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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

ダ・カーポⅡ 二次創作 アイシアSS~もう一度ここから~

「転校生?」

「うむ。非公式新聞部が入手した情報だ。明日俺たちのクラスに来るぞ」

昼休み、いつもの面子で弁当をつついていた俺たちは、
たわいのない話に花を咲かせていた。

「マジかっ!そいつは男か、女か!?」

渉が目を輝かせ、机から身を乗り出す。

「喜べ板橋。お前の期待どうり、女生徒だ。
 それも、なかなかの美貌の持ち主と聞く」

「っしゃぁ!」

オーバーにも、渉はガッツポーズしてみせた。

「そんなに嬉しいか?」

「ラブルジョワのお前にはわかんねーよっ!」

なぜか睨みつけられてしまった。

というか、お前は小恋一筋じゃないのか?

「無駄な期待は止めなさい。現実を知った時、悲しくなるから」

「そうそう、スケベな渉くんなんて誰も好きにならないよ」

容赦ない言葉のナイフ。渉はがっくしと机の上に崩れ落ちる。

「でも、転校生かぁ。友達になれたらいいいなぁ」

小恋がにっこりと笑う。明るくて面倒見のいい彼女だから、
きっとすぐに打ち解けることができるだろう。

「あら、ずいぶんと余裕ね?あんたの恋のライバルになるかもしれないのに」

「ふぇえっ!?」

「え、小恋って好きなやつがいるのか?」

「そ、そんなのいないよ~!」

真っ赤な顔で否定する。彼女の隣では、何故か杏と茜が肩をすくめていた。

「っと、そろそろ時間だな。じゃあまた後で」

「ああ」

くっつけていた机を戻し、渉たちが自分の席に戻っていった。



風を切りながら、桜並木を駆け抜ける。

胸が高鳴っているのは、走っているからじゃなくて。

少しでも早く、あの娘に逢いたいからだ。

芳乃邸で待ってくれているであろう、俺の最愛の人。

彼女の顔を思い浮かべると、どうしても頬が緩んでしまう。

渉や杏から、幸せボケって言われそうだな。

でも、こんな気持ちでいられるなら、それも全然悪くない。



玄関で靴を半ば脱ぎ散らかし、居間へと向かう。


「アイシア!」


しかし、彼女の姿はそこになかった。

耳をすますと、廊下から小さな足音。

「お帰り、義之くん」

現れたのは、俺の保護者にして・・・母親でもある人だ。

「ただいま、さくらさん。アイシアは?」

「むぅ、義之くんはボクよりもアイシアの方が大事なの?」

そう言って頬を膨らませる。

「そっか、義之くんはボクのことなんてどうでもいいんだね」

「そ、そんなことは・・・」

「はは、冗談だよ。アイシアは、お兄ちゃんの所にいるよ」

「純一さんと?」

そう言えば、アイシアは純一さんとも顔なじみなんだっけ。

「義之くんも行ってみたら?二人の昔話とか、聞けるかもしれないよ」

確かに、それは興味がある。二人とも、普段は話したがらないしな。

「そうですね、行ってみます」

「あ、待って」

さくらさんが俺の服の裾をぎゅっと掴む。

「何ですか?」

さくらさんは俺を真剣な表情で見つめる。

「ボクは償いをしないといけないんだ」

「償い・・・?」

奇妙な単語に眉を寄せる。

「ボクのわがままで、いろんな人に迷惑をかけてしまったから。
 しかも、ボクが枯らさないといけない桜を、他ならぬ義之くんに
 枯らさせてしまって、ますます振り回してしまったよね。
 本当に・・・ごめんなさい」

今にも泣きそうな揺れる瞳で言うものだから。

「俺はさくらさんを恨んだりしていませんよ。たくさんの優しさと
 想い出をくれて、感謝しています。だから、泣かないでください」

俺の素直な気持ちを、まっすぐに告げた。

「・・・ありがとう、義之くん」

精一杯の、でも少しだけ申し訳なさが同居した笑顔。

どうか、もう、苦しまないでほしい。一人で背負い込まないでほしい。

俺の、大切な人だから。

「でも、ボクはボクのやりかたで、罪滅ぼしがしたいんだ」

そして、さくらさんが微笑む。

「だから明日、義之くんに素敵なプレゼントをあげる」

「プレゼント?」

罪滅ぼしとプレゼントにどんな関係があるのだろう。

「そう。季節はずれの、ボクからのクリスマスプレゼント」

さくらさんの言葉の意図が掴めない。

混乱する俺の背中をさくらさんが押す。

「さ、早く行ってあげて。アイシアと、きみの・・・お父さんの所に」

「え?」

最後の方は、声が小さくて聞き取れなかった。

「にゃはは、何でもない」

さくらさんは頬を赤く染め、照れ隠しのように顔をそむけた。



うん、逃げなかった自分を褒めてやりたい。

俺はただ、いつものように朝倉家の中に入っただけなんだ。


―――玄関に、二人の鬼がいたけど。


「弟くん・・・」

「兄さ~ん・・・」

殺気をほとばしらせて、姉妹が俺を仁王立ちで睨みつけていた。

何かやってしまっただろうか。必死に今日の記憶を思い出す。

しかし、心あたりはない。

「ねぇ、弟くん。あのアイシアって子とは、どんな関係なのかなぁ」

聞く者を震え上がらせる、静かだが恐ろしい声。

「な、何って別に・・・」

彼女、とは間違っても言えない。こんな空気の中で言うのは、自殺行為だ。

「私が応対したら、おじいちゃんの知り合いで、「兄さんの恋人」だと
 仰ってましたけど。どういうことでしょうか、兄さん?」

「ぐぁっ!」

す、既にアイシアが地雷を踏んでしまっていた・・・!

冷や汗をかきながら頭をフル回転させるが、二人をごまかす
言い訳を思いつかない。

「さ、兄さん上がってください。聞きたいことがい~っぱい、ありますから」

「は、はい・・・」

前は地獄。後ろも地獄。ならば最後にアイシアの顔を・・・


「あ、義之くん!」


リビングからひょっこりと顔を出したのは。

「アイシア・・・」

天使の微笑を浮べた、俺の想い人だった。

「義之くん、こっちこっち!」

アイシアの手招きに誘われ、俺もリビングへと向かう。

後ろから突き刺さる視線は無視だ。後が怖いけど、もうどうにでもなれ。

「やぁ、こんにちは、義之くん」

リビングのソファに、のどかにお茶をすすりながら、
純一さんが柔和な笑みを見せて座っていた。

「こんにちはです、純一さん」

俺もアイシアと共にソファに座る。

「どれ、お茶を出そうか」

「あ、お構いなく」

テーブルには、純一さんが出したらしい和菓子が置かれている。

「でも、純一も変わっちゃったね~」

「はは、あれから何年経っていると思っているんだ」

二人が懐かしそうに目を細める。

「二人は、どうやって知り合ったんですか?」

「ある日突然、アイシアが初音島にやってきたんだ。
 さくらのおばあちゃんに、魔法を教わりたいとね」

「でも、既に亡くなってて。途方にくれていたあたしを、
 純一がこの家に泊めてくれたの。少しだけ、この家に居候してたんだよ」

「へぇ~。もしかして、その頃に学園に通ってたのか?」

「うん。短い間だったけどね」

アイシアが目を閉じる。

まぶたの裏に、懐かしい記憶を思い浮べているのかもしれない。

「海水浴に行ったり、夏祭りに行ったり、本当にいろいろあったよ。
 楽しいことも辛いこともあったけど、全て大切な思い出なんだ」

「そうか・・・」

ちょっとだけ疎外感。俺もそこにいたかったなぁ。

「ねぇ、みんなとまだ会ってる?」

「もちろんさ。みんな元気でやっとるよ。杉並は、相変わらず行方不明だがな」

「え、す、杉並?」

何故か、思わぬ知り合いの名前が出てきた。

「これがめちゃくちゃなやつでな。イベントの度に何かを企んでは、
 私たちを振り回すんだ。困ったもんだよ」

二人が苦笑する。

「俺のクラスにも、同じ名前のやつがいるんです。やっぱり、悪巧みで
 クリパや卒パで花火を打ち上げたりするんですよ」

「それは面白い偶然だ。もしかして、成績優秀だったりするかね?」

「そうです!しかも運動神経抜群なのに、性格が台無しにしています」

「どうやら、君も苦労しているようだね」

「それはもう。悪いやつじゃないから、縁を切ることもできないし」

そもそも、俺はいつ杉並と知り合ったのだろうか。

気がついたら、いつのまにかつるんでたんだよなぁ。

「杉並が行方不明ってどういうこと?」

「10年くらい前かな。突然「世界を守りにいく」なんて言い出して、
 そのままずっと音信不通さ。まぁ、どこかで元気にやっとるだろう」

「あはは、そうだね。なんたって杉並だもんね」

わかるような、わからないような理由だが。

「早いもんだ。気がつけば、孫までいるトシになってしまった。
 かったるいとか言ってたあの頃が懐かしいよ」

「純一さんは今も言ってるじゃないですか」

ちなみに、孫娘の片割れも。

「おや、耳が痛いね」


穏やかな時間が流れていく。

二人は過ぎ去った日々を愛おしむようにいつまでも笑いあっていた。



「ねぇ、ちょっと散歩しない?」

満天の星空の下、並んで歩く俺たちを涼しい夜風が包み込む。

「あ~、楽しかった」

アイシアが伸びをする。

「俺も色々聞けて楽しかったよ」

ますますアイシアの年齢が気になったが、まぁ・・・考えないようにしよう。

星の光が俺たちを照らす。夜の街は静かで、まるで二人だけの世界のよう。

「そう言えば、音姫ちゃんと由夢ちゃんは何で怒ってたの?」

「な、何でだろうな」

苦笑でごまかすしかない。明日は早起きして一人で学園に行ったほうが
いいかもしれない。朝から尋問されるのはごめんだ。

「家族って、いいよね」

たくさんの思いが込められたつぶやき。

「こ、恋人も、家族みたいなものだよね」

アイシアがずっと求めていたもの。傍にいて笑ってくれる人。

求めて、傷ついて、また求めて。

一人ぼっちだった彼女を、受け止めることができて嬉しい。

俺はアイシアの小さな手をそっと握る。


「ずっと・・・一緒にいようね」

大きく頷く。


離さない、絶対に。


「そうだ義之くん。さくらから聞いた?」

「何を?」

「そっか、まだ言ってないんだね」

アイシアは一人納得したように何度も頷く。

「何の話だ?」

「秘密です」

そう言って、いたずらっぽく笑った。



「おはよう、義之くん」

「おはようございます、さくらさん」

いつもの平和な日常。二人で食卓を囲む。

こんがりと焼けたパンをかじる。うん、うまい。

「アイシアは?」

目を覚ますと、ベッドに隣で寝ていたはずの姿がなかった。

「今日は用事があるって朝早くから外に出て行ったよ」

「そうですか」

久しくやっていなかったフリーマーケットを再開したのかな。

「ねぇ、たまには一緒に学校に行こうよ」

「わかりました」 



「にゃん、にゃん、にゃん♪」

桜並木をさくらさんと並んで歩く。

「何か良いことあったんですか?」

さくらさんの足取りが、跳ねるように軽い。

「だって義之くんとの通勤だもん。それに、今日は特別な日だからね」

「はぁ・・・」

よくわからないが、さくらさんの楽しげな姿が見れて嬉しい。

「おっす、義之。学園長も、おはようございます」

渉と挨拶を交わす。

「早いな」

「当たり前だろうが!」

ずいっと顔が近づき、慌てて押し返す。

「今日は転校生が来る日だからな。少しでも早く見たいじゃねぇか」

ミーハーなやつだ。まぁ、俺もちょっとだけ気になるけど。

「にゃはは、青春だね~」

さくらさんがのん気に言う。

「二人とも、優しくしてあげてね」

「もちろんっす!」

渉が自分の胸をドンと叩いた。



教室は既に喧騒に包まれていた。

話題はもちろん、今日俺たちのクラスに来る転校生だ。

「でも珍しいわね。こんな時期に」

杏の言うとおり、まだ一学期が始まったばかりだ。

何か特別な事情があるのかもしれない。

「う~む、陰謀を感じるな」

相変わらずの悪友にため息をつく。

教室のドアが開き、一瞬で室内が静まり返る。

入ってきたのは、担任ではなく、さくらさんだった。

「佐藤先生に代わり、今日はボクがHRを行います」

ざわつく教室。さくらさんのHRより、みな転校生に興味があるようだ。

「学園長、転校生は?」

渉がみなの気持ちを代弁する。

「にゃはは、わかってるって。さ、入ってきて」

さくらさんが廊下へ声をかける。

そして転校生が、ゆっくりと足を踏み入れた。


「あ・・・」


想わず漏れてしまった、呆けた声。

―――そうか、そういうことか。

ここ数日様子が変だったさくらさん。その理由に合点がいく。

不思議と、驚きは小さかった。

それは、俺がこの状況をずっと望んでいたからだ。

苦笑はすぐに微笑みに変わる。

俺は改めて、転校生の全身を見る。

見慣れた本校の制服が包む、緊張で震えた華奢な身体。

アッシュブロンドの髪は小さく跳ねて。

ルビーのような大きな瞳は、期待と不安で輝いていて。

俺は、彼女にくぎ付けになっていた。

さくらさんが黒板に少女の名前を書く。

「ほら、自己紹介をして」


「あたしは、義之くんのペット3号です!」


「ぶっ!」

とんでもない第一声に、俺は固まってしまった。

見れば杏と茜は、長く遊べるオモチャを見つけた悪ガキのような、
心底邪悪な笑みを浮べている。

そしてそれに勝る、男子生徒(渉を含めた)の殺気。

俺って、こういう目に遭う運命なのかなぁ。深いため息をつく。

「む、何を言ってるのさ。それならボクは義之くんのおか―――」

「それはダメですっ!」

もう、勘弁してくれ。誰か助けてくれ~。

「冗談だよ。さ、真面目にお願い」

少女は頷き、姿勢を正してゆっくりと口を開く。


「はじめまして」


彼女と目が合う。


「あたしは、アイシアと言います」


赤く染まった頬。はじめて見る表情。


「久しぶりに、風見学園に戻ってきました」


遠い日の思い出を胸に抱いて、新しい思い出を作るために。


「どうか、よろしくお願いします」


ぺこりと頭をさげた彼女を、俺たちの拍手が包む。

「アイシアの席は義之くんの隣だよ」

はは、やっぱり。

目をずっと合わせたまま、近づいてくるアイシア。

そして俺の隣の席で止まる。

アイシアは眩しいほどの笑顔で。

「よろしくね」

「ああ」

これから始まる、君と歩く、新しい日常。

きっと騒がしいそれは、でも決して悪い気はしないんだ。

「アイシア」

「ん?」

気の利いた言葉を言いたいけど、俺には無理だろう。

だから、素直に俺の気持ちを届ける。



「お帰り」



「うん!」



幸せそうに、彼女の頭のリボンが揺れた。
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  1. 2012/03/09(金) 22:22:38|
  2. D.C. 〜ダ・カーポ〜SS
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