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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない SS 涼介×優乃                                 ~俺の妹がこんなに可愛いわけがない~

「俺と優乃は付き合っています」

一体どれほど悩んだのか。

長い、本当に長い沈黙の後、涼介は禁断の関係を告白した。

「・・・何それ?冗談でも笑えないよ?」

桐乃がかすれた声で呟く。

身体を震わせながらも涼介から目をそらさない。

嘘だと言ってほしくて。

「冗談なんかじゃない!本当なんだもんっ!」

そんな淡い望みを、愛娘の優乃が打ち砕いてしまった。

桐乃が歯をくいしばっている。

胸の内では様々な感情が混ざり合い、ぐちゃぐちゃになっているのだろう。

「・・・いつからだ?」

自分の平坦な声色に驚く。

いや、当然俺も動揺しているが、比較的冷静に振舞えていた。

「2週間前からだよ」

優乃の誕生日、か。

パーティが終わった夜、そんなことがあったなんてな。

たぶんこいつらは、藁にもすがるような思いで、俺たちに打ち明けたんだ。

隠れて付き合えばいいのに、それができるほど器用じゃなくて、
相手を諦めることもできなかった。

だから、悩んだ挙句、話すことにしたんだろうよ。

桐乃にこう言われると、予測できたはずなのにな。

「認めない。そんなの絶対認めない。だってあんたらは
 あたしたちの子どもで、血の繋がった実の兄妹なんだよ!?」

テーブルを叩いた拍子に倒れたコップから零れた
ジュースを拭きながら、桐乃を宥める。

「落ち着けよ。冷静にならなきゃ、話し合いなんてできないだろ?」

キッと眼光鋭く、桐乃は口撃の矛先を俺へ向ける。

「あんたこそ何でそんな冷静なワケ!?
 兄妹で付き合うなんてダメに決まってんじゃん!」

桐乃がかつて畏怖し、大事にしていたもの。

世間体。

大人になってからもそれは変わらない。

まさか、時が経って自分の子どもたちに突きつけられる日が来るとは。

人生ってのはわからないもんだ。

そこで優乃が反撃に転じた。

「どうして!?お母さんたちだって、兄妹で結婚したくせに!」

不意を衝かれた桐乃が呆然とする。

「な・・・何で知ってんの・・・!?」

俺と桐乃が義兄妹だった事実は、涼介たちに告げたことはなかった。

隠すほどのことではないが、おおっぴらに話すこともないと、
桐乃と二人で決めたからだ。

「瑠璃さんから聞いたんだ」

「あのクソ猫・・・!」

懐かしい呼び名だった。

黒猫と名乗っていた少女は、もうどこにもいない。

それでも、五更瑠璃とは、今も家族ぐるみの付き合いが続いている。

涼介は瑠璃の妹の珠希ちゃんに勉強を教わっているため
足しげく五更家に通っている。

その時に、瑠璃から昔話を聞く機会もあったのかもしれない。

「あんたからも言ってやってよ!バカなことを言うなって!
 二次元と三次元を一緒にすんなって!」

桐乃の言い分は正論だ。桐乃の怒りはもっともだろう。

でもな、こいつらの気持ちも俺には分かるんだよ。

この二人は、昔の俺と桐乃なんだから。

「・・・俺は、いいと思ってる」

「は・・・はぁっ!?」

「優乃の言うとおりだ。俺たちは兄妹で結婚したんだ。
 自分たちのことを棚に上げるのは良くない」

「だからそれは、あたしたちが義理の兄妹だったからでしょ!」

「・・・俺はそのことを知らないまま、おまえを好きになったよ」

「―――――――――!?」

「それは、おまえも一緒じゃないのか?」

「あ・・・ぅ」

図星だったらしく、言葉に詰まる桐乃。

『好きよ。あなたの妹が、あなたを好きな気持ちに負けないくらい―――』

かつて邪気眼の少女が俺に伝えた、遠まわしで直球な告白。

あの時はまだ気づかなかったが、その発言の裏には
兄に恋をするもう一人の少女の姿があった。

その頃の桐乃と言えば口を開けば暴言、気に入らないことがあれば
すぐに手を出してきて、その全てが照れ隠しだなんて
気づけるわけがなかったけどな。

「~~~~~~~~!」

桐乃はテーブルを倒さんばかりの勢いで立ち上がり、
リビングを抜け出していった。

その場に俺と涼介、優乃が残される。

「お父さん・・・」

「ちょっと待ってろ」

二人を残し、桐乃の後を追った。



「おい、桐乃」

ドアノブを回そうとしてガチャっと音がする。

ちょっ、あいつ鍵かけてやがる。

「桐乃、開けろって」

「うっさい!」

当たり前だが、完全に怒っている。

こりゃ今日は出てきてくれそうにねーな。

寝室は一緒だってのに。

俺は諦めて、リビングへと戻った。

そこでは依然として涼介たちが沈痛な表情で俯いている。

「二人とも、今日はもう遅いから寝ろ。続きはまた明日だ。」

「で、でも・・・」

「明日も学校だろ。寝過ごして遅刻するつもりか?」

「・・・お休みなさい」

優乃が重い足取りで出て行く。

「親父」

「何だ?」

「俺・・・絶対に諦めないから」

「・・・・・・」

優乃に続く涼介を見届け。俺はあいつに電話をかける。

「・・・もしもし」

「俺だけど・・・今大丈夫か?」

「構わないわ。そろそろ電話がかかってくる頃かと思ったから」

「その口ぶりだと、用件もわかってるみたいだな」

「涼介と優乃のこと・・・でしょう?」

「・・・正解だ」

「あの二人、ちゃんと勇気を出したみたいね。何よりだわ」

彼女の静かな声色はいつも以上に淡々としていて、
その真意を読みきれない。

「単刀直入に聞くぜ。おまえ、知ってたんだな?
 あいつらが・・・兄妹で付き合っているって」

しばらくの沈黙の後、

「人生相談にのってあげたわ。まるで昔のあなたのように」

「っ・・・」

こんな状況でその言葉を聞くことになるとはな。

「懐かしい響きでしょう。極度のシスコンだった兄さんには」

嘲笑するような台詞に頭に血がのぼりかけるが、それを抑える。

シスコンだった自分を今更否定したりしない。

「おまえは、止めると思ったよ」

「どうしてかしら?」

「おまえが、いいやつだからだよ」

「はっ・・はぁ?」

受話器から伝わる動揺。微かに照れと喜びが滲んでいて、
もしかしたら顔を赤く染めているかもしれない。

「前に桐乃に言ったそうじゃねぇか。大切な人が道を踏み外しそうに
 なったら、止めてあげるのが私の役目だって」

「ふっ、そんなこともあったかしら」

実際、こいつはいいやつだよ。

そのことは俺と桐乃が誰よりもわかっている。

世話になった回数は数え切れないし、

短い間だけど、俺の彼女でもあった。

二人で過ごした想い出は、胸の底に大切に仕舞っている。

「それで?あなたたちはどうしたの?」

「あいつらが十分悩んで出した答えなら、俺は受け止めようと思う。
 さすがに、その・・・セックスとかは認められないけどな。
 桐乃は、まだ混乱してるみたいだな」

「中学生でエロゲーやってたくせに、相変わらず生真面目なのね」

「・・・なんか、今日のおまえ辛らつすぎないか?」

まるで黒猫に戻ったようだ。

「クク・・・クククク」

そこで携帯から届いていたあいつの声色が一変する。

「お久しぶりね?『黒き獣よ』」

「お・・・おまえはまさか・・・!」

「我は復讐の天使『闇猫』。あらゆる恋を否定するものよ」

聞き覚えのある台詞と共に、長い時を経て
五更瑠璃が厨二病を再発した瞬間だった。

「ああ憎い。全てのリア充どもが憎いわ。爆発してくれないかしら」

「あの・・・闇猫さん?」

「大体あなたの子どもたちもありえないわ。何が人生相談よ。
 よりによって自分達の母親の恋敵だった私にする?
 どれだけ私の古傷をえぐるつもりなのよ」

「いや、何つーか・・・すまん」

それを言われると弱いわけだが、でもさ、
あれはお互い様じゃないっすかね?

クリスマスの夜、「生涯最大の呪い」のせいで目立ちすぎた俺たちの
写真がいつのまにか撮られ、後日ネット上で炎上してたんだけど。

ブログ巡回中に桐乃と二人で見つけて、悶絶したもんだ。
羞恥のあまり死ぬかと思ったぜ。

「どうして、あいつらの背中を押した?」

「私を選ばなかったあなたに対する復讐―――と言えば満足かしら?」

「あ、あのなぁ・・・」

「冗談よ。本当は、涼介たちが遠い日のあなたたちみたいで、
 両想いのくせに悩んでるのが見ていられなくて・・・
 私の大好きだった人を見習ってみただけよ。
 あなただって、何かしてあげようと思っているのではないの?
 涼介たちにも・・・桐乃にも、ね」

かなわねーな、こいつには。

あれから長い時間が経って大人になっても、
俺たちの根っこは全然変わっていないようだ。

成長していない、とは思いたくない。

俺たちにとってあの目まぐるしくも楽しかった日々が、
目を閉じれば思い出せる日々が、ずっと胸に息づいているんだ。

きっと、忘れちゃいけないこともあるんだろうよ。

「一つ教えてあげる。あなたたちが認めなかったら、あの子たちは
 家を出るつもりよ」

「マジか?」

「ええ。優乃がモデル活動で溜めたお金を持ってね」

「そっか、教えてくれてありがとな」

「涼介に伝えて頂戴。「がんばってお兄ちゃん」って」

「おうよ」


俺は再び桐乃のいる寝室へ向かう。

久しぶりに、スーパー京介になる時がきたのかもしれない。

だけどな、俺と妹の物語はもう完結しているんだよ。

俺が語り部を務めているこの物語は、
既存の物語の延長にすぎない。

次は、うちの子どもたちが主役なんだ。

ちゃんと分かっているらしく、涼介が寝室へ入っていくのが見えた。

桐乃め、俺の時には開けなかったくせによ。

なら、俺はこいつと話すとするか。

不安げに俺を見つめる娘に俺は笑いかける。

「優乃、人生相談すっか」


リビング。ソファに腰掛けた優乃にコーヒーを渡してやる。

普段の小生意気な態度はどこへやら、小動物のように縮こまっている。

黙ってれば可愛い―――

かつて優乃の母親に抱いた印象を娘にも抱いてしまい苦笑する。

俺たちはしばらく、無言でコーヒーを飲み続けた。

優乃はチラチラと俺を見るものの、目が合えばすぐに視線を逸らす。

「なぁ、優乃」

「は、はい!」

身体を震わせて、優乃がうわずった声をあげた。

そんなにびびらなくてもいいじゃねぇか。

俺はどこぞの親父殿のように、娘を大事にするのである。

「おまえの母さん、料理上手だよな」

「・・・へ?」

「いや、毎日どの料理も美味しいと思わないか?」

「う、うん」

「でも知ってたか?あいつ、最初はめちゃくちゃ下手だったんだぜ」

「そ、そうなんだ・・・」

戸惑いつつも、キャッチボールをしてくれている。

「おまえくらいの歳の頃に、バレンタインデーで手作りのチョコを
 くれたんだけどさ。あんまりな出来で石炭みたいでな、
 嫌がらせかと思ったよ」

しかもあいつ、ケンカ腰に渡してくるんだぜ。
本気チョコだなんてわかるかっつーの。

その光景を想像したのだろう、優乃が笑む。

「お母さん、子どもの頃から何でもできたと思ってた」

できるようになったんだよ。もちろん才能もあったろうが、
血の滲むような努力と、それを支える超負けず嫌いな性格でな。

「そんないつも一生懸命な桐乃に俺は惹かれたわけだが・・・」

今更だが恥ずかしくなってきた。娘に何惚気てんだろうね、俺。

ともかく、本題はここからだ。

「優乃は、どうして涼介を好きになったんだ?」

「・・・・・・」

優乃は視線を下ろし、俯いてカップに自分の影をかぶせる。

「・・・キモいって、思う?」

「え?」

「お兄ちゃんに恋する妹って、気持ち悪いのかな・・・」

「まぁ、世間一般とやらではそうかもな」

それでもだ。

「俺は絶対、バカにしたりしねーよ」

覚えているだろうか。俺があの時、妹に言った言葉だ。

顔を上げた優乃の目がまん丸になっている。

「だって俺、妹と結婚したんだぜ。バカにするわけねーじゃん」

俺の前にいるのは優乃であり、昔の桐乃だ。

俺は妹の痛みとか苦しみに気づいてやれなかった。

だからだろうな、こいつらの力になりたいと思ったのは。

俺にとってシスコンは、妹がいなくなっても無くならないらしい。

「そんな簡単に諦めれるなら、好きになったりしないだろ?」

「・・・うん」

「倫理とか常識とか世間体は、そりゃ大事さ。
 でも、この世にはもっと大事なもんだってあるだろうぜ」

付き合ったままでいるなら、
優乃たちの未来には地雷原が待ち構えている。

世間体というものは、ルールを逸脱したものを
守ってくれるほど優しくはない。

実際、俺と桐乃が、義理とはいえ兄妹で結婚したと聞いて、
眉をひそめる人もいた。

桐乃は気にしていないように振舞っていたが、
傷ついていたのはバレバレだったけどな。

こいつらは道を踏み外そうとしている。

俺の親父なら、白髪こそ増えたが変わらない極道ヅラで
「矯正してやる」と野太い声で言うんだろう。

それが親の役目だと。

知ったこっちゃないね。クソ食らえだ。

俺は、こいつらの父親なんだ。

子どもは助けてあげなくちゃならんだろうよ。

「おまえらがどんなにどうしようもないやつでも、みんなが見捨てても、
 俺はここにいてやるから。最後まで心配して、叱ってやるからよ」

かつて妹がくれた言葉を、今度は俺の気持ちを込めて紡ぐ。

「―――だから、元気出せ、優乃」

「・・・・・・っ」

堪えきれなくなった涙が優乃の頬を伝う。

その泣き顔をゆっくりと笑顔に変えて。


「ありがとね、お父さん」

と優乃は囁いた。


俺は大口開けて、目ぇ見開いて、唖然とはしなかったね。

俺の娘が、こんなに可愛いに決まってるからな。



リビングと廊下を繋ぐ扉から涼介と桐乃が入ってきた。

桐乃の顔は真っ赤に染まり涙でぐしゃぐしゃだ。

「桐乃・・・」

「・・・プッ、変な顔」

「てめぇ・・・」

俺の顔は、地味だけど変じゃねぇよ。

頬がくすぐったい。

いつのまにか、俺もうるっときてたようだ。

「お母さん、聞いて」 優乃は決然とした表情で、

「あたしたち、すっごくいけないことしてる。
 親子の縁を切られてもしかたないってわかってる。
 でも・・・それでも!」

まるで桐乃のように。

「あたしは、やめない。お兄ちゃんが好きなのを、やめない。
 お父さんも、お母さんも大好きだけど・・・お兄ちゃんはもっと好き!
 無理やり離されたって、絶対に諦めない!」

本当に母親にそっくりだよ、優乃は。

全然素直じゃなくて、子どものくせに強情で、歳相応の弱さと
まっすぐな芯の強さを兼ね備えている。

子は親の背中を見て育つというけれど、優乃もまた、
かっこいい桐乃を追いかけているのかもしれない。

もちろん、優乃と桐乃は違う。

優乃は成績は中の上を抜けきれず、
スポーツも・・・まぁ、推して知るべしだ。

そんな妹を、チートな兄貴はずっと守り続けていた。

口は悪いけど、最後には必ず妹を助けていた。

どこぞの兄妹のようにな。

全く、高坂家の血筋は総じてツンデレなのかね。

結局俺たちは一家揃って、似たもの同士なんだよ。

「だから―――」

その先を桐乃は言わせなかった。

桐乃が、優乃を抱きしめたからだ。

「・・・もう、いいよ」

「え・・・?」

「あたしの負けだよ」

「それじゃ・・・」

「―――バカじゃん・・・」

その言葉は誰に向けたものだったろう。

桐乃の表情を窺うことはできなかった。



どうにか一段落ついて、時刻が既に深夜を回っていたため
俺たちは部屋へ戻った。

朝が来れば俺と桐乃は仕事、涼介たちは学校が待っている。

さっさと寝なきゃならんのだが、そうもいきそうにない。

「あ~あ、あたし、何であんなこと言っちゃったんだろ」

ベッドに横になった桐乃は天井から視線を離さない。


涼介たちが自立するまでは、二人の仲を認めない。


二人が大人になったら―――後は、勝手にすれば。


それが桐乃が見つけた落としどころ。

多くのものを天秤にかけて、ギリギリで自分の中で
折り合いをつけるための建前だ。

「涼介に色々言われちゃってさ、何てゆーか、思うトコロがあったんだよね」

「そうかい」

「やっぱり、あたしたちの子なんだなーって」

「・・・そうかい」  

違いねーな。

「つーか、優乃にエロゲーやらせたおまえが悪いんじゃないか?」

「うぐっ!」

激しく動揺する桐乃。俺を向いて、

「だ、だって優乃とやりたかったもん。しょーがないじゃん」

「なら、せめて全年齢版にしとけよ」

「だからぁ~、Rー18でしかできないこともあるんだってば」

わけがわからないが、そこは桐乃の譲れない一線らしい。

正直、キモいがな。

「まぁ、俺は正直ホッとしてるよ」

「何で?」


「優乃をお嫁に行かせなくていいからだよ」


「・・・はい?」


桐乃が呆けた声を出す。「こいつ今なんつった?」という顔だ。


「正直、俺は優乃が彼氏を連れてきたらブチ殺さない自信がない。
 その点、相手が涼介なら安心だろ?」


「はぁああああああああああっ!?」


桐乃が俺の襟首を掴み、締め上げてきた。

「ちょっ、だからアンタ涼介たちに肩入れしたワケ!?」

「くっ、苦し・・・!父親ってのはそういうもんなんだよ!
 俺たちが親父らに報告した時も、同じこと言ってたろうが!」

「こっ、こっ、こっ・・・」

鶏みたいだぞ、おまえ。

「このロリコン!どこまでシスコンなのよ!」

「俺はロリコンじゃねーし、優乃は妹じゃなくて娘だ!
 せめて親バカと言えよ!」

「変態!変態!変態!」

「娘とエロゲープレイしてるおまえに言われたくねぇ!」

ギャーギャーギャーギャー。

兄妹ゲンカ・・・ではなく、犬も食わぬケンカを朝日が昇るまで
延々と続ける俺たちだった。



「行ってきます」

「行ってきま~す」

家を出る涼介たちの声を聞きながら俺も出勤の準備をする。

ちなみに、今日の朝食はいつも通りの光景だったぜ。

強いて言えばみんなにまだ硬さが見られたが、これから少しずつ
肩の力を抜いていけるだろうさ。

「戸締りよろしくな」 桐乃に声をかけるものの、

「・・・・・・・」

ガンを飛ばしてきやがった。

やれやれ、しょうがねーな。

溜息をつき、玄関へ向かい靴を履く。

「・・・京介」

「あん?」

振り返ると、桐乃の顔がすぐ傍にあり、
香水の香りと共に近づいてきた。

「・・・・・・ん」

「・・・・・・はぁ」

お出かけ前のキスだ。

「あんた、今日は絶対にどこにも寄り道せずに帰ってきなさいよ」


「―――人生相談、あるんだからね」


そう言って微笑んだ嫁の顔は、世界で一番可愛かったぜ。


「行ってきます」

ドアを開けると、爽やかな一陣の風が入り込んできた。

心地よい風を全身に浴びながら、俺は涼介たちの未来に想いを馳せる。

この先、どうなるかなんて誰にもわからないけどさ。

とりあえず、俺は俺なりにこの日常を守ってみせるよ。

俺の愛する日常を、桐乃たちと歩くんだ。

悪くないだろ?

バカなやつらとバカやるのが、俺はたまらなく好きだからな。

「行ってらっしゃい、京介」


かつて俺が、俺と妹の物語に付けた題名は、


『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』だった。


涼介は、自分の物語にどんな題名を付けるだろうか。

いや、そんなもん、決まってるか。

俺の先を歩く二人の顔を見れば一目瞭然だ。

「何ニヤニヤしてんの?キモいんですけどぉ」

「いや、おまえのほうがキモい」

「はぁ!?あたし、超かわいいじゃん!」

「おまえ、今日顔洗ってないの?鏡、見なかったのか?」

「~~~~~~~~~~!」


朝っぱらから兄妹でいちゃついてやがる。

少しは近所の目も気にしろよな。

ちょっと釘をさしてやるとするか。

俺は靴音を軽快に鳴らしながら、仲のよい兄妹の隣へと駆け出した。
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  1. 2013/09/19(木) 20:03:51|
  2. 俺の妹がこんなに〜SS
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