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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

キスベル 高幡ちはるSS

「なによこれーーー!」

俺とちはるしかいない我が家にちはるの叫びが響き渡ったのは、
連休初日の夜のことだった。

ちはるは顔を真っ赤にして、手に持った写真を凝視しながら身体を震わせている。

ちなみに俺は、ちはるの前で土下座モード。

うん、お手本になりそうな綺麗な構えだ―――という具合に現実逃避するほどには
この状況がどれほど危機的なのかわかっていた。

「市生くん?」

「は、はいっ!」

「これは、なんなのかな?」

「お、男の夢でございます」

その瞬間、さっきまでちはるが開いて眺めていたアルバムが
俺の頭めがけて振り下ろされた。

「いてぇっ!」

横じゃなく、縦で叩いてきたぞ・・・!

「あ、アルバムは鈍器じゃないぞ!」

「うるさーいっ!バカ、バカ、バカぁっ!」

涙目になりながら何度も激しく連打するちはる。俺の頭蓋骨を陥没させる気か!?

「やめっ、俺が悪かった!許してください!」

懇願するも冷静さを失った今のちはるに届くはずもなく、
俺は両手で頭を守って嵐の沈静化を待つのだった。



嵐が去ったのはそれから数分後。

「はぁっ、はぁっ・・」

肩で息をするちはるは額の汗を拭う。

女の子が呼吸を乱しているのってエロいよねと思いつつ、

「落ち着いたか・・・?」

睨みつけられるものの、追撃が来ることはなかった。

「・・・説明」

「・・・・はい」

犯行を自供する犯人のように、ぽつりぽつりと口を開く俺だった。



話は今日の夕方まで遡る。

「一緒の大学に行こうね!」

それを合言葉に、3年の初春から勉強漬けの日々を送る俺たち。

ちはるの志望は1年早く入学を決めた彩乃姉さんと同じ難関大で、
ちはるでも入学できるかどうかのレベルだ。

俺では逆立ちしても合格できないし、先生にも現実を見ろと一蹴されたけど
瞳を輝かせ未来に俺とのキャンパスライフを描く恋人の想いを
やるまえから無碍にすることはできなかった。

「大丈夫!市生くんならできるよ!」

俺の成績を知りつつ、それでも本気で応援してくれるちはるのために
一念発起した俺は、ひたすら教科書や参考書と格闘する毎日だ。

「・・・そろそろ休憩する?」

疲れたのだろう、ちはるはペンを離した手をぷらぷらさせている。

「いや、もうちょっとだけやるよ」

「そっか。じゃあ、わたしもがんばる」

2年の頃なら簡単に放り出していただろう俺に、
ちはるは微笑って付き合ってくれた。


「つ、疲れた・・・」

「お疲れ様、市生くん」

きりのいいところまでやり、座ったまま背筋を伸ばす。

「今日は結構進んだな」

「うん。わたしも手応えを感じてる」

勉強は一朝一夕じゃ身につかない。
だからこそ、抜き打ちテストなどで点数が伸びているところを見ると
自分の成長を実感できる。

「っと、もうこんな時間か」

壁にかけられた時計は午後7時前を指し、
窓から外を見やれば既に日が暮れはじめている。

「ご飯はどうしようか?」

「ん〜・・・自炊は疲れてるから避けたいし、いつものラーメン屋に行くのもなぁ」

「昨日行ったばかりだもんね」

俺だけでなく彩乃姉さんとも足を運んでいるようで、
今ではちはるもあの店の常連となっている。

「しょうがない、面倒だけど作るか」

彩乃姉さんや誠司には劣るけど、俺も自炊の心得がないわけじゃない。

「・・わたしが作ろうか?」

「う〜ん・・・」

彼女の手料理という選択肢は捨てがたいけど
そそっかしいちはるに任せるには一抹の不安がある。

ちはるもわかっていて、不満そうに頬を膨らませているものの
進んで台所に立ったりはしない。

「・・・一緒に作ろうか」

「え・・・う、うん」

隣で見ていれば大きな失敗はしない、よな・・・?



「ごちそうさまでした」

食器を片付け、部屋に戻ってきた俺たち。

食後のコーヒーを味わいながら、ちはるに尋ねる。

「今日は泊まっていくんだよな?」

「うん。お父さんたちには夕美の家へ泊まるって言ってあるから」

互いの両親公認のカップルとは言え、結婚前の娘さんが
彼氏の部屋で一晩過ごすとなると彼女の両親はいい顔をしないだろう。

そんなわけで、ちはるが泊まる時は度々長津田さんにアリバイ作りを頼んでいた。

―――もっともちはるのお母さんは、「早く孫の顔を見せてね」と
どこまで本気か冗談かわからないセリフを満面の笑みでおっしゃってくれましたが。

あの自由奔放さは、彩乃姉さんと気が合うだろうなぁ。

「・・・なんか他の子のこと考えてる気がする」

じと目をむけられ、本当のことを言うわけにもいかず慌てて否定する。

「そ、それよりこの後はどうする?」

何か話題はないかと自分の部屋を見やったとこで、
気になるものが目についた。

「そういえば、そのバッグいつもより大きいよね。何が入ってるんだ?」

膨らんだちはるのバッグはお泊りセットだけではなく
他にも何か入ってそうだ。

「えっと、その・・・」

ちはるは頬を赤らめ、俺から視線をそらす。

何だろうかこの反応は。

まるで恥ずかしいものでも入ってるような・・・

「そ、それより市生くん。アルバム、見せてほしいな」

露骨に話をそらしにきたな。

「アルバム?」

「うん。市生くんの小さいころ見たいから」

ちはるの反応は気になったものの、勝手にバッグを漁るわけにもいかない。

「まぁ、別に見られて困るものでもないし、いいよ」

棚から適当にアルバムを掴んで机の上に広げる。

「わぁ・・・」

貼られた写真には、どれも中学生の頃の俺が悪戯っぽい笑顔で写っている。

「あはは、市生くん可愛い」

「可愛いは男には褒め言葉じゃないんだけどな」

ページをめぐるたびに思い出が溢れだす。

そのほとんどが何らかのイベントで、トラブルに巻き込んだり
巻き込まれながらも全力で楽しんでいる。

「市生くんってこの頃から全然変わってないんだね」

ちはるもわかってるのか、くすくすと笑っている。

「これでもちょっとは成長してるつもりなんです」

「ほんとかなー」

子どものように目を輝かせて、

ちはるは夢中でページをめくる。

たったそれだけの仕草が、とても愛らしい。


やっぱり俺の彼女は可愛いなあーーー


なんて、油断がまずかったのかもしれない。


不意に場の空気が凍りついたのがわかった。

「ち、ちはる・・・?」

逃げたほうがいいと本能が警告してくれたのに、
俺は愚かにも声をかけてしまった。

「・・・・・・」

ちはるは無言で一枚の写真を摘み、俺の鼻先に突きつける。

そこには、


「あ―――――ああっ!?」


ちはるの黒歴史―――文化祭でノリノリでメイド服に見を包んだ彼女―――が
ばっちりと写っていた。


しまった―――!!

ちはると付き合いだしてから、もう写真では満足できなくなったので
アルバムに挟んだままだったのを完全に忘れていた。

脳を回転させて言い訳をひねり出そうと試みても
彩乃姉さんほどずる賢くない俺に妙案は浮かばなかった。

「ふふふ・・・」

すっごい笑顔なのに、何かのオーラを迸らせている。

この迫力・・・まるで朋子先輩と向き合っているようではないか。

「ねえ、市生くん?」

「な、なんでしょうか・・・」

「少し、お話しようか」

「・・・はい」

2時間くらいは説教を覚悟したほうがいいかもしれないな・・・


そして時間は今に戻り。

観念した俺は文化祭の時、密かに写真を撮っていた悪友から
もらったと説明したのだった。



「うう〜・・・」

羞恥のあまり真っ赤な顔でちはるはうなだれている。

「いつ撮られたんだろ・・全然気づかなかった・・・」

あの時ノリノリだったもんな。

「これだけだよね?他にあったりしないよね?」

「・・うん、それだけだよ」

本当はけっこうな数が出回っているが、言わない方がよさそうだ。

まあ、この写真を買った奴らも、ちはるが俺の彼女になった以上
いつまでも他人の彼女の写真を所持してないと信じよう。

「これは、没収!」

乱暴にバッグに突っ込まれて、もう俺の目に触れることはなさそうだ。

忘れていたのに、惜しいと思ってしまうのは男の性かもしれない。

「ほんとに、もう・・・」

「いや、悪かった。でも、変なことには使ってないから」

「そういう問題じゃないよ」

ちはるの言うことが正しいので俺としては平伏するしかない。

ちはるの許可を取ってなかった分、ほとんど盗撮だもんな。

「男の子って、みんなこういうのが好きなの?」

「可愛い子がコスプレしてるのに喜ばない奴は男としてどうかしてると思うんだ」

ちなみに親友の誠司は学校指定水着が好きだったりする。

「・・・・・・」

ちはるの視線が痛いが本心なのでどうしようもない。

「・・・わたしのメイド服姿、そんなに見たい・・・?」

「そりゃ、もちろん。すごく似合ってたからさ」

「・・・じゃあ、着てあげる」

「え・・・?」

一瞬、聞き間違いかと思った。

「すごく恥ずかしいし、彼氏の選択を間違った気もするけど・・・
 市生くんのためだから・・・き、着てあげる」

「あ・・・う、うん」

ちはるもだが、俺の顔も赤くなっていることだろう。

身体が熱を持ち、胸の鼓動も高鳴っているのがわかる。

「じゃあ着替えてくるからちょっと待ってて」

バッグを持ち、部屋を出て行こうとする背中に声をかける。

「え、持ってきてたの?」

「市生くんががんばったらご褒美にって・・・」

「なら、せっかくだから目の前で着替えてほしいなぁ」

そう言うと睨まれてしまった。

裸は大丈夫なのに着替えは見せてくれないなんて、
女の子はわからない。


実際には数分だろうけど、一時間にも思える長い時間の後。

開かれた部屋の扉に、待ち焦がれた俺は視線を送る。

「お、おお・・・」

現れたのは、文化祭で着せられたメイド服で再び身を包み、
ミニスカートとガーターベルト、そしてストッキングで
惜しげもなく絶対領域を披露する俺の彼女。

耳まで紅潮させて、恥ずかしさに耐えているのかぷるぷる震えている。

何度も妄想したけど、その上をいく衝撃に思わずつばを飲み込む。

「ど、どうかな・・・?」

「俺の彼女は最高だと思います」

図らずも叶ってしまった男の夢に興奮を隠せない。

理性がどんどん削られて、性欲が強まっていく。

この姿のまま抱きたい。服を着せたまま、ちはるの秘所を貫きたい。

「い、市生くん・・・?」

「市生くん・・・じゃ、ないだろ?」

発言の意図を察し、ちはるは俺の望む言葉を口にした。

「ご、ご主人様・・・」

鼻血が出てしまいそうだ。

「ご主人様の、大きくなってる・・・」

俺の股間の変化に気づき、恥ずかしそうに指摘する。

ちはるの呼吸も多少乱れているのは、彼女も興奮しているからだろう。

「ちはるはかわいくてエロいな」

近づいて抱きしめて、キスを交わす。

柔らかい唇の感触を楽しみ、俺はちはるの耳元でささやいた。

「・・・いいよな?」

「うん・・・ちはるをかわいがってください、ご主人様・・・」

少しの間、さよなら俺の理性。

俺はメイド服の上から、ゆっくりちはるの胸に手を当てた。




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  1. 2016/05/31(火) 01:46:31|
  2. キスベルSS(完結)
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