FC2ブログ

君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

キスベル 高幡ちはるSS

「なによこれーーー!」

俺とちはるしかいない我が家にちはるの叫びが響き渡ったのは、
連休初日の夜のことだった。

ちはるは顔を真っ赤にして、手に持った写真を凝視しながら身体を震わせている。

ちなみに俺は、ちはるの前で土下座モード。

うん、お手本になりそうな綺麗な構えだ―――という具合に現実逃避するほどには
この状況がどれほど危機的なのかわかっていた。

「市生くん?」

「は、はいっ!」

「これは、なんなのかな?」

「お、男の夢でございます」

その瞬間、さっきまでちはるが開いて眺めていたアルバムが
俺の頭めがけて振り下ろされた。

「いてぇっ!」

横じゃなく、縦で叩いてきたぞ・・・!

「あ、アルバムは鈍器じゃないぞ!」

「うるさーいっ!バカ、バカ、バカぁっ!」

涙目になりながら何度も激しく連打するちはる。俺の頭蓋骨を陥没させる気か!?

「やめっ、俺が悪かった!許してください!」

懇願するも冷静さを失った今のちはるに届くはずもなく、
俺は両手で頭を守って嵐の沈静化を待つのだった。



嵐が去ったのはそれから数分後。

「はぁっ、はぁっ・・」

肩で息をするちはるは額の汗を拭う。

女の子が呼吸を乱しているのってエロいよねと思いつつ、

「落ち着いたか・・・?」

睨みつけられるものの、追撃が来ることはなかった。

「・・・説明」

「・・・・はい」

犯行を自供する犯人のように、ぽつりぽつりと口を開く俺だった。



話は今日の夕方まで遡る。

「一緒の大学に行こうね!」

それを合言葉に、3年の初春から勉強漬けの日々を送る俺たち。

ちはるの志望は1年早く入学を決めた彩乃姉さんと同じ難関大で、
ちはるでも入学できるかどうかのレベルだ。

俺では逆立ちしても合格できないし、先生にも現実を見ろと一蹴されたけど
瞳を輝かせ未来に俺とのキャンパスライフを描く恋人の想いを
やるまえから無碍にすることはできなかった。

「大丈夫!市生くんならできるよ!」

俺の成績を知りつつ、それでも本気で応援してくれるちはるのために
一念発起した俺は、ひたすら教科書や参考書と格闘する毎日だ。

「・・・そろそろ休憩する?」

疲れたのだろう、ちはるはペンを離した手をぷらぷらさせている。

「いや、もうちょっとだけやるよ」

「そっか。じゃあ、わたしもがんばる」

2年の頃なら簡単に放り出していただろう俺に、
ちはるは微笑って付き合ってくれた。


「つ、疲れた・・・」

「お疲れ様、市生くん」

きりのいいところまでやり、座ったまま背筋を伸ばす。

「今日は結構進んだな」

「うん。わたしも手応えを感じてる」

勉強は一朝一夕じゃ身につかない。
だからこそ、抜き打ちテストなどで点数が伸びているところを見ると
自分の成長を実感できる。

「っと、もうこんな時間か」

壁にかけられた時計は午後7時前を指し、
窓から外を見やれば既に日が暮れはじめている。

「ご飯はどうしようか?」

「ん〜・・・自炊は疲れてるから避けたいし、いつものラーメン屋に行くのもなぁ」

「昨日行ったばかりだもんね」

俺だけでなく彩乃姉さんとも足を運んでいるようで、
今ではちはるもあの店の常連となっている。

「しょうがない、面倒だけど作るか」

彩乃姉さんや誠司には劣るけど、俺も自炊の心得がないわけじゃない。

「・・わたしが作ろうか?」

「う〜ん・・・」

彼女の手料理という選択肢は捨てがたいけど
そそっかしいちはるに任せるには一抹の不安がある。

ちはるもわかっていて、不満そうに頬を膨らませているものの
進んで台所に立ったりはしない。

「・・・一緒に作ろうか」

「え・・・う、うん」

隣で見ていれば大きな失敗はしない、よな・・・?



「ごちそうさまでした」

食器を片付け、部屋に戻ってきた俺たち。

食後のコーヒーを味わいながら、ちはるに尋ねる。

「今日は泊まっていくんだよな?」

「うん。お父さんたちには夕美の家へ泊まるって言ってあるから」

互いの両親公認のカップルとは言え、結婚前の娘さんが
彼氏の部屋で一晩過ごすとなると彼女の両親はいい顔をしないだろう。

そんなわけで、ちはるが泊まる時は度々長津田さんにアリバイ作りを頼んでいた。

―――もっともちはるのお母さんは、「早く孫の顔を見せてね」と
どこまで本気か冗談かわからないセリフを満面の笑みでおっしゃってくれましたが。

あの自由奔放さは、彩乃姉さんと気が合うだろうなぁ。

「・・・なんか他の子のこと考えてる気がする」

じと目をむけられ、本当のことを言うわけにもいかず慌てて否定する。

「そ、それよりこの後はどうする?」

何か話題はないかと自分の部屋を見やったとこで、
気になるものが目についた。

「そういえば、そのバッグいつもより大きいよね。何が入ってるんだ?」

膨らんだちはるのバッグはお泊りセットだけではなく
他にも何か入ってそうだ。

「えっと、その・・・」

ちはるは頬を赤らめ、俺から視線をそらす。

何だろうかこの反応は。

まるで恥ずかしいものでも入ってるような・・・

「そ、それより市生くん。アルバム、見せてほしいな」

露骨に話をそらしにきたな。

「アルバム?」

「うん。市生くんの小さいころ見たいから」

ちはるの反応は気になったものの、勝手にバッグを漁るわけにもいかない。

「まぁ、別に見られて困るものでもないし、いいよ」

棚から適当にアルバムを掴んで机の上に広げる。

「わぁ・・・」

貼られた写真には、どれも中学生の頃の俺が悪戯っぽい笑顔で写っている。

「あはは、市生くん可愛い」

「可愛いは男には褒め言葉じゃないんだけどな」

ページをめぐるたびに思い出が溢れだす。

そのほとんどが何らかのイベントで、トラブルに巻き込んだり
巻き込まれながらも全力で楽しんでいる。

「市生くんってこの頃から全然変わってないんだね」

ちはるもわかってるのか、くすくすと笑っている。

「これでもちょっとは成長してるつもりなんです」

「ほんとかなー」

子どものように目を輝かせて、

ちはるは夢中でページをめくる。

たったそれだけの仕草が、とても愛らしい。


やっぱり俺の彼女は可愛いなあーーー


なんて、油断がまずかったのかもしれない。


不意に場の空気が凍りついたのがわかった。

「ち、ちはる・・・?」

逃げたほうがいいと本能が警告してくれたのに、
俺は愚かにも声をかけてしまった。

「・・・・・・」

ちはるは無言で一枚の写真を摘み、俺の鼻先に突きつける。

そこには、


「あ―――――ああっ!?」


ちはるの黒歴史―――文化祭でノリノリでメイド服に見を包んだ彼女―――が
ばっちりと写っていた。


しまった―――!!

ちはると付き合いだしてから、もう写真では満足できなくなったので
アルバムに挟んだままだったのを完全に忘れていた。

脳を回転させて言い訳をひねり出そうと試みても
彩乃姉さんほどずる賢くない俺に妙案は浮かばなかった。

「ふふふ・・・」

すっごい笑顔なのに、何かのオーラを迸らせている。

この迫力・・・まるで朋子先輩と向き合っているようではないか。

「ねえ、市生くん?」

「な、なんでしょうか・・・」

「少し、お話しようか」

「・・・はい」

2時間くらいは説教を覚悟したほうがいいかもしれないな・・・


そして時間は今に戻り。

観念した俺は文化祭の時、密かに写真を撮っていた悪友から
もらったと説明したのだった。



「うう〜・・・」

羞恥のあまり真っ赤な顔でちはるはうなだれている。

「いつ撮られたんだろ・・全然気づかなかった・・・」

あの時ノリノリだったもんな。

「これだけだよね?他にあったりしないよね?」

「・・うん、それだけだよ」

本当はけっこうな数が出回っているが、言わない方がよさそうだ。

まあ、この写真を買った奴らも、ちはるが俺の彼女になった以上
いつまでも他人の彼女の写真を所持してないと信じよう。

「これは、没収!」

乱暴にバッグに突っ込まれて、もう俺の目に触れることはなさそうだ。

忘れていたのに、惜しいと思ってしまうのは男の性かもしれない。

「ほんとに、もう・・・」

「いや、悪かった。でも、変なことには使ってないから」

「そういう問題じゃないよ」

ちはるの言うことが正しいので俺としては平伏するしかない。

ちはるの許可を取ってなかった分、ほとんど盗撮だもんな。

「男の子って、みんなこういうのが好きなの?」

「可愛い子がコスプレしてるのに喜ばない奴は男としてどうかしてると思うんだ」

ちなみに親友の誠司は学校指定水着が好きだったりする。

「・・・・・・」

ちはるの視線が痛いが本心なのでどうしようもない。

「・・・わたしのメイド服姿、そんなに見たい・・・?」

「そりゃ、もちろん。すごく似合ってたからさ」

「・・・じゃあ、着てあげる」

「え・・・?」

一瞬、聞き間違いかと思った。

「すごく恥ずかしいし、彼氏の選択を間違った気もするけど・・・
 市生くんのためだから・・・き、着てあげる」

「あ・・・う、うん」

ちはるもだが、俺の顔も赤くなっていることだろう。

身体が熱を持ち、胸の鼓動も高鳴っているのがわかる。

「じゃあ着替えてくるからちょっと待ってて」

バッグを持ち、部屋を出て行こうとする背中に声をかける。

「え、持ってきてたの?」

「市生くんががんばったらご褒美にって・・・」

「なら、せっかくだから目の前で着替えてほしいなぁ」

そう言うと睨まれてしまった。

裸は大丈夫なのに着替えは見せてくれないなんて、
女の子はわからない。


実際には数分だろうけど、一時間にも思える長い時間の後。

開かれた部屋の扉に、待ち焦がれた俺は視線を送る。

「お、おお・・・」

現れたのは、文化祭で着せられたメイド服で再び身を包み、
ミニスカートとガーターベルト、そしてストッキングで
惜しげもなく絶対領域を披露する俺の彼女。

耳まで紅潮させて、恥ずかしさに耐えているのかぷるぷる震えている。

何度も妄想したけど、その上をいく衝撃に思わずつばを飲み込む。

「ど、どうかな・・・?」

「俺の彼女は最高だと思います」

図らずも叶ってしまった男の夢に興奮を隠せない。

理性がどんどん削られて、性欲が強まっていく。

この姿のまま抱きたい。服を着せたまま、ちはるの秘所を貫きたい。

「い、市生くん・・・?」

「市生くん・・・じゃ、ないだろ?」

発言の意図を察し、ちはるは俺の望む言葉を口にした。

「ご、ご主人様・・・」

鼻血が出てしまいそうだ。

「ご主人様の、大きくなってる・・・」

俺の股間の変化に気づき、恥ずかしそうに指摘する。

ちはるの呼吸も多少乱れているのは、彼女も興奮しているからだろう。

「ちはるはかわいくてエロいな」

近づいて抱きしめて、キスを交わす。

柔らかい唇の感触を楽しみ、俺はちはるの耳元でささやいた。

「・・・いいよな?」

「うん・・・ちはるをかわいがってください、ご主人様・・・」

少しの間、さよなら俺の理性。

俺はメイド服の上から、ゆっくりちはるの胸に手を当てた。




スポンサーサイト



  1. 2016/05/31(火) 01:46:31|
  2. キスベルSS(完結)
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

冴えない彼女の育てかた 加藤恵SS  前編 

※もしも加藤恵が本編開始前から安芸倫也のことが好きだったら・・・

そんな妄想SSです。

原作1~9巻のネタバレ注意。

サブタイトルも考え中。。




あの日、よく晴れた春の日。

わたしは桜の花びら舞い散る坂の上で、
とある男の子を待っていた。

彼が新聞配達の途中に、この坂を通ることは下調べしてある。

「でも・・・ちょっと寒いな」

今のわたしの服装は白いベレー帽とワンピース。

しかも不意に吹き抜ける風が強くなって―――

ふわっ・・・

「あ、あああああ~!お願い、ちょっと待ってええええ~!」

いたずらな風に、ベレー帽が吹き飛ばされてしまった。

「わたしの帽子~~~!!!」

坂を転げ落ちる帽子に右手を伸ばしても、もちろん届かない。

風にたなびく髪を左手で抑えても、セットした髪がくしゃくしゃになっちゃう。

「行っちゃった・・・・・・あ」

「あ・・・・・・」

いつのまにか坂の下にいた、自転車に跨がる男の子と目が合う。

うそ、よりによってこんなタイミングで来ちゃった。

「ちょっと待ってろ!」

「えっ・・・・・・?」

男の子は自転車を降りるとスタンドを立てて

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ~っ!」

掛け声とともに、転がる帽子へ向かって全力で駆け出した。

「・・・・・・」

その姿をわたしは目に焼き付ける。

そこにいたのは、わたしたちが通う学校の有名人ではなくて・・・

額に汗をかいて一生懸命に帽子を追う、
かっこいい一人の男の子だった。

あの真剣な表情は前にも見たことがある。

去年の学園祭を目前に控えた校舎の屋上で。

「よしっ!」

帽子は大通りに転げ落ちる前に彼の手で救出された。

彼は帽子を高く掲げ、誇らしげにわたしに見せつけた。

「・・・ありがとう」

風に乗って、わたしの声は彼のもとへ。

「いや・・・こっちこそ!」

こっちこそ・・・?

その言葉の意味は、後になってわかるのだけど。


ともかくこれが、わたしと彼の゛劇的な出会い″。


ねぇ、安芸くん。


友達にも印象が薄いなんて言われるわたしだけど。


わたしから、あなたへ送るシグナル・・・


ちゃんと届いてくれたかな。


※   ※   ※


「・・・って思ってたのになぁ。がっかりだよ、安芸くん」

「いきなりなんだよ・・・」

「安芸くんが悪いんだよ?心あたり、いっぱいあるでしょ?」

「はい・・・」

ほんとに想定外だよ。

わたしなりに、精一杯身体を張ったのに、
1学期に会ったときには顔も名前も覚えてなかったなんて。

・・・1年の頃も同じクラスだったのになぁ。

「・・・・・・」

「か、加藤・・・?」

なぜか怯えてる安芸君。

ちなみに、ここは安芸くんの部屋で、
わたしたちは今新作ゲームの製作中だ。

「お、怒ってるか・・・?」

「怒ってないよ。安芸くんって、ほんとキモイなんて思ってないよ」

「怒ってますよね!?あと、思ってますよね!」

「前から思ってたけどさぁ。安芸くんは、わたしのことを
 メインヒロインとか言いながら全くわかってないんじゃないかなぁ」

「うぐっ・・・」

「だから、わたしが英梨々に焼きもちやいてるなんて
 ありえない妄想しちゃうんだよ」

「蒸し返すな!記憶から消し去りたいって自分で言ってただろ!」

「でもこれ、安芸くんの方が何十倍も恥ずかしいよね。
 今までさんざんヒドイこと言われたからさぁ。意趣返しにいいかなって」

「ごめんなさいごめんなさい!もう二度と言わないから許してください!」
 土下座でも何でもしますから!」

「安芸くん、原作8巻の第六章の8行目のセリフを
 大きな声で復唱してみようか」

「メインヒロインがメタなこと言うなよぉ!」

「・・・しょうがないなぁ。安芸くんは」

「あんな早朝に、女の子が用もなく一人で突っ立ってると思う?」

「そりゃ・・・思わないけど」

「なら、それが答えだよ」

「いや、まったくわからないんだけど」

「・・・安芸くんって、ほんとに安芸くんだよね」

「・・・とりあえず、馬鹿にされてることはわかった」

「そんなことより、早く安芸くんは巡離ルートのシナリオを考えてよね。
 遅れると原画の出海ちゃんが困るんだから」

「そんなこと、で片づけるなよ!」

安芸くんはともかく、ゲーム制作の進捗は巡璃ルートを除いて
だいぶ形になってきている。

それでも、とても安全圏だとは言えない。

出海ちゃんのお兄さんが組みあげたスケジュールは、
わたしたち全員が全力を限界まで出し切る前提で練られていて、
かなりキツめのものとなっている。

ここから先、毎日が修羅場になっていくのだろう。

「う~ん・・・」

安芸くんはテキストを打ち込んでは消し、打ち込んでは消しての
堂々巡りに陥っている。

「・・・週末の締め切りに間に合いそう?」

「正直厳しいけど・・・やるしかないだろ。」

安芸くんはパソコンのディスプレイから目を離し、
わたしと見つめあう。

「約束したからな。加藤を、胸がキュンキュンするような
 メインヒロインにしてやるって」

・・・ずるいなぁ。

ほんとにたまにだけど、この男の子は真顔でこんなことを言うんだもの。

四苦八苦している安芸くんに、わたしは助け舟を出してみた。

「英梨々ルートと同じ手法で書いてみたら?」

実際のわたしたちがモデルなんだから、元ネタには困らないはずだ。

「それは・・・ものすごい禁じ手だな」

そうしたら・・・

完全にわたしをモデルにしたゲームが完成してしまったら・・・

「わたしはもう、安芸くんのメインヒロインじゃなくなっちゃうのかな・・・」

「加藤・・・・・・」

・・・それは、怖い。

サークルに入る前の日々なんて、もうほとんど忘れちゃった。

今さら教室の隅っこに座ってる少女Ąには戻りたくない。

「何を言ってるんだ!俺が加藤を手放すわけないだろ!」

「え・・・・」

「このゲーム制作が終わっても、俺はずっと加藤がメインヒロインの
ゲームを作り続ける。だから加藤、お前もずっと俺と一緒にいろ!」

「・・・告白?」

「そう思うならそれでもいいぞ。加藤が傍にいてくれるならな」

「・・・それって、わたしが了承した流れになっちゃうよ」

その瞳には怯えが見えた。

本当はわかってる。

安芸くんは、わたしたちが離れて行くのを怖がってるんだよね。

英梨々と霞ヶ丘先輩がいなくなった時、あの坂で、
人目もはばからずに泣いたほどに。

あの時―――本当は抱きしめてあげたかった。

でも、それを人前でするにはまだ、わたしの勇気が足りなくて・・・

「大丈夫だよ」

「わたし、サークル止めないよ」

「ずっと、傍にいるよ」

だからそんな泣きそうな顔をしないで。

「ずっと、わたしのヒーローでいてね」

「・・・ああ、約束する!」

ヒーローという意味を安芸くんがどう受け止めたのかはわからない。

でも、彼の横顔を見ただけで、わたしの胸に温かいものがこみ上げてきた。

うん・・・やっぱり、安芸くんは素顔の方がいいな。

いつから眼鏡をかけだしたのかは知らないけど、
冷戦に突入する前の英梨々と氷堂さんは
いつもこれを見てたのかな。

そもそも安芸くんがこんな美形だとは思わなかったよ。

眼鏡を取ったらイケメンに大変身とか、
えと・・・これ何てエロゲ?ってやつだよね。

・・・あれ、ちょっと違うかな。まぁ、いっか。


時計の針が深夜を告げた頃、
わたしは睡魔に襲われて船をこぎ始めた。

「寝ていいぞ?あとは俺がやっておくから」

「・・・ごめん、そうする。ベッド、使わせてもらうね」

普通に考えれば、付き合っているわけでもない男の子の部屋で
寝るなんて無防備にもほどがあるけど、安芸くんが寝込みを襲ったりする
人じゃないことはわかっている。

それよりも、休めるときに休まないと、本当に修羅場に陥った時に
身体がとてももたない。

「おやすみ、安芸くん」

「おやすみ、加藤」

シーツから伝わるお日様の匂いと、微かな安芸くんの匂いに包まれて
急速に意識がぼやけていく。

疲れがたまっていたのだろう、心地よい眠りはすぐに訪れた。


※   ※   ※


わたしの通う豊ヶ崎学園には、三人の有名人がいる。

一人は澤村・スペンサー・英梨々さん。

英国人と日本人のハーフで、さらさらの金髪をツインに束ねて
両の碧眼は水晶のように透き通っている。

ひとたび彼女が傍を通れば誰もが振り向くような美貌の持ち主だけど、
彼女の魅力はそれだけじゃない。

入学してすぐに市の展覧会で入選して、一年生でありながら
押しも押されもせぬ美術部のエース。

家がお金持ちとか、お父さんが外交官とか、そんな噂まであって、
しかも性格もおしとやかというのだから、
神様もえこひいきが過ぎるよね。

天は彼女に二物も三物も与えちゃったのに、
誰も疎ましく思わない、まさに高嶺の花。

一人は霞ヶ丘詩羽先輩。

艶のある流れるような黒髪は、きめの細かい白い肌とともに
先輩の純和風な美貌を引きたてている。

入学以来テストで1位以外を取ったことがなく、
学園始まって以来の才女と目されている。

さらに言えば、休み時間で見かけたときには
いつも本を広げていて、読みながら髪を整える姿が
とても絵になる文学少女。

そしてもう一人が・・・

「おい倫也、今日も職員室に行くのか?」

「ああ。絶対に許可を出してもらう!」

わたしと同じクラスにして、学校一のオタクの安芸倫也くん。

成績も運動も平均的で、そこはちょっと親近感。

来週末に控える学園祭でアニメ上映会を行うべく、
今日も先生たちの説得に向かうらしい。

「オタっ君、がんばれ~」

「実現したら見にいってあげてもいいよ~」

そんなからかいと好奇心に満ちた声援に軽く手を振って、
安芸くんは彼の戦場へ赴く。

その姿は別にかっこよくもなんともないんだけど。

なんか、いいなぁって思うのはなんでだろうね。


お昼休み。

「ごめん、恵。今日は彼氏と食べる約束してるんだ」

「そうなんだ。なら仕方ないね~」

こんな風に何度か友達に声をかけてみたものの、タイミングが合わなかったり
先約があったりして、やんわりと振られてしまった。

まぁ、こんな日もあるよね。

「・・・屋上にしようかな」

わたしは教室を出て、弁当箱片手に校舎の階段を上がっていった。

屋上と昇降口を繋ぐ扉を開けると風が吹き込んできた。

屋上に出てみたものの深まりゆく秋の風は冷たく、思わず身震いする。

やっぱり教室で食べようかな。

引き返そうとした視界の端に、ベンチに座って頭を抱える
安芸くんの姿を捉えた。

一目で今回もダメだったんだとわかる落ち込みようで、
これがマンガなら、たぶん彼の周りには黒いオーラが出てると思う。

声をかけるか躊躇ったものの、わたしは意を決して近づいてみた。

「・・・隣、いい?」

安芸くんは顔をあげチラっとわたしをみたけど、特に何も言わなかった。

わたしはやや距離を置いて同じベンチに座る。

「・・・キモオタの俺と一緒にいるところを見られたら、変な噂が立って
 困るんじゃないか?」

「平気だよ。ほかに人影はないし、そもそも安芸くんとわたしだし」

日ごろから二次元好きを公言しているオタクの安芸くんと
とりたてて特徴のないわたし。

噂にしても面白いとは思えない。

「また撃沈したみたいだね」

「・・・見てたのか?」

「見てはないけど、見ればわかるよ」

弁当箱のふたを開けると、たまごやきやほうれんそう、
ひじきにミートボール・・・などなど。

そして白ご飯に梅干し付き。

いたって普通のお弁当だ。

「お昼ご飯食べた?」

「焼きそばパンとカツサンド。ギャルゲーの定番だ」

「ふ~ん」

たまごやきをかじると、甘い風味が口内に広がっていく。

うん、おいしい。

「それで、これからどうするの?まだ諦めない?」

「諦めるわけないだろ。まだ焦る時間じゃない。
 今日がダメでも明日があるんだよ」

安芸くんはようやくわたしを正面から見る。

「あれ、同じクラスの加藤じゃん」

「い、今気づいたの?」

ひどいんじゃないかな、という感想はともかく。

「そんなに上映会したいなら、ゲリラでやってみたら?」

「俺は伝説を創りたいわけじゃない。ただみんなに
 アニメというサブカルチャーの素晴らしさを知ってもらいたいんだよ」

「安芸くんって意外と真面目だよね」

「俺は生粋のオタクだが不良じゃないからな」

「それに、行動力もあるし」

実際、安芸くんは先生を説き伏せて校則で禁止されている
アルバイトを認可してもらっている。

お金の使い道が、全てオタクグッズなのはご愛敬なのかな。

「うん、わたし安芸くんのことあんまり嫌いじゃないかも」

「・・・少しは嫌いなんですね。上げて落としてるぞ、それ」

それがどんなことでも、誰かが一生懸命になってる姿って良いよね。

何事にも全力で取り組んだことのないわたしには、
安芸くんの姿が眩しく映る。

やる気と情熱―――

それが安芸くんにあってわたしにないもの。

そんな自己分析はできてるのに、変わろうとしないから
いつまでたってもあか抜けない。

人間は、一人一人が人生という物語の主役なのだという。

それは嘘ではないだろうけど、詭弁が混ざっているようにも感じる。

だって、きっとわたしを主役にしても面白い物語は書けない。

澤村さんや霞ヶ丘先輩、そして安芸くんなら・・・
読者をドキドキさせる、見応え十分の物語となるんだろうな。

「ねぇ、安芸くんの夢ってなに?」

「何の脈絡もない上にプライバシーの侵害だぞ」

「・・・そっか、無いんだね」

「ちょっと待て、どうしてそうなった?」

「安芸くんの目が泳いでるから、かな?」

「今が充実してるからいいんだよぅ・・・」

でも、安芸くんは急に閃いたように、

「何か、でっかいことをやりたいと思う」 と、言った。

あくまで妄想の域を出ない・・・“ちゃんとした”、夢。

だけど、この日一番、安芸くんの瞳は輝いていた。

「オタが集まって、バカなことをやって、でも命がけで・・・・
 時間が流れてまた集まったとき、俺たちって本当にどうしようもない
 キモオタだなぁって笑い飛ばせたらいい」

「・・・・・・・・・」

どうあってもオタクがついて回るのが安芸くんらしい。

でもね。

「・・・すごくいいと思う」

彼の思い描く未来が、わたしにも形になって見えた気がした。

その未来は、安芸くんと、まだ名前も顔も知らない誰かたちと・・・


それから・・・・・・わたし。


「わたし・・・・・・応援するよ」

まだ未完成だから、一つ一つパズルのピースを埋めていって。

いつかたどり着くのは、みんなが笑ってる、眩しい未来地図。

わたしをときめかせる、幸せな巡り合い。

わたしもその輪の、端っこに加われたら、そんな素敵なことはないよね。

「ごちそうさまでした」

お弁当を食べ終わるのと同時に、
二人だけの時間の終わりを告げる予鈴が鳴った。

「加藤のおかげでいい気晴らしになったよ。ありがとな」

「どういたしまして。ところで安芸くん、次の英語は小テストなんだけど、
 ちゃんと勉強してきた?」

「・・・・・・え?」

あ、固まっちゃった。

「忘れてたんだね・・・」

「ま、まだ最後の悪あがきをする時間はあるもん!
 いくぞ、加藤!」

「は~い」

駆け出・・・そうとしてギリギリの早歩きで校舎内へ戻る
安芸くんの背中を追う。

安芸くん。

わたし、あなたを見つめ続けてみるよ。

そうしたら、いつかわたしも胸を張って好きだといえる、
本当の宝物を見つけられるかもしれないから。


後日。


安芸くんの努力と執念が実を結び、みごと文化祭で
アニメ上映会が開催されることとなった。

意外にも足を運んだ人は多くて、好評の内に終わったらしい。


よかったね。


おめでとう、安芸くん。


※   ※   ※

「・・・・・・ん」

小鳥の歌声が朝を知らせる。

まだ寝ていたいという欲望にあらがって身体を起こすと
部屋の窓から差し込む朝日が目に入って眩しい。

「・・・そっか。わたし、安芸くんの家で・・・」

覚醒していく意識。

その中で、わたしは先ほどの夢に想いを馳せる、

懐かしい、夢だった。

きっと安芸くんは忘れてるだろうけど、
わたしの大切な遠い日の記憶。

「・・・安芸くん?」

見れば安芸くんは床に転がって寝息をかいている。

「お疲れさま・・・」

安芸くんにタオルケットをかけてあげた。

シナリオは・・・完成したのかな?

電源が点いたままのパソコンのディスプレイには、
テキストファイルが表示されている。

全体に文字がびっしり埋め尽くされ、文末にはENDの文字が打ってあった。

そっか・・・書きあがったんだ。

もちろん、これがそのまま完成稿になるわけじゃないことはわかってる。

これを土台に叩いて、加筆と修正を繰り返して、みんなが納得する
叶巡離のストーリーを練り上げなければならない。

でも、ここにあるのは安芸くんが一人で創り上げた、
“混じりけなしの安芸くん”の物語。

さらに言うなら安芸くんというクリエーターの心、あるいは魂そのもの。

「読むね、安芸くん・・・」

そしてわたしは、安芸倫也が生み出した世界へと飛び込んでいった。


ある春の日に、俺は、運命と出逢った・・・

穏やかな日差しが降り注ぎ、暖かな風が通り抜け、桜の花びらが舞う長い坂。

そして、そのてっぺんに佇む一人の女の子。

名前も知らない、会ったこともない女の子。

新たな予感に胸を躍らせる、そんな瞬間・・・・・・

俺はそのとき、恋をした。



物語は、そんなプロローグから始まる。



後編へ続きます。



  1. 2016/01/02(土) 00:45:14|
  2. 冴えない彼女の〜SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

パワプロクンポケット7 霧島玲奈SS 追憶

もしかしたらそれは一目惚れだったかもしれないし、
そうじゃなかったかもしれない。

確かなのは、あたしはあの時、いいなぁって思ったこと。

誰よりも一生懸命に白球を追いかけていた
キミとの再会は、3年後の桜舞う季節。

「俺は甲子園に出て、プロ野球選手になる!」

男の子らしく背が伸びて体つきも逞しくなってたけど
そのまっすぐな眼差しは全然変わってなくて。

キミの夢も、ずっと同じままだった。

初めて会ったとき、心の中で「こいつバカだ」って思ったこと、
まだ謝ってなかったよね。

ああ、でもキミはあたしのことを覚えてなかったから、
それでおあいこでしょう?

あたしが野球部のマネージャーになったのは
キミに会えたからなのに。

・・・うん、許してあげる。

もう誰も笑ったりしないし、バカにしたりしないよ。

だってキミは———本当に夢を叶えたんだもの。


キミは甲子園にエースとして出場して。


日本一という最高の結果を残して。


秋のドラフト会議で指名されて。


あたしの手の届かない所までいっちゃった。


かたやプロ野球選手。

かたやどこにでもいる野球好きの女の子。

全然釣り合わないや。

でもね。

時々はこうやって、心の中に大切に仕舞っている思い出を
引っ張り出してひたってもいいでしょ?


あたしの夢はキミの夢で。


キミの夢は・・・あたしの夢だったんだから。







「玲奈って、部活は何やるか決めてるの?」

しわ一つない新しい制服に身を包んで、
あたしは友達とこれから3年間通う花丸高校の
通学路を並んで歩いている。

隣の彼女とは小学校の頃からの付き合いで、
入学式の日は一緒に登校しようと前から決めていた。

「あたしは・・・野球部のマネージャーやろうかなって」

桜並木をくぐり抜けながら、あたしは答えた。

伸ばした掌にひらひらと花びらが舞い落ちる。

陽だまりを吹き抜けるそよ風は、春の匂いがした。

「えっ、また?中学の時もやってたじゃん」

そう、あたしは中学生の頃、男子野球部のマネージャーを務めていたのだ。

最初は右も左もわからなくて、野球のルールすら覚束なかったけど、
しばらくしてからはあたしも野球部にちゃんと貢献できていたと思う。

「高校くらいは別の部活やったら?玲奈は運動神経も悪くないんだからさ」

「いいの。あたしは野球が好きだから」

「じゃあ女子ソフトボール部に入ればいいんじゃない?」

「野球とソフトボールは全然違うよ」

「そうなの?私には同じに見えるけど」

もちろん、ソフトボールを否定する気は全くない。

夢に向かって一生懸命に打ち込む姿は、野球とかソフトボールとか
競技を問わずにみんなカッコいいから。

でも・・・あたしにとって、野球は特別なの。

「まぁ、玲奈の好きにすればいいけどさ」

「うん、そうする」

その理由は誰にも言えない、あたしだけの秘密・・・


入学式が終わり、自分のクラスに移動してこれから一年間お世話になる
担任と顔を合わせたりして、つつがなく時間は過ぎていった。

友達とは別のクラスになっちゃったけど、変わらずこれからもよろしくね。


放課後、あたしは野球部の練習を見るため
グラウンドへと降りて行った。

ランニングを続ける野球部員たちの姿を、邪魔にならないよう端の方で
視線の先に捉える。

「よし、声を出していくぞ!」

先頭を走るキャプテンらしき人に続いて、オウ、オウ、とみんなが応える。

あたしはその先頭の人に見覚えがあった。

「あの人・・・生徒会長だ」

確か、東センパイ。

美形の顔立ちに加えて成績優秀、運動神経にも恵まれ、
生徒や教師たちからの信頼も厚く
生徒会長まで務める完璧超人・・・・らしい。

そういえばクラスメイトの女の子たちが騒いでたっけ。

ランニングが終わり本格的な練習が始まった頃には
気が付くとあたしの他にもギャラリーはいっぱいいた。

みんな目当ては東先輩みたいだけど。

まぁ、イケメンだもんね。

「東先輩ってほんとカッコいいよね~」

「今フリーなんだよね。私、アタックしちゃおうかな?」

周囲の黄色い声援には加わらず、あたしはグラウンドの横を抜けて
その日はまっすぐに家へと帰宅した。



「野球部顧問の佐和田だ。よろしく」

顧問の佐和田先生は温厚そうな人だった。ドラマに出てくるような鬼顧問だったら
どうしようかと思ったけど、一安心。

でも・・・なんだろ。

覇気に欠けてるような・・・気のせいかな?

「今日の放課後、上級生と新入部員の顔合わせをするから君も出てくれ」

「あ、はい」



そして———放課後。



待ってたのは、キミとの再会。


3年という時間は、人を変えるに十分な時間だったみたい。

背が伸びて、体つきもしっかり男の子らしくなってて、
思い出の中のキミよりずっとかっこよくなってた。

「あの・・・」

練習に向かう僅かな間、あたしは思い切って話かけてみたの。

もしかしたらあたしのこと、覚えてくれてるかも。

そんな淡い期待を抱きながら。

「え?」

キミと目が合う。たったそれだけのことで
あたしの体温は上昇して胸の奥が甘く痛んだ。

「あたし、霧島玲奈(きりしま れな)。新入生同士、よろしくね」

「あ、うん。俺は小南慎悟(こなみ しんご)。よろしく」

「小南・・・・くん」

3年ごしにわかった彼の名前。あの時は訊けなかったから。

と、突然小南くんの隣にいた眼鏡の男の子がはしゃぎだした。

「やったでやんす!美人マネージャーでやんす!」

や、やんす・・・?

「おいおい、声が大きいぞ湯田くん」

「湯田浩一でやんす。よろしくでやんす」

「あ、うん。よろしく」

小南くんを真ん中に、自然と並んで歩き出す。

「あたし、中学の時も野球部のマネージャーをやってたから、
ちゃんとみんなの役に立てる思うよ」

ちらっと小南くんを見る。

小南くんは感心したように目を見張っているけど、
それ以上の反応は返ってこなかった。

・・・やっぱりあたしのこと、覚えてないみたい。

あたしは忘れたこと、なかったんだけどな。

自分で思った以上に残念がってるあたしがいた。

「霧島さんみたいにかわいい子が部内にいたら、
つらい練習にも身が入るというもんでやんす」

「あ、キリちゃんでいいよ。男の子の友達はそう呼ぶから」

「わかったでやんす」

「へぇ・・・俺もそう呼んでいいかな?」

私は悩んだ後、

「・・・・・・ダメ」と答えた。

「ええっ!?」

この世の終わりのような顔をされてしまった。

もしかしたらメンタルはけっこう打たれやすいのかもしれない。

「小南くん・・・ドンマイでやんす」

「トホホ・・・」

今にも泣きそうな彼の表情に罪悪感が募るけど、
ごめんね、でも譲れないの。


だって・・・・


キリちゃんって呼ばれたら・・・


友達で終わっちゃいそうなんだもん。



  1. 2015/05/21(木) 00:12:16|
  2. パワプロクンポケット7SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

貴方は未来の子供達に、何をプレゼントする?

※この時期の某赤い服の人とは関係ないです。

ファンタスマゴリアに込められた想いの一節、です。


名曲の多いヒュムノスの中でも『EXEC_PHANTASMAGORIA/.』が一番好きな私。

このファンタスマゴリアにはオルゴールがあって、
それがすごく欲しいけれど・・・

あれって動画サイトに投稿されているように、36秒しか再生時間がないのでしょうか?

以前に駿河屋で一万円超えであったけど、いくら大好きな曲でも
36秒でこの値段はちょっと・・・w

オルゴール持ってる方がいたら、ぜひ教えてください!



  1. 2014/12/20(土) 23:09:46|
  2. アルトネリコSS(修正中)
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3

アルトネリコ 二次創作 クロア×ジャクリ後日談SS            ~世界の頂上でシアワセを詩う彼女~  第18話

・・・ああ、生きてる。

ゆっくりと覚醒する意識の中で、私は自分の状態を把握する。

痛みは・・・ない。

頭部を殴打されたことによる後遺症の心配もなさそう。

それなら、起きなきゃ。

相手が誰であろうと、どんな理由があろうと、
あの一撃の借りは返さなくちゃ寝覚めが悪いものね。


最初に視界に入ったのは、木造の天井。

身体を起こすとベッドのシーツが乱れお日様の匂いがした。

周囲を見回せば清潔に整頓された医療器具や、
棚に置かれた複数の薬品の瓶が目に映る。

私は、この場所に見覚えがあった。

ここは、再興が進むスクワート村の一画に設けられた簡易の診療所だ。

「あ、ミシャちゃん! よかった、目が覚めたんだね!」

「っ!?」

本能的に身体を震わせ、私は彼女と目を合わせる。

「オ、オリカ・・・!」

本物か否か。外見では判断が付かない。

「待ってオリカ。近づかないで」

「え・・・」

オリカが表情を曇らせる。

彼女が本人なら友だちにひどい言い草だけど、
また不意打ちされてはたまらない。

「オリカ、これから私が言う質問に答えてくれる?」

「質問?いきなりどうしたの?」

「いいから。お願い」

「う、うん・・・」

一問目は・・・

「私たちがアル・トネリコの頂上で謳ったヒュムノスの名前は?」

「ファンタスマゴリア」

そう、世界中の人々の想いが込められた平和を願うヒュムノスだ。

「メタ・ファルスからミュールが連れてきた騎士の名は?」

「クロア。あの二人ってラブラブだよね」

それは私もそう思う。ライナーも少しは見習ってくれればいいのだけど・・・

無理よね、ライナーだもの。

「じゃあ・・・最後の質問ね」

ごくりと喉を鳴らし唾を飲み込む。


「シュレリア様がサスペンドで眠りに付いた時、
 起こすためにライナーが私に言った言葉は?」


「えっ・・・い、いいの・・・?」

オリカの困惑も無理はない。

この質問の答えは、私に深い痛みをもたらすのは明白だ。

私にとって、見えている地雷を自分から踏みにいくようなものだ。

それでも・・・確かめるために言ってほしい。覚悟はできている。

「じゃあ・・・言うね」

長い沈黙の後・・・彼女は禁断の言葉を口にした。




「ミシャ・・・謳ってくれ」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」


噴出した冷や汗が、滝のように流れ落ちる。

「大丈夫!?顔が真っ青だよ!?」

懸命に、「へ・・・平気・・・」と答える。

本当は動悸が激しく、首を絞められたように息苦しい。

全身を寒気が覆い、気を抜けば吐いてしまいそうだ。

先の一撃よりずっと強烈で・・・忘れかけていた懐かしい痛みだった。

こうして・・・私は多大な犠牲と引き換えに、目の前にいる彼女が
オリカ本人であることを理解ったのだった。


「私に変身したテル族・・・?」

「ええ。無警戒の背中からがつんとやられたわ」

「ミシャちゃん・・・一緒に旅もしたのに私と偽者を見破れなかったの?」

「気持ちはわかるけど、顔や声はおろか体格まで一緒だったのよ。 
 あれを事前の情報なしに見破るのは困難だわ」

「そっか・・・厄介だね」

「そうでもないわ。少なくとも私たちレーヴァテイルは謳ってみせればいいんだから」

単純な話だ。テル族でも謳うことはできない。

「あ、そうだよね。じゃあ、何で私にわざわざ言わせたの?」

「決まってるじゃない!この怒りをあの女にぶつけるためよ!」

一瞬でも死ぬかと思ったのだ。簡単に水に流せるはずがない。

「ごめんなさい、オリカ。ちょっと抜けていいかしら。
すぐにみんなに知らせたいの」

「いいけど・・・今日くらいは休んだほうがいいんじゃないかな?」

「そんな暇はないわ。あの子のことも心配だし、事は一刻を争うかもしれないの。
 オリカのおかげで身体も無事だし、すぐに出るわ」

「あ・・・そのことなんだけどね」

「・・・?」

「ミシャちゃんの傷を治したのは私じゃないの」

てっきりオリカだと思ったが違うらしい。

「なら、誰かしら?お礼を言っておきたいんだけど」

「それが・・・よくわからないんだよね。私たちが森で倒れてるミシャちゃんを
 見つけた時にはもう傷は治ってたの。血は結構出てて、髪や頬についてたけど・・・」

「ちょっと待って。私、森で倒れてたの?」

「そうだよ?」

あの二人が運んだ・・・とは考えにくい。その必要もない。

いつのまにか治っていたという傷は、あのレーヴァテイルが直してくれた可能性も
捨てきれないけど、あの子は恐怖に怯えていたし、
何よりも私を殴打したあの女がそうさせるとも思えない。

そこから導き出せるのは・・・?

「もう一人・・・誰かいたということかしら、あの場所に・・・」

「そういえば、ミシャちゃんのお腹の上にこんなものが落ちてたよ」

オリカが私に見せたのは白い―――鳥の羽根だった。

「失礼します。ライナーさんたちが訪ねて来ています」

ノックの後、仲間のレーヴァテイルが一報を持ってきた。

私とオリカは顔を見合わせる。

「いいタイミングだね。入ってもらって」


「ふざけんな!そんなワケあるか!」

モノを蹴り上げかねない迫力でアル兄ぃが吼えた。

「俺も・・・信じられない」

一見冷静なライナーにも、明らかな怒気が見て取れる。

私を襲ったのがテル族だったという事実を受け入れられないようだ。

私も当事者でなければ、同じ反応を示していたように思う。

だけど一方で、二人は私がそんな嘘をつかないことを知っている。

真実だとわかるから、やりばのない怒りが込み上げているようだった。

「フラウトんとこへ行って来る!」

言うより早く、止める間もなくアル兄ぃが飛び出してしまった。

「俺たちも・・・」

「待って、話にはまだ続きがあるの」

私はミュールに向く。

「ミュール。あなた、ジェネリックβって知ってる?」

ミュールが目を細め、眉間にしわを寄せた。心当たりがあるらしい。

「ミシャ、どこでそれを?」

「えっと、ある意味、あなたが教えてくれたんだけどね」

天覇・・・というよりボルドに軟禁されていた時に読んだ本の中に
その記述を見つけたのだ。

ジェネリックβ・・・それは、“オリジンのシミュレータ”から造られた、
私たちとは異なるβ純血種だという―――


  1. 2014/11/04(火) 23:16:28|
  2. アルトネリコSS(修正中)
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
次のページ