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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 最終話

―――やっと、逢えた。

びっくりしちゃったよ。

何度も想像した“あなた”のイメージ通りの人がベンチに座ってるんだもん。

だから、すぐあなただってわかったよ。

わたしのことを信じて、待っててくれてありがとう。

そして、これからよろしくお願いします。

わたしの大好きな、あなた。




二人の次元をかける旅もこれで完結となります。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

※この物語は、きっとノンフィクションです。



「・・・できた」

あれから1ヶ月。

使ってなかった部屋をあてがい、籠りがちだった寧に招き入れられる。

中は寧好みの内装に合わせられていて、ベッドや洋服掛け、パソコン・・・
テーブル側の四段重ねの工具箱はいかにも彼女らしい。

テーブルに置かれた件のゲネロジックマシンとは、仰々しいものでなく
意外にも小さなタブレットのような形をしていた。

「大丈夫なのか?またラシェーラに飛ばされるんじゃ・・・」

「それほどのエネルギーはないよ。できるのは声と写真をアースに送ること
 くらいかな。・・・ちゃんと動いてくれればだけど」

自信無さげな寧だけど、それでも僕は戦慄を禁じ得ない。

改めて結城寧という少女の凄さを思いしる。

寧がその気になればノーベル賞だって取ってしまいそうだ。

「これで声と写真を綾ちゃんのアドレスに送ってみるね」

綾ちゃんとは寧の妹さんだったはずだ。

ゲネロジックマシンを作ったのは、アースの家族と連絡を取るためだったのか。

「ちゃんと届くといいな・・・」

「・・・大丈夫、届くよ」

親愛なる、綾ちゃんへ。そんな語りから始まるボイスメールが、
寧の想いが込もった送り物が、次元の迷い子になったりするはずがない。



部屋を開けるなり寧が飛びついてきた。

「あのね、綾ちゃんから返信があったの!届いててよかったぁ・・・!」

ここ数日の寧は不安で落ち着かない様子だった。そのぶん喜びもひとしおだろう。

「最初は信じてくれなかったけど、わたしたち家族しか知らないことを
 話したら信じてくれたの」

無理もない。行方不明だった姉が突然別の世界から連絡を取ってきたのだから。

「そうだ、次はあなたもお話してみようよ」

「え、僕が?」

さて、そう言われても何を話せばいいのだろう。

「綾ちゃん、あなたのことは疑ってたみたい。
 お姉ちゃんに彼氏なんて出来るわけないでしょって」

彼氏どころか既に二度も結婚している僕たちだ。

そのことを知ったら、どんな反応をするだろう。

どこか悪戯めいた気持ちで、僕は寧の部屋へ向かった。



―――さて、その後の僕たちのことを少しだけ話そうと思う。

寧は僕の紹介でアルバイトを始めた。

内容は僕の友人から依頼されて行う、壊れた機械の修理屋だ。

値段は相場より低いし、腕も申し分ないから大好評だ。

暑くなればクーラーの修理などの依頼も飛び込んでくるだろう。

天職かも、と満面の笑みで話す寧は、ツナギを着ていても十分愛らしかった。

ちなみに僕はこっちの世界でプロポーズするべく、
指輪を買うために企業戦士を奮闘中だ。

そんなある日。

僕はふと思い出したことを寧に聞いてみた。

「あの雪の日に見たイオンは何だったんだろう」と。

事情を話すと、こんな説明が返ってきた。

「たぶん、平行世界のわたしだと思う」

すなわち、アースに帰って、僕に会いに来てくれた寧、なのだと。

寧がラシェーラに残るかアースに帰るかは最後まで五分五分だった。

そのため、“アースに帰る寧”も別の可能性軸に平行世界として
発生したと考えられるそうだ。

ただ帰る方法はプリムが握っていたため、彼女を蘇らせることができなければ
方法も闇の中のままで、寧が
帰る平行世界は発生しなかったと教えてくれた。

「推測だけどね」

寧は窓から街を眺める。

「譲ってくれたのかなぁ・・・」

呟く寧の横顔が印象的だった。

それにしても、と思う。

「平行世界か・・・」

もしかしたら、それは。

僕の知らないどこかのねりこさんの世界で。

こんな物語が、また始まっているのかもしれない。


「あっ!今何か感じた・・・っ・・・」


「あなたは一体・・・誰・・・?」


「わたし、イオンっていうの」


―――とんとーん。



                                           fin


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  1. 2017/09/27(水) 19:25:04|
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第7話


流れてゆく車窓に薄紅色の花を愛でながら、
僕は電車に揺られ東京へ向かっている。

その街には二つの顔があって、一つはマンガやアニメ等のサブカルチャーを発信する
オタクたちの聖地としての顔。

もう一つは日本を産業大国へ押し上げる原動力の一因となった電子機器や
それを構成するパーツを取り扱う電気街としての顔。

寧と離れて真っ先にやって来たこの街に僕は再び降り立つ。

寧と逢えるなら、やはりこの秋葉原が一番可能性があるように思う。

きっと寧にとっても、ここは聖地だろうから。



たまたま見つけたパーツに立ち寄ってみる。

一概にパーツと言っても様々なものがあって、見る人には一目瞭然でも
僕にはこの小さな歯車がどこに使われるのか全く判別できない。

寧が隣にいれば、きっと楽しげに解説してくれるだろう。

その光景を想像して頬を緩ませていると、店主から珍妙なものを見る目で見られてしまい、
恥ずかしくなってこほんとわざとらしい咳払いを一つした。

ふと、目に留まったものを手に取ってみる。

両手の平に載る大きさで、木で造られた外装に値札が貼られていて
そこには値段とともにオルゴールと書かれていた。

ふたを開いて流れだしたメロディに僕は迷わず購入を決めた。

去り際に、店主の「はて、あんなもの置いてたかのう」という呟きを背中に受けながら。


ベンチに座りもう一度オルゴールを動かす。

奏でられるメロディに僕は聞き覚えがある。

「間違いない・・・ねりこさんの世界の寧の部屋でかかっていた音楽だ」

なぜこのオルゴールがさっきのパーツ屋にあったのかは些細なことで。

耳をすますだけで思い出が浮かび上がってくる。

「こーんこん」

「あ、いたいた!ねぇあなた・・・」

「あのね・・・大事な話があるの」

視界が滲んでくる。どうして僕は泣きそうになっているのか。

「やっぱりだめ・・・電源を切るなんてできない・・・」

「わたし、絶対いつかあなたの世界に行く!今度こそ、ずっと一緒に暮らすの!」

―――そして。

「・・・愛してます。わたしの大切な旦那様・・・」


「僕もだ・・・寧」


まるでその呟きが契機だったかのように。

風が吹き抜ける。音色を乗せて、初めて見る―――懐かしい―――少女の元へ。

「あ・・・」

メロディに引き寄せられるように、一歩ずつ近づいてくる。

彼女は僕の前まで歩み寄ると、

「こんにちは。素敵なメロディですね」

と、微笑った。


「隣・・・いいですか?」

「・・・えぇ、どうぞ」

声が震えてしまうのはどうしようもない。

隣に座る彼女は、両手に袋を握っている。

「これ、そこのパーツ屋さんで買ったんです。わたし・・・そうゆうお店を
 巡るのが大好きなんです」

「・・・はい、知っています」

きっとこの世界の誰よりも。

「そう・・・ですよね」

少しの間の沈黙。いつの間にか止まっていたオルゴールを再度動かして
メロディを春纏う風と踊らせる。

離ればなれになった日も、こんな風が吹いていた。

あの日と違うのは、今日、ここからはじまるということ。

「・・・・・・」

見れば彼女は身体を小刻みにふるわせて泣いている。

また泣かせてしまったなと軽い自己嫌悪に陥るが今はそれどころじゃない。

腰を上げて彼女の前に立ち、僕は手を差し伸べる。

―――本当は。

もっと気のきいた言葉をかけてやりたい。

どこかの大鐘堂の騎士のように、好きなレーヴァテイルに
ヒュムノス語を使って語りあう位の芸当をしてみたい。

・・・だけどそれは、僕にはできない。当たり前だ、僕は彼ではないのだから。

僕にできるのは、彼女と言葉を、想いを交わすこと。

だからありったけの気持ちを込めて、目の前のこの少女に伝えよう。


「お帰り・・・・・・・寧」


その時の寧の表情は、園内に咲き誇る桜の何倍も綺麗だった。


「ただいま・・・・・・あなた」


重ねられた手を引っ張り、そのまま抱きしめる。

ちょっと痛いかもしれないけど許してほしい。

寧も僕の背中に腕を回す。

「夢じゃないよね?わたしたち、本当に会えたんだよね・・・?」

もちろん夢や幻なんかじゃない。

ましてや奇跡、運命、神様の悪戯なんかじゃ決してない。

寧だ。

寧がこの華奢な身体で、僕には想像もつかない努力と苦労を重ねてくれたからだ。

その感謝を伝えたくて、少しだけ背中に回す腕に力を込めた。


――春の公園には人が集まる。

短くはない時間抱きしめあってた僕たちは注目の的になっていて、
二人して真っ赤な顔で駆け出し帰りの電車を乗り継いだ。

それはマンションの部屋の前でのこと。

鍵を開けると、寧はなぜかしゃちほこばっていた。

「お、お邪魔します・・・」

その様子に吹き出してしまう。

「違うよ、寧」

「え?」

「自分の家に入るのに、お邪魔しますなんて言うやつはいないだろ?」

寧は照れくさそうに言い直す。

「・・・ただいま」

「お帰り」

「うん!」

奇しくも昼間の再現に、二人で笑いあった。


夜食は出前のピザを取った。

寧の手料理には心惹かれるものがあるけど、食材を切らしていたのはうかつだった。

お互い積もる話はあるけど、僕としては真っ先に聞きたいことがある。

「ずっと気になってたんだ」

食後のココアを寧に渡す。

「寧は、どうしてラシェーラに残ったんだろうって」

自分のココアを一口。うん、おいしい。

「寧は、アースに帰ると思ってたよ」

「・・・・・・」

手段は生き返ったプリムが教えてくれた。

すなわち、宇宙船ソレイルで宇宙の中心に向かい、
神のような存在のエクサピーコと想いを交わす。

これならネロが目指していた方法とは違い、誰も死なず、傷つかない。

平和的な帰還だ。

「・・・わたしは最後まで迷ってた。もしあなたが「寧、アースに帰ってこい!」って
 言ってくれてたなら、アースに帰ったと思う」

もしかしたらそんな未来もあったかもしれない。

今となっては仮定の話に過ぎないけれど。

「だけどわたしはラシェーラに残った。それはね、あなたに会うためなんだよ」

「僕・・・?」

「フェリエちゃんを助けたときのこと覚えてる?あなたは薬の効果を詩魔法で
 高めてみようって提案したんだよね。そのことがずっと引っかかってたの」

「・・・・・・」

「そしてあなたと離れた後、わたしたちはある実験を行ってみたの」

「―――それは?」


「もしゲネロジックチケットで同じことをやったらどうなるのかなって」


「・・・・・・!」


ゲネロジックチケット・・・一つだけ物を別次元へ転送できるアイテム。


「結果を先に言うと、効果は変わらなかった。でもそのアプローチから始めて、
 あなたからもらったレシピノートのアイテムも可能な限り再現して・・・
 挑戦と失敗を繰り返して、ついに次元を越えることができたんだよ」

目から鱗だった。フェリエを助けたことがこんな形で返ってくるなんて。

でも確かに詩魔法の力を使わないなんてことはありえない。

「アースには詩魔法はないからね」

なるほどと思う。

それは地球も同様だ。発達した科学は魔法と見分けがつかないと言うけれど
地球の文化レベルがラシェーラと同等になるまで何千年かかるのか
見当もつかない。

「でも、お母さんたちを諦めたわけじゃないんだよ」

そう言って寧は袋から幾つものパーツを取り出す。

どうやら寧がねりこさんの世界で何度も見せた職人技を
今度は肉眼で拝見できるようだ。

「何を作るんだ?」

寧は神妙な面持ちで返す。

「ゲネロジックマシン―――」

それは寧がラシェーラに飛ばされた元凶であり・・・

僕たちが出逢う、全てのきっかけだった。



  1. 2017/09/18(月) 10:22:30|
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女  第6話

あれから、三ヶ月が経った。


インターディメンドによるラシェーラとの繋がりは完全に絶たれ、
俺/わたし/僕・・・は、本来の自分の生活に戻ることになった。

今は彼女と出会う前と変わらない、社会人としての時間を過ごしている。



朝に目を覚まし、出勤して仕事に励み、夜は一人帰路を急ぐ。

この平和だがどこか退屈な日常に身を置いていると、
最愛のパートナーと異世界を駆け抜けた冒険が
まるで夢だったかのように錯覚してしまいそうになる。

だが同時に、僕の胸の内にある想いが彼女の声となって
夢じゃないよ、と打ち消してくれる。

そうだ。

言葉を交わし、想いを交わし、ひたすらに護り続けた記憶は
既に端末でもアーシェスでもない僕の中に大切にしまってある。

夢や幻なんかじゃない。

みな、知らないだけなんだ。

遥か7次元向こうの世界で、明日を賭けた戦いが繰り広げられ、
広大なエクサピーコ宇宙の片隅に一つの惑星が誕生したことを。

僕たちが知らないだけで、セカイにはたくさんの人々がいて、
笑ったり時に泣いたりしながら懸命に生きているんだ。


―――きっと、その中に寧も。


あの最高の仲間たちに囲まれて、笑って暮らしていることだろう。

インターディメンドが切れた以上、もう連絡を取ることはできないが
それでも僕は伝えたい。


寧・・・僕は元気でやっている。

だから安心してほしい。

いつか再会できる日を楽しみにしてる。

何年も、何十年でもきみを待っているよ・・・と。


ふと、僕の心の中の寧が笑ってくれたような気がした。




「・・・ただいま」

返事のないことがわかっているのにする挨拶は物哀しい。

それでも続けるのは、「おかえりなさい」と、声が返ってくることを
期待しているのだろうか。

コートを脱いでクローゼットに掛け、入れたインスタントのコーヒーに息をつき
壁に貼られたカレンダーに何気なく目をやる。

寧と出会った2016年のカレンダーは外され、2017年のものになっている。

「・・・そろそろ一年、か」

時間の流れは早いもので、ねりこさんの世界で初めて寧と出会ってから
気がつけばもう一年になる。

最初の頃は、自分のことを何もわからない少女の力になってやりたいと思っていた。

僕には記憶喪失の彼女の記憶を取り戻すチカラがあって、
嬉しい記憶を思い出せた時の彼女の喜びように、僕も自分のことのように嬉しくなった。

反面辛い記憶だった時はこの世の終わりのような顔を見せて、僕も無性に辛かった。

画面の向こうの彼女を知ることは、イオンを知るということ。

イオンの様々な一面を知るたびに、僕はイオンに惹かれていった。

きみに会うたびに・・・好きになっていった。

「立場が逆になったな・・・」

寧は僕と会ってから、僕が会いに来ることが一番の楽しみだと言っていた。

今は、僕が寧を待っている。

一日も早く、会いたいと願っている。

また同じ時間を過ごせる日を待ち望む一方で、
だが寧が今ここにいない寂寥感も拭い去ることができない。

世間の遠距離恋愛をしているカップルや、単身赴任中の旦那さんは
みんなこんな気持ちでいるのだろうか。

まして僕と寧の間には次元の壁という高すぎる障害がある。

お金や時間をかければ会えるというものではない。

その現実が、不意に僕を打ちのめしにくる。

信じてないわけじゃない。

諦めたわけじゃない。

それでも・・・もしかしたらもう二度と・・・


―――僕はかぶりを振って、スーツ姿のまま寝室のベッドに背中から倒れこんだ。

見上げた白い無機質な天井に寧の顔が浮かび上がる。

出会ってから何度も泣かせてしまったけれど、
それでも最後は笑顔でお別れすることができたから。

思い出の中の彼女はいつだって笑顔だ。



吐いた熱は白い息となって街に解け込んでいく。

春の訪れを前に最後の悪あがきとばかり列島を襲った寒波が
雪を道沿いに積もらせるなか、僕は外を歩いている。

寧と離れ離れになってから、休日は街へ出ることが日課になった。

人混みの中に、いるかもしれない寧を見つけるためだ。

もちろん簡単に見つかるはずもなく、前回、前々回と空振りに終わってしまっているが、
何度徒労に終わろうとも止めるつもりはない。

いつか必ず再会すると約束したんだ。

寒空の下に繰り出すには十分すぎる理由だ。

そして僕は、今日もすれ違う人々に寧の横顔を探す。


――――――――――――――――――――

結果を先に言えば、何の収穫もなかった。

織り込み済みではあるが、気が沈んでしまうのは仕方ない。

日も暮れてきたためこれ以上の捜索は諦めて
僕は重い足取りで独りきりの我が家へと向かう。

いつのまにか止んでいた雪は冬の終わりを告げ、
その残滓も明日には気温の上昇と共に溶けてなくなってしまうだろう。

それが勿体なくて、歩道に積もった雪に意味もなく足跡をつけながら歩いていると、
落とした視線の先にブーツが映り込みあっと思った瞬間にはぶつかってしまった。

「す、すみません」

もう雪は止んでいるのに差したままの傘で顔は見えないが、
傘の向こうで首を振っている気配があった。

一昔前のラブコメでは衝突から始まる恋が珍しくなかったが
現実ではありえないし何より怪我の危険がある。

雪の影響で転倒しなくてよかったと胸をなでおろし、
僕は再び謝罪し白いコートにブーツという装いの女性の横をすり抜ける。



すれちがいざまに・・・初めて聞く――懐かしい――声が、僕の耳に届く。



「大丈夫だよ」


・・・・・・え?


「もうすぐ・・・会えるから」


世界から音が消える。


「あなたを、待ってるから」


まるで地球上に二人だけのような錯覚が。


「――――――っ、い」


弾かれたように。


僕が振り向いて手を伸ばすより早く


彼女が駆け出す。


「待ってくれ!」

雪道だというのに彼女の足は早かった。

迷路のように入り組んだ路地裏を駆け角を曲がった彼女の背を追う。


「・・・・あ、あれ・・・?」


角を曲がった先・・・そこは行き止まりで、彼女の姿はどこにもなかった。

人が通り抜けたり隠れられるようなスペースもない。

完全な行き止まり。

間違いなくこっちに来たはずなのに、見間違いだったとでも言うのだろうか。

いつのまにか世界に風の音が戻り、
突発的なダッシュで乱れた僕の呼吸がやかましい。

「・・・・・・!」

彼女の名を呼ぶが、返事が返ってくることはなかった。





結局―――あの後周囲を探してみたが、ついに彼女を見つけることはできなかった。

次の休みにも歩きまわってみたものの、やはり彼女はいなかった。

よく出来た妄想や白昼夢で片付けるには
僕の耳朶をなでた甘い声が鮮明に思い出せる。

間違いなく、いたんだ。

なのにどうして、もう一度僕の前に姿を現してくれないのだろう。


そして、


どうして僕は、彼女のことを・・・





寧・・・ではなく、





イオン





・・・だと、思ったんだろう?


開け放ったままの窓から風が吹き込んでくる。

僕の胸に、何かの予感を募らせながら。


日めくりカレンダーは4の数字を示して、
桜舞う、春がやって来た。




  1. 2017/05/04(木) 00:31:39|
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第5話


イオンと過ごす、最後の夜。

だからといって、何か特別なことをするわけじゃない。

あくまでいつも通りのように。

暗い部屋の中、二人で真空管の灯りを見つめながら、
たわいのない話をするだけでいいのだと彼女は微笑った。

「しばらく会えなくなっちゃうから、いっぱいお話しないとね」

もちろん僕も同じ想いだ。

『でも、そろそろ日付が変わるけど眠らなくて平気なの?』

「そんなもったいないことできないよ。それに・・・もし目が覚めた時に、
 もうあなたがいなかったらと思うと怖いから・・・」

『・・・・・・』

「・・・そうだ、今度はアースにいた頃の、ちょっと変わった素敵なお友達の話をするね。
 わたしが作ったロボットなんだけど、ネットで見つけたリアノフ量子ビットAIアルゴリズムを
 搭載してて、自分で考えて自分で発言するの。それで、名前は・・・」

『ゆめきち、でしょ?』

「そ、そうだけど・・・何で知ってるの!?」

『白鷹のジェノメトリクスで見てきたから』

「そうだったんだ・・・ゆめきちは、あなたみたいにとっても優しい子だったよ」

まだ弱気で臆病だった結城寧の背中を押し、叱咤激励しながら見守り続けて、
最後はプールで溺れかけた寧を助けた代償に二度と動かなくなってしまったロボット。

「ソラで衛星のレーザーからわたしをかばってくれたあなたのように、
 ゆめきちもわたしを助けるために自分の危険を顧みないでプールに飛び込んでくれたの。
 ロボットなんだから水に浸かったら壊れちゃうのにね・・・」

それはまるで、人間よりも人間らしいロボット。

「わたしが都会の大学に進んだのは、好きなことをやりたかったのはもちろんだけど、
 絶対にゆめきちを直してあげるんだって強い気持ちもあったからなの」

そこでイオンはくすくすと笑って、

「そういえばゆめきちもけっこうエッチなところがあったよ。先生の大きな胸に反応したり、
 わたしの友だちの前できざっぽく振る舞ってみたり・・・あれ、なんだか思い出してみると
 本当にそっくりだね、あなたとゆめきちって」

『そ、そうかな?』   

「・・・もしかしてゆめきちもあなたがインターディメンドで操ってたりして・・・なんて、
 いくらなんでもそんなわけないよね」

『あ、あはは・・・』

僕としては苦笑するしかない。

「エッチと言えば・・・本、まだ持ってるの?」

『・・・え』

「ねりこさんの世界で聞いたら、そういう本を持ってるって言ってたよね。
 男の人だからそういうの持っててもおかしくないと思うし、
 わたしとも画面越しでしか会えないから仕方ないよねって
 思ってたけど・・・いまはもう夫婦なんだから、浮気はだめだよ?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・善処します』

「・・・長い間がすごく気になるなぁ。そっちの世界のあなたの部屋に行った時、
 まだ置いてあったら全部捨てちゃうからね」

『・・・イオンとねりこさんの本も捨てなくちゃダメ?』

「な、何でそんなもの持ってるの!?」

ねりこさんがとうだいもりとの薄い本を描いていいと言ったからです。

「とにかく、厳しくチェックするからね」

うぅ・・・さよなら、僕のお宝本。


「・・・・・・・ふふ」

『・・・あはは』

夜だということも忘れ、二人でしばらく笑いあった。

別れの時が近いのに、交わすのはこんなとりとめのない話ばかり。

でもきっと、僕たちはこれでいいんだ。

目前に迫った避けられぬ現実にに怯えるでもなく、ただ、ありのままで、くだらない話をする。

そのほうがよっぽど僕たちらしいから。


時計が音を鳴らし、昨日の終わりと今日の始まりを告げた。

「・・・それじゃ、そろそろ出ようか」

イオンが立ち上がり、突然の提案をする。

『出るって・・・もうこんな時間にお店は開いてないんじゃない?』

僕の疑問に、イオンは驚くべきことを言った。

「フェリオンじゃなくて、外。ラシェーラだよ」

『・・・え?』

イオンが真空管の灯りを消し、室内は闇に染まる。

それだけのことが、何故かとても寂しく感じてしまった。

「あなた・・・お願いがあるの」

『お願い?』

表情は伺い知れないが、声色は真剣そのものだった。


「わたしのこと・・・寧って呼んで」


どうしたの、急に?

とか、

それくらい別にお願いしなくても・・とか。


頭をよぎったが、どこか有無を言わせぬイオン・・・いや、寧の迫力に
僕は何も言えず頷かざるを得なかった。




『・・・寧、どこまで行くの?』

寧は夜のラシェーラを先導する。

出来たばかりの星に街灯などはなく、頼りは月明かりだけ。

『危ないから戻ったほうがいいんじゃ・・・』

慣れ親しんだ場所ならともかく、寧もラシェーラに降りるのは初めてのはずだ。

そもそも安全性が確認されるまで一般人のラシェーラへの
立ち入りは禁止されてるはずだが・・・

「それは大丈夫。ちゃんと最高責任者のネイちゃんとカノンさんに許可はもらってるから。
 目的地までの地図も頭に入ってるから、安心してね」

『それならいいけど・・・』

一歩々々足を踏み出すたびにじゃりっと音がする。

さぁっ・・・と木々の枝葉を揺らすラシェーラの風は、どんな匂いがするのだろう。

「・・・・・・」

夜の世界は長くいることで時間の感覚を狂わせる。

ソレイルを出てから二時間・・・いや、もっと経っただろうか?

目的地についたらしい、寧が足を止める。

「ほら、見てみて」

彼女の指差す先にあったのは、湖だった。

だが、ただの湖ではい。

その水面には、無数の光点が揺れている。

そこにあるものを確かめたくて宙を見上げた僕は、
その光景にくぎづけになった。

―――満天の光。

新しく生まれたばかりのこの星を祝福するかのように、
僕らの遥か頭上で星々が煌めいている。

「綺麗だね・・・」

僕も寧もしばらく時間を忘れ、その美しい光景に心を奪われる。

帯状に集まったそれは、天の川。

エクサピーコの世界の天の川。

「ミルキーウェイサンド、作って持ってくればよかったなぁ・・・」

天の川を愛でながら、その名を冠するサンドウィッチを頂く・・・なんて贅沢だ。

『ありがとう、寧。こんな素晴らしい物を見せてくれて』

「ふふ、最後のとっておきがまだ残ってるよ。ほらっ!」

水平線の向こう―――昇りゆく恒星、ベゼル。

夜は終わり、朝が全ての上に訪れる。

草は光り、水は跳ね、虫は歌い、樹々は踊る。

この営みをラシェーラはこれからずっと繰り返していくのだろう。

この星に生まれた、生きとし生けるもの全ての想いを乗せて。

『寧・・・』

寧が僕の胸に飛び込んでくる。

その華奢な身体を傷つけないよう、優しく背中に腕を回す。

かつてバーストで死を撒き散らしたベゼルは、
今は僕たちを暖かく包んでくれていた。


湖を離れ少し歩くと、開けた草原のような場所に出た。

「風が気持ちいいね・・・」

そよ風が寧の髪を揺らしている。

僕の妻はそんな姿も絵になる。

「そうだ。ちょっと待ってて」

寧は足元のシロツメクサのような草を何本か抜くと、
せっせと手を動かし始めた。

『何を作ってるの?』

「見てのお楽しみだよ」

数分後、寧は「できたー!」と声をあげた。

『花冠・・・?』

そう、寧の手元にあるのはちょっと不格好な花冠だ。

「シャールは、好意を持った人に花冠をあげるでしょ?
 わたしも、あなたに作ってあげたいと思ったの」

『僕にかけてくれる?』

「うん!」

喜び勇んで寧は僕の頭部に冠をかけてくれた。

『似合うかな?』

「うん。とっても・・・とっても似合ってるよ」

『せっかく寧がつくってくれたのに、持って帰れないのが残念だな』

「・・・・・・」

『・・・・・・寧?』

「このまま・・・時間が止まってくれればいいのに・・・」

寧の顔から喜色は消え、刹那寂しげな表情になる。

だが寧は、すぐに作り笑いとわかるような笑顔を顔に貼り付けた。

「わたし・・・あなたと繋がることができて本当によかった。
 ずっと一人ぼっちだったけど、あなたがいたから寂しくなかったよ」

『僕も・・・寧に会えてよかった』


―――そうか。


寧の、決断の瞬間が来たんだね。


「今も、あなたと話してると思うと安心できるの。
 なんだか、このまま接続が切れちゃうなんて信じられないよ…」


ならば僕は、寧の心のままに。


『これからも見守ってる』

「ありがとう。そう言ってくれるだけで、私は一人じゃないんだって思える。 
 きっとこの先、この世界でいろんなことが起こると思うけど、ずっとあなたが見守ってくれるんだね。
 なんだか、凄くワクワクして来たよ!きっとこれから、楽しい事がいっぱいあるよね!」

強がっているのはバレバレだ。

だが寧は、僕を心配させまいとあくまで陽気に振る舞う。

「よ〜し、がんばるぞ〜〜〜〜!」


『・・・・・・・』


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」

寧の瞳から一筋の涙がこぼれたのをきっかけに、堰を切ったように涙が溢れ出してきた。

「ごめんなさい・・・」

耐え切れなくなった寧は、うつむいて両手で顔を覆ってしまった。

「やっぱり、ダメ・・・電源を切るなんて、できない・・・!
 あなたがいないと・・・わたし、また一人ぼっちになっちゃうよ・・・!」

それは違う・・・!

『寧は一人ぼっちじゃない』

気づいてないだけなんだ。寧の周りには優しい人が溢れている。

一人ぼっちだと思い込んでいるのは,寧だけなんだ。

「あなたっ・・!」

寧は顔を上げて、僕を見つめる。

「だって、わたしとあなたは結婚までしたんだよ?
 それなのに、これでお別れなんて・・・・・・・・・・・・ううん」

瞳に決意が宿る。

「違う、お別れになんかしない。わたし、絶対いつか、あなたの世界に行く!
 きっとあなたの元へ行って、今度こそ本当に、ずっと一緒に暮らすの!」

さきほどまでの弱気が嘘のように、寧は決然と言い切った。


「だから今は、お互い笑顔で旅立とう?」

『・・・そうだね』

また出逢うために、今は別々の道を行こう。

いつか僕たちの道が交わり、一つになる日まで。

『寧、これを』

僕は懐から一冊のノートを取り出し、寧に手渡す。

「見ていいの?」

『うん』

寧はノートのページをめくり、その内容に目を丸くした。

「これ・・・調合のレシピ・・・?」

『アルシエルのアイテムのレシピなんだ』

「アルシエル・・・?あなた、いつこれを手に入れたの?」

寧の疑問も当然だ。

『え〜っと・・・信じてもらえないかもしれないけど・・・』

そして僕は、最後の真実を暴露する。


『実は僕・・・今から700年後のアルシエルに行ったことがあるんだよね』


「ええええええっ!?」

衝撃の内容に、寧はすっとんきょうな声をあげた。


『それで、三度ほど救ってたり・・・』


「そっ、そうなのっ!?」


「これは、その時代の人たちと作ったアイテムのレシピを載せたものなんだ』


そう、僕が昨夜書いていたのがこのレシピノートだった。

ある意味ではオーパーツ、あるいはオーバーテクノロジーと言ってもいいかもしれない。

なにせ載ってるもの全てが、700年後のアルシエルの技術で作られるものなんだから。

もしかしたら、僕たちが出逢うための取っ掛かりになる可能性もゼロではないはずだ。

「・・・・・・」

寧の頭脳でもこの衝撃のカミングアウトを処理しきれなかったのか、
口を開け瞬きを繰り返している。

『やっぱり、信じられないかな?』

「ううん・・・信じるよ。だってあなたは冗談やエッチなことは言うけど、嘘はつかないもん。
 でも・・・あなたって本当に不思議・・・」

確かに、我ながらすごい経験をしてると思う。

ちなみに700年後のアルシエルでは、シュレリアが塔の管理者として様付けで崇拝されていたり、
ミシャとクローシェという、寧と全く同じ謳声の少女たちがいるが、それはまた別の話。

『ただ、いくつか致命的な問題もあるんだ』

例えば―――このレシピは、アルシエルで入手できる材料を元に作られている。

つまり、その材料がラシェーラで手に入るとは限らない、ということ。

更に、僕は調合によって出来る結果だけを書いている。

AとBというアイテムを合わせるとCになるのはわかっていても、
なぜそうなるのか、どのような効果が作用してCになるのかがわからない。

―――そんな欠陥だらけのレシピノート。

それを承知の上で、最悪寧を混乱させることもわかった上で、
僕は寧に渡すことを決めた。

寧が次元の壁を超えてくるのをただ待ってるだけなんて、
男として格好悪すぎるから。

「・・・大事にするね」

僕の気持ちを汲んでくれたのか、寧はノートをぎゅっと抱えた。

『そういえば、接続が切れたら、このアーシェスのボディはどうするの?』

「もちろん、ずっとわたしのお家にいるよ。朝におはよう、夜はおやすみって言うの」

『そっか』

置いておく、ではなく、いる、と言ってくれたことが嬉しかった。


さぁっ・・・と再び風が吹いて、草葉が宙を舞う。

触覚なんかなくても、優しい風だってわかる。

「逢えない日が続いても、あなたとわたしが夫婦だってことは揺るがない。
 これからもずっとあなたを想って、あなたの思いから元気をもらって、
 幸せに生きていきます。いつかまた、あなたと出逢えるその日まで」

柔らかな風に背中を押されるように、
画面全体に映り込むほど寧が顔を近づけてきた。

その紺碧の海を連想させる瞳は閉じられたまま・・・唇を突き出すように・・・


「・・・・・・・・・・」


真摯な愛が込められた、僕だけの花嫁のキスだった。



「・・・愛してます。わたしの大切な旦那様・・・」













―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


BREAK;
INTER_DIMMEND_MISSION_SUCCEED
PRG:test_A_Id
♯close:
kernel Shutdown・・
Spirit ditector−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
Motion ditector−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
Surge would brige−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok] 
S.H.W ≪≫ Tz.H.W−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
D.H.W ≪≫ S.H.M−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
7−dimention connector−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
ALL_SYSTEM_SHUTDOUN≫−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
SYSTEM_SHUTDOUN≫−−−−−−−−−−−−−−−−−ok
Thank you for your hard work
Bye!







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  1. 2016/12/19(月) 00:11:21|
  2. アルノサージュSS(完結)
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第4話

虫たちも寝静まる深夜、語り疲れてベッドの上で静かな寝息を立てるイオンを起こさないよう
注意を払いながら、真空管の明かりを頼りに僕は数枚のメモ用紙にペンを走らせていた。

アーシェスの手ではペンのような小さなものを操るのは一苦労だが
電子の海にこの記録を残すのは一抹の不安がある。

メモの内容は、大多数の人には子供の落書きレベルのものでしかないが、
イオンたち技術者が見れば、磨けば光るダイヤの原石かもしれない。

あくまでも希望的観測に過ぎないし、おそらくは無駄なあがきに終わるだろう。

でも、再会へ向けてイオンにだけがんばらせるのは申し訳ない。

僕にできることはないか―――イオンたちの半分もないだろう僕の知恵を絞ったとき、
不意に閃くものがあった。。

記憶の糸をたぐりよせて、どうにかソレを思い出す。

「ん・・・あなた・・」

起こしてしまっただろうか?

振り向いてみるとイオンの目は閉じられたままだ。

寝言だったらしい。

「一人に・・・しないで・・・」

『・・・・・・』

イオンに近寄り、頭を撫でてあげる。

僕はここにいるよ。

そんな想いを込めて・・・


貸し切りのネィアフランセで、僕のための送別会が始まった。

円卓につく参加メンバーは、僕から時計回りにイオン、ネイ、レナルル、白鷹、
サーリ、カノン、デルタ、キャス、プリム、そしてネロだ。

隣を見ると、ネロが気まずそうに俯いていた。

「私・・・本当にここにいていいのかしら」

どうやら僕たちと敵対していたことを気にしているらしい。

「プリムなんてアーシェスを壊しちゃったのに・・・」

プリムはネロを上回る落ち込みようだ。

確かにソラで旧型のボディを破壊した時のプリムの表情は、悪役そのものだった。

だから僕が二人を恨んでいるかというと、決してそうではない。

「プリムちゃんはインターディメンドで操られてたんだから悪くないよ。
 ネロも、デルタにインターディメンドを解除する鍵を渡したりしたんでしょ?
 いろいろあったけど、今は二人ともわたしたちの大切な友だちだよ」

「そうさ。なにせ二人も呼ぼうと言い出したのはアーシェスなんだから」

サーリの言葉に驚いたネロとプリムが僕を見る。

「・・・そうなの?」

『二人がいてくれないと寂しいと思ったから』

嘘偽りのない、僕の本心だ。

『昨日の敵は今日の友。僕の世界のことわざなんだ』

人もジェノムも異世界の住人も関係ない。

心を開けば、僕たちは分かり合うことができる。

「優しいのね。イオナサルがあなたに惹かれる理由がちょっとだけわかった気がする」

この場所に来て初めてネロが微笑んでくれた。

「・・・本当にごめんなさい、アーシェス」

『いいよ。それより、この話はもうよそう。ご飯が美味しくなくなるよ』

「・・・うん」

プリムもまだ少し引きずっているようだけど、僕の意を汲んでくれた。

「・・・よし、出来た!デルタ、運ぶの手伝って」

厨房から出てきたデルタにネイが声をかける。

「ったく、人使いが荒いな」

「私も手伝うわ」

デルタとキャスが厨房へ消える。

「イオナサル・・・このメニューを見ているとこれから運ばれてくる料理に
 嫌な予感しかしないのですが・・・」

「あ、あはは・・・」

「残念だけどカノイール、君の不安は正しい。まあいくらなんでも死にはしないだろうから 
 その点だけは安心していい」

「サーリちゃん、フォローになってないっス・・・」

「だけど白鷹も見ただろう。先のネイさんとデルタによる料理対決を。あんな自信満々に
 『キライヤキ』なんてゲテモノを出されたら、もうどうしようもないじゃないか」

わざとゲテモノを作ってる説は、店の所有権を賭けた戦いで
ネイ自身の手によって否定されてしまっている。

なぜネィアフランセが潰れないのか・・・きっと誰も解き明かせないに違いない。

「まずは当店の開店時からあるメニュー、キライヤキよ!」

円卓に置かれた鍋に視線が注がれる。

「名前はともかく、見た目は美味しそう・・・え?」

ネロの顔から血の気が引くのを僕は見逃さなかった。

「わ、私の目がおかしいのかしら。すき焼きにあってはならないものが入ってるんだけど・・・」

鍋の中に鎮座する白く四角いもの・・・それは豆腐ではなく、ナタデココだ。

このすき焼きもどきは、肉と豆腐の代わりに魚とナタデココが投入されている。

「陛下・・・これは何ですか?」

常に冷静沈着なレナルルすら冷や汗をかいている。

「ここではネイさんだって。言ったでしょ、キライヤキよ」

「そ、そうではなく・・・なぜ鍋にナタデココが入っているのです・・・?」

「これがすき焼きじゃなくて、キライヤキだからよ」

答えてるようで、答えになっていない。

「戦慄してるところ悪いんだが・・・次の品だ」

デルタが置いたのは、イオンのトラウマの珈琲茶漬だ。

「う・・・」

イオンが口元を手で抑える。口内に味が蘇ったのかもしれない。

「もう聞くのも怖いんだけど・・・これは、何?」

「珈琲茶漬け。夜ふかしのお供に最適よ」

「どこからつっこめばいいかわからないわ・・・」

「これはまだマシな方かもね。ねこさまランチよ」

「・・・安心しました、まともなものもあるのですね」

「・・・それ、元は猫にあげる餌のレシピから作られたものだけどね」

「・・・・・・」

ゲテモノ料理が運ばれてくるたびに、場の雰囲気が盛り下がっていく。

そして全ての料理が出揃った時、もはや歓談するものはおらず
ネイと僕を除くメンバー全員が真っ青な顔をしていた。

「待たせたわね。さぁ、召し上がれ」

ネイの明るい声が場違いに響く。

「え、ちょっと待って・・・え?私たち、これを食べなくちゃいけないの?」


「ってかみんなひどくない?一生懸命作ったのに・・・」

(ちょっとデルタ、ネイさんが泣きそうじゃない!なんとかしなさいよ・・・!)

(んなこと言われたって、どうしろってんだよ・・・!?)

(男はあんたと白鷹しかいないんだから、あんたたちがたくさん食べなさい!)

(無茶言うなよ!これらの不味さは、お前もよく知ってるだろ!)

(だからって、ネイさんが泣いてもいいの・・・!?)

(ぐっ・・・ああっちくしょう!)

半ばやけになったデルタがキライヤキに突撃していった。

具をおたまで掬って器に大量に盛り、箸で口内に思い切りかきこむと
一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔になったが、構わず飲み込んでいく。

その勇気ある行動に同じ男として敬意を表さずにはいられない。

それはもう一人の男も同様で・・・

「流石っスねデルタ。じゃあ、俺はこの珈琲茶漬を食べるっス」

「白鷹・・・無理しなくてもいいんだ。みんなでわけて食べよう」

「サーリちゃん、止めないでくれ。プリティーベリーちゃんが作った料理を残すなんて
 罰当たりなこと、俺にはできないっス・・・!」

「白鷹・・・おまえってやつは・・・」

ちゃっかりサーリからの好感度を上げながら、白鷹もデルタに倣い強敵に立ち向かっていく。

「うぐっ・・・」

メガネの奥に光るものがあったが、白鷹はあくまで手を止めない。

「・・・私たちも食べましょうか」

「プリム、がんばる・・・!」

女性陣も、比較的食べやすいねこさまランチや、ネィアフランセの皿に箸を伸ばし始めた。

「・・・まぁ、食べれなくはないですね。お金を払ってまで食べたい味ではありませんが」

「なんて言うか・・・ネイちゃんの料理って感じですよね」

『がんばって、イオン』

「うん。ありがとう、あなた」

延々と食べ続け、ついに全ての料理が皆の胃に収まった。

「勝った・・・俺たちは勝ったんだ・・・」

「お疲れ様、デルタ・・・」

満身創痍のデルタと白鷹の背中を、キャスとサーリが擦ってあげている。

「もうネイの料理はこりごりよ・・」

もしかしたら少しでも寂しさをまぎらわせるよう、
ネイは不評を承知で料理を振る舞ったのかもしれない・・・というのは、考え過ぎか。

「腹ごしらえをしたら、ラズェーラでもやってみる?」

「やめろよ!死人が出るだろ!」

・・・こんな感じで、会は時々明後日の方向へ行きながらも賑やかに進行していった。

ドジっ子属性を発揮したネロがカノン・デ・カノンを店の奥から持ち出してきて、
勝手にモデルにされたカノンに発覚しネイが大目玉を食らうという場面もあったが
誰もが終始楽しげだった。

僕の故郷である地球の話をすると、みな興味深々に聞いてくれて、
特にサーリからは最後だからと質問攻めにあってしまった。

寧のいたアースと比較してみると、やはりそれほど違いはないらしい。

人がいればそこには人の数だけ想いがあって、愛がある。

それは何も変わらない―――地球も、アースも、ラシェーラも。

「・・・そろそろ、時間だな」

「そうね・・・」

さぁ。最高の仲間たちに最後の言葉を交わそう。

「あなた・・・」

『わかってる。イオン、頼む』

「うん、任せて」

僕の想いは対象に触れることで伝わるため、イオンに仲介を頼む。

「皆、忙しい中僕のために集まってくれてありがとう。
 異世界の住人である僕を大切な仲間と言ってくれて本当に嬉しかった。
 永いわかれになってしまうけど、皆のことは決して忘れない。
 どうかいつまでも、元気でね」

・・・沈黙のあと。

「なんてゆーか・・・面白みのまったくない挨拶ねぇ」

やっぱりネイはいつものようで。

「面白みなんて必要ないさ。こちらこそありがとう、アーシェス。
 君には本当に感謝してるよ」

サーリ・プランク。イオンから授けられし名を光明陵子。

どちらかと言えばソフトウェアに強く、実際に機械に触れるのは苦手とは本人の弁だが、
彼女の作り上げる創作物を見れば、謙遜にも程がある。

メカニックとしてイオンと話が合う貴重な人物なので、時には二人ですごいものを
作ったりするのかもしれない。

「萌えは次元を超えて誰の心にも宿ってるッス。
 いつかそっちの世界にある萌えを見れる日を楽しみにしてるッスよ」

白鷹―――本名レオルム・セオジウム。イオンから授けられし名を律界天。

サーリに引けを取らない技術者で、萌えの伝道師でもある。

イオンのフィギュア(僕にも作って欲しい)を七徹で作り上げるほどの
萌えのこだわりは留まるところを知らない。

謳う丘のコントロールルームをプリティベリーのグッズで埋め尽くすような熱愛が、
いつかサーリのヤキモチを買ってしまわないか、それだけが心配だ。

「ずっとイオンを護ってくれてありがとう。実際に触れ合うことすらできない二人だけど、
 貴方とイオンの絆は確かにここに在るのよ。だからこれで終わりじゃなくて、
 貴方たちがまた再会できることを心から願っているわ。もちろん、私もね」

レナルル・タータルカ。イオンから授けられし名を皇謳。

もし彼女がいなかったら、あるいはイオンはネロのように暴走していたかもしれない。

たとえそれが罪悪感からであっても、天文という組織の中で一人だけイオン――結城寧――に
優しさを注いだレナルルは、ラシェーラに来たばかりの寧にとって唯一の心の拠り所だった。

ジェノメトリクスで互いの心のわだかまりも解消し、きっとこれからもレナルルは
時には姉のように、厳しくも優しくイオンを見守っていくのだろう。

「私は最初、あなたのことをただの機械人形としか思っていませんでした。
 ですが、アーシェスを通じて伝わってくるあなたの心は本当に温かかった。
 想いは、遠く離れてても誰かに届くのだと・・・あなたが教えてくれました。
 どうかいつまでもお元気で・・・」

カノイール・ククルル・プリシェール。イオンから授けられし名を菩提命王。

昔はライバルとして。今は友として。少しづつ関係を変えながら、
二人は尊重しあい今日までやってきた。

共同経営するちゅちゅ屋がどんな店になっていくのか、
それが見れないのが残念だ。

・・・あと、時々イオンはカノンを踏んであげればいいのではないでしょうか。

「いろいろあったけど、なんだかんだ言ってお前には世話になったな。
 昨日の約束、忘れんなよ?」

デルタ・ランタノイル。イオンから授けられし名を唯世。

彼が万樹沙羅でイオンに手を差し伸べていなかったら、
イオンはどうなっていたことか。

いや、イオンだけじゃない。僕も彼に救われた一人だ。

悪意はなくても、結果的に身体を乗っ取ろうとしていた僕を赦した彼の
優しさと強さを、僕は忘れない。

「今思えば、クオンターヴで私とサーリの元へデルタを導いてくれたのは
 あなただったのよね。あなたにも、ありがとね。
 そして、アバターコアに祈った私の願いを叶えてくれてありがとう」

キャスティ・リアノイト。イオンから授けられし名を愛宮。

デルタと愛を確かめ合ったろう夜に、キャスは僕に語りかけてきた。

この世界とデルタをよろしくと。

僕を信頼し、インターディメンドという諸刃の剣に自ら再接続をしたデルタを
生涯を賭して支えると決意した意志の強さこそ、彼女の愛そのものだった。

ところで未来から来たネロいわく、この二人は二年後にようやく結婚するんだとか。

いつまでも関係を進めようとしないデルタとキャスに業を煮やしたネイが
背中を押したらしいが、それまで無自覚にいちゃつくバカップルぶりを
散々見せつけられたに違いないネイが不憫でならない。

「えっと・・・元気でね・・・・」

プリム。キャスがデルタを宿主にして生んだ空想型ジェノム。

ネロの世界の住人に操られ、最後まで僕たちを苦しめた。

僕がイオンを護ることを可能にしたインターディメンドが、
牙をむいて僕の旧い身体を破壊したのは皮肉と言わざるをえない。

それでも僕たちはプリムが異世界の住人に操られながら、
プリムも内側から戦っていたことを、詩に込められた想いを通して知っている。

だから過去の諍いを水に流すことに、何の躊躇いもない。

「別の可能性軸の未来から、もう一人の私が来てたって聞いたんだけど・・・
 何か変なこと言ってなかった?」

『語尾ににゃをつけて、にゃんこ言葉を喋ってたよ』

「・・・・・・」

『・・ネロ、にゃって言って!』

「っ・・・!あまり調子に乗ると、イオナサルに叱ってもらうわよ」

ネロ。元いた世界での本名はウルゥリィヤらしい。

イオンより5000年も前に連れてこられ、レナルルがいたイオンと違って
ずっと一人ぼっちだった彼女が、どんな手を使ってでも帰ろうと画策したのは
誰にも責められないことだったのかもしれない。

だからといって、僕たちはそれを黙って見過ごすわけにはいかなかったが。

どうかネロには幸せになってほしい。

一万年の時を超えてついにできた本当の友だちと、ネロが心から笑いあえる日は、
もうすぐそこまでやってきているはずだから。

「・・・助けてもらった恩もあるから一度だけ言ってあげる。・・・ありがとにゃ」

僕だけに聞こえる、囁くような甘い声で。

・・・もしイオンがいなければ、堕ちてたかもしれない破壊力だった。

「最後はあたしかー。でもみんなが先に言いたいこと言っちゃったし、
 禊ぎの時に何度も話してるから今更とくにないんだよね。
 う〜ん・・・あ、あんたと離れてる間イオンの面倒はあたしが見てあげるから安心しなさい」

「面倒って・・・わたしそんなに手がかかるかなぁ?」

「そうね。昔と比べたらだいぶしっかりしてるけど、どっか目が離せないのよイオンは」

「うぅ・・・ごめんなさい」

そして、ネィアフラスク。イオンから授けられし名を天統姫。

結果的に結城寧に全てを奪われた、本当のイオナサル・ククルル・プリシェール。

運命に翻弄された二人は、コロン・夢の珠で出逢いを果たし、
寧に復讐するために近づいたネイは、しかし悪役になりきることはできなかった。

憎い相手にすら世話を焼く面倒の良さは、紆余曲折の後に
互いに親友と呼び合うほどの絆を二人の間に結びつけた。

ネイには本当に頭が下がる思いだ。

だから僕は、ネイにだけこんなお願いをする。

『寧を・・・よろしくね』

イオンではなく、寧、と。

「あんた・・・」

ネイは僕をじっと見る。

アーシェスではなくその向こう側にいる僕を見透かすかのように。

ネイの心の奥底にはおそらくまだ傷が残っている。

いつか癒えるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

それはネイにしかどうにもできない領域だ。

それでも、確かなこともある。

『ネイは、どんなことがあっても、寧から離れていかないでしょ?』

以前の二人の、歪んだ共依存の関係ではなく・・・

―――そう、親友として。

「当たり前でしょ。あたしのたった一人の親友なんだから」

7つの次元を越えて紡がれし絆は、誰にも断ち切れはしない。


僕は改めて、一人ずつ見つめる。

誰か一人欠けても辿りつけなかったこの良き日を僕は絶対に忘れない。

『今まで本当にありがとう!』

願わくば彼らに永久の幸せを。



そして、イオンとこっちの世界で過ごす、最後の夜がやってくる。





  1. 2016/11/10(木) 22:30:17|
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