机の上のプリントに
ペンを走らせます。

「嘘は、いけないんですよ」

「うん?」

「さっき先生をごまかしたじゃないですか」

「固いこと言うなよ。おかげで上条は追試を免れたんだからさ」

「・・・ありがとうなんて、言わないんですからね」

素直じゃない、私です。



それから私たちは、たくさんの時間を二人で過ごしました。

気がつけば補習なんかあっという間に終わって、

海で遊んだり、夏祭りに出かけたり、何もかもが初めてのドキドキでした。


いつもは好きじゃない夏だけど・・・今年はもう少し、長くてもいいなって。


そう思わせてくれる、まるで一瞬の花火のような日々でした。


そして・・・


「そろそろ夏休みも終わりだな」

「早かったです・・・」

満天の星空の下、川原の土手に寝転がります。

瞬く星々が夜空という闇に広がる希望のようで、
地上を照らす月明かりはキラキラと水面に反射してまばゆくて。

虫達の合唱も耳に心地よく、私たちを包みこんでくれます。

「学園が始まったら、いいかげん友達作りたいな」

「七原君なら、きっとできると思います。私が保証します」

・・・自分で言っておきながら、恥ずかしい台詞に赤面します。

しかし、私はふと、ある恐怖にかられました。

それは、夏の終わりとともに、この関係も終わってしまいそうな不安。

元々が、アクシデントから始まった出会いでした。


いつかは溶けてしまうアイスクリイム―――


それが私たちなのかもしれません。


「ありがとな」

「え?」

彼の横顔を見つめます。

笑っているのでしょうか。

「上条のおかげで楽しかったよ」

「・・・・・・」

「学園始まっても、またよろしくな」


―――ああ、本当に不思議です。

どうして、彼の言葉にドキドキが止まらないのでしょうか。

白いブラウスを染めたアイスクリイムのように、
私の心のキャンパスに新しい色が加えられようとしています。

そして私は、その薄紅色の絵の具の名前を知っています。

今まで気づかなかったこと。

ううん、気づかないように目を背けていたこと。


アイスクリイムは、いつか溶けてしまうものだから。


怖くて、寂しくて、知らないフリ・・・してみただけなんだと。


私は彼の手に自分の手を重ねます。

輝く星には届かなくても、彼の指なら掴めます。

このまま気の置けない二人でいたい気持ちと、

その先へ進展したい気持ち。


どちらも私の本心だから、今はただ、難しいことはお星様に預けて。


私はまた、大好きなアイスクリイムをいただきます。


こんな風に恋に落ちるはずじゃなかったと、じれったさが募るけど。


溶けないアイスクリイムは、きっとあるから。


私は私、自分らしく――――


あなたのこと、恋してみようかな。


――――――――――――――――――――――――

原曲  「アイスクリイム」

作詞・作曲 梶浦由記   歌 千葉紗子




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  1. 2012/08/26(日) 00:13:11|
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