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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第1話

ねぇ、覚えてるかな。

いつか海で話した、わたしとあなたが初めて会った時のこと。

お家の前に転がっていたあなたは、ボロボロに壊れた小さな端末さんで。

機械の修理が好きなわたしでも諦めそうなくらい損傷が激しかったのに、
何で直そうと思ったのか今ではもう思い出せないけど......

たぶん、心のどこかでわかってたんだと思う。

これを直したら、何かが始まるんだって。

そんな不思議な気持ちに突き動かされて、わたしは一生懸命に手と工具を動かして......


あなたと、出逢ったんだよ。


顔も知らない。名前も知らない。声すら聞けない。

でも、端末を通して伝わってくるあなたの想いは本当に温かくて。

わたしの大好きな真空管の灯りみたいで。

あなたという光が、灰色だったわたしのセカイを照らしてくれたんだよ。

自分のことすら定かじゃなかったわたしの記憶を、あなたが取り戻してくれた。

嬉しいことも、辛いこともいっぱいあった。

でもね、きっと無駄なことなんか一つもなかったの。

その全てが、今はあなたと出逢うための旅路だったと思うから。


本当に、ありがとう。


あなたのことを、心から愛しています。







                   注意

このSSはアルノサージュ、ならびにシェルノサージュのネタバレを含んでいます......というより、
最初から最後までネタバレの嵐なので、両方をクリアしてから読まれることをオススメします。




















新生ラシェーラがイオナサル・ククルル・プリシェールとその仲間たちの活躍と、
世界中の人々の想いによって創造されてから幾許かの月日が流れた。

人々が待ち望んだ争いのない平和な星に、宇宙船ソレイルの住民たちが
すぐに移り住んだかというと、実はそうではない。
生まれたばかりのラシェーラには何があるかわからないため、
気候や動植物、人が住める環境の調査等をしなければならないのだ。

天統姫ネィアフラスクが管理するPLASMAと、菩提命王カノイールが統率する
シャラノイアのシャールたちの技術者から成る人とシャールの混成団が、
目下調査中というわけである。

そんなある日、イオンと僕はサーリにフェリオンへと呼び出されていた。

「久しぶりだねイオナサル。元気そうで何よりだ」
「サーリちゃんも相変わらずみたいで安心したよ。それで、今日はどうしたの?」
「大事な話があるんだ。それで、えっと......」

サーリはすぐには用件を切り出さず、ちらちらと僕を見る。

『......僕は外そうか?』
「......ああ、すまない。そうしてくれると助かる」
「そうなんだ。それじゃあなた、また後でね」

二人の側を離れたものの、特にやることもないのですぐ足が止まってしまう。
ネィアフランセにひやかしにでもいこうかと思ったが、この時間はネイもいないかもしれない。
宰相のレナルルに見張られ、大量の書類仕事に追われているだろうから。

かといってフェリオンを出るのは論外だし......しかたない、適当にぶらぶらしよう。

「お、アーシェスじゃねぇか。こんなところで何やってるんだ?」
「一人なんて珍しいわね。イオンはどうしたの?」

背後から声をかけられ振り向くと、デルタとキャスが仲睦まじく並んで歩いていた。

二人が近寄ってくる。

『サーリがイオンに話があるっていうから、席を外したんだ』
「もしかしてそれって......」

事情を説明すると、キャスは何か思案するように握った拳を口元に当てた。

『キャス、何か知ってるの?』
「ごめんなさい。心当たりはあるけど、私の口からは言えないわ。
たぶん、イオンがあなたに伝えないといけないことだから」

『そっか......ところで、二人はデート?』
「あ~まあ、な。久しぶりの休暇だからな」
「いろんなお店巡りするの」
「全部にゅろきーのグッズ目当てだけどな」
『相変わらず仲が良くて羨ましい』
「あなただってイオンといちゃいちゃしてるじゃない」
「や、やっぱそうなのか。俺たちは知ってるからいいけど、
 傍から見ればすごい光景なんだろうな」

少女に寄り添うは、機械じかけの騎士。
でもその二人の本当の関係を知っているのはごくわずかな人々だ。

「って、急がないとにゅろきーの新作グッズが売り切れるわ!」
「へいへい。またな、アーシェス」
「あー、ロボットさんですー」
「ほんとですー」

デルタたちと別れると、今度はどこからともなく現れたシャールたちに囲まれてしまった。

「ロボットさん、一緒に遊びましょー」
「そうしましょー」

どうしよう。イオンを放って遊びにいくわけにも行かないけど、
シャール相手だと何となく断りづらい。
困ったところに、助けは現れた。

「皆さん、あまり無茶を言って彼を困らせてはいけませんよ」

シャールたちの王、カノンの登場だ。

「カノン、こんにちはー」
「はい、こんにちは」
『カノンもフェリオンに来てたんだね』
「ええ、ネィアフラスクと意見交換に。またすぐに天領沙羅に戻らなければなりませんが」
『そうなんだ。また近いうちにイオンとちゅちゅ屋に遊びにいくよ』
「いつでもお越しください。それと......」

不意にカノンが頬を紅潮させて、

「先日のデート......本当に楽しかったです。ありがとうございました」

大げさなほどに頭を下げる。

『どういたしまして。僕も楽しかったよ』

禊ぎの時に約束した一日デートを、先日行ったばかりだ。
結局イオンに言いだせないままデートしたのは、少し罪悪感もあるけれど。
カノンが楽しめたなら、今はそれで良しとしよう。

「それでは私はこれで・・・」

『またね、カノン』

「あ、カノン待ってー」

カノンをシャールたちが追いかける。
その光景に、ふと目頭が熱くなった気がした。
少し前まではフェリオンにシャールが普通に街を歩けるなんてありえなかった。
フェリオンの住民にとって、シャールは恐怖と憎悪の象徴でしかなかったのだから。

それを考えると、今では当たり前に映るこの光景が、とても尊いものだと改めて思う。

「ふ〜ん......あなた、カノンさんとデートしてたんだ」

ところが僕の感傷は唐突に吹き飛んでしまった。

『い、イオンっ!?いつからそこに......』

「カノンさんがすごく可愛い顔で、デート楽しかったですって言ったところから」

ばっちり聞かれてしまっている。

愛を囁いたわけでも、手を出したわけでもないため、イオンへの不義理には
ならないと思ったがやっぱりまずかったろうか。

「......」

沈黙が痛い。無言で怒ってますよとアピールしている。
いたたまれなくなって、僕は頭を下げる。

『......ごめん!』

ここまで来ると、あとは誠心誠意謝るしかない。
土下座もしたほうがいいかもしれない。
でもこの身体って土下座はできるのだろうか。

「......あなた」
『は、はい!』

頭部を外されて、市中引きずり回しの刑でも待っていそうだ。
だげど、イオンの口から出たのは予想と違う言葉だった。

「あのね......とっても大事な話があるの」

場所を移し、イオンの言葉を待つ。

『イオン、話って?』

長い沈黙が続き、ようやくイオンが唇を動かす。

「あなたのインターディメンドのことなの」

それは末期癌の家族に医者から宣告された余命を告げるような表情で。

「サーリちゃんが.go.jpそろそろ接続が切れるかもって」

『......そっか』

未来から来たネロから話は聞いていたし、覚悟もしていた。
それでもイオンから告げられると、やっぱり辛いものがある。

「だけど、あなたが突然いなくなったら......わたし耐えられないかもしれない」
 だからわたしが自分で、あなたの接続を......切ろうって......っ」
 
イオンは耐えられなくなったように、両手で顔を覆う。

「ごめん......ごめんね、あなた......!」

『どうして謝るの?』
「わたし、ずっとあなたと一緒にいたいのに......何もしてあげられない......!」
『泣かないで、イオン』

立ちはだかる敵はどんな強敵も倒してきたけど、そのどんな攻撃よりもイオンの涙は辛い。

イオンの頭に手を置いて、優しくなでてあげる。

『僕はもう、イオンからたくさんのものをもらったよ』
「あなた......」
『イオンと心を通わせられたことが、本当に嬉しいんだ』
「うん......わたしも」
『大好きなイオンには、いつも笑っていてほしい』
「ありがとう、あなた」
『サーリは、いつインターディメンドが切れるか言ってた?』
「正確にはわからないって。でも......長くても一週間だと思うって」
『みんなにお別れの挨拶をするくらいの時間はありそうだね』

イオンから繋がっていった友だちの輪。誰一人欠けても今日の平和はなかった、大切な絆だ。
別れも言えないまま去るのは寂しすぎる。

「うん......みんなもあなたに会いたいと思う。
 でも、今日はあなたを独り占めしてもいいよね?」
『もちろん』
「それじゃ、さっそくデートに行こうよ」
『賛成だ。でも、どこに行くの?』
「どこでもいいの。風の向くまま気の向くまま、だよ。
 大事なのは場所じゃなくて、隣にあなたがいることだから」

腕を組んで二人、歩き出す。

「ああっ!見て、アーシェス!真空管のバーゲンセールだって!」

まるでイオンのためにあるような品揃えに、予想通りイオンは子どものように目を輝かせている。
さきほどまでのシリアスな空気は霧散し、穏やかな雰囲気に変わっていく。

『そういえばネロがクオンターヴに、真空管の入れ物に入った真空管風味の真空管ジュースが
 あるって言ってたよ』
「ほ、本当!? 今すぐ行こうよ!」
『あ、でも買うのに必要な合言葉を知らないや』
「ええっ!?」

うん、これでいい。

イオンとは最後まで笑顔でいたい。

七次元が二人を分断つ、その日まで。



ネィアフランセに足を運ぶと意外にもレナルルの姿があった。

「陛下......いえ、この場ではおネイさんと呼ぶべきでしょうか。 
 こんな料理でお金を取るなんて、酷いと思いますよ」

カウンター席でメニュー片手に頭を抱えている。

「あんたってホント、はっきり言ってくれるわよね」
「レナルルさん。ここにいるなんて珍しいですね」
「こんばんは、イオン、アーシェス」
「いらっしゃーい。なんか食べてく?」
「やめたほうが賢明よ、イオン」
「ちょっと、営業妨害は止めてくんない?」
「あ、あはは......じゃあ、フルーツポンタを一つ」
「もっと頼みなさいよ。珈琲茶漬けとかどう?」
「そ、それは遠慮するよっ!」

珈琲茶漬け......お茶の代わりに珈琲を投入するという暴挙によって誕生してしまった、
ゲテモノシリーズの一つだ。

「まぁ、いいわ。で、今日はそのために来たわけ?」
「ううん。実は、二人に大事な話があって」


「......そっか。わかってはいたけど、寂しくなるわね」
「私もアーシェスと......いえ、あなたともっと話をしてみたかったのですが」
「ってか、イオン。あんたが自分で止めるなんて、大丈夫?」

「......うん。これだけは他の人にはやらせない。
 ずっと一緒にいたわたしだから、最後はわたしの手でお別れしようと思うの」

イオンは真剣な眼差しで、はっきりと告げる。

「イオンがいいなら、あたしはもう何も言わないわ。
 ねぇ、イオン。その前にみんなでさ、パーティをやらない?」
「パーティ?」
「ここを貸切にして、デルタやキャス、サーリたちも呼んでさ。
 あたしたちの大切な仲間を、みんなで見送ってやろうよ」
「それはすばらしいアイディアですね」
「はい、わたしもすごくいいと思います。あなたもそれでいいよね?」
『もちろん。ありがとう、ネイ』
「お礼を言われるようなことじゃないって。あんたにはみんな世話になったんだから」
「そうですね。アーシェスがいなければ新生ラシェーラは創造できなかったし、
 私も今ここにはいなかったでしょう」
「あんたはパートナーのイオンに似て、頭の中お花畑なところがあるけど、
 自分がどんなにすごいことをしたかちゃんとわかってる?」

と言われても、僕は特別な何かをしたという意識はない。

『僕としては、ただイオンを護り続けてただけなんだけど......』
「ほら、言わんこっちゃない」
「ふふ、あなたらしいね」
「さぁて、そうと決まれば何を作ろうかしら。ふっふっふ、腕がなるわ~」

ゲテモノ料理の創造主が邪悪にしか見えない笑みを浮かべている。

「えっ、ネイちゃんが作るの!?」
「当たり前でしょ、あたしの店なんだから!」

最後の晩餐にならないといいのだが。

「ただ、主役のアーシェスが食べられないのに周りの者がいただくのは
 いかがなものでしょう?」
『それは気にしないで。気を使われるほうが僕も辛い』
「おっけー決まり!期待しててね、イオン、レナルル」
「ほ、ほどほどにね......」

言うだけ無駄とわかっているのか、声のトーンが低い。

「え......私も参加していいのですか?」
「はぁ?当たり前じゃない、何言ってんの?」
「そうですよ。参加してください、レナルルさん」
「......アーシェスは、いいの?」
『断る理由がないんだけど』
「なら、お言葉に甘えて参加させていただきます」
「うん、それでよし!」
「楽しみだね、あなた」
『うん!』

異世界での冒険を飾る最後の思い出作りには申し分ない。

もう会えないであろう友たちと過ごす、最高のひとときを願う。




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  1. 2016/10/21(金) 23:01:21|
  2. アルノサージュSS(完結)
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第2話

僕とイオンはほのかのの『くるりんてん』へやってきた。

タットリアたちに僕のお別れ会の参加を打診するためだ。

「もちろん行くよ。友達のアーシェスのためだもん。
 店は・・・休業することになるけど、しかたないか」

「僕も行くつもりだよ。アーシェスのおかげで、フェリエを助けることができたからね」

タットリアとヴィオは心よく参加を約束してくれた。

「フェリエももちろん行くだろ?」

「えと・・・あたしは・・・」

「どうしたんだよ?」

『薬で病気を抑えているとはいえ、フェリエにフェリオンまで来てもらうのは
 厳しいんじゃないかな。無理はさせられないよ』

「ううん。タットリアの薬のおかげで大丈夫だよ。
 ただ、そのパーティって他の人も来るんだよね。
 知らない人がいっぱいいるのって、ちょっと不安かも・・・」

「ああ・・・みんなフェリエちゃんより年上だもんね」

一回り以上離れている者もいるため、どうしても緊張してしまうだろう。

「・・・だったら、ここで、このメンバーだけで行う?」

「え?」

「規模は小さくなっちゃうけど、それならフェリエも気を遣わなくていいでしょ?」

「名案だよ!ヴィオ、おまえ頭いいな!」 

「そうだね。それじゃ、早速食べ物を買ってこようか」

「わざわざ買ってこなくても、『ぼくらのミイラ食』とか『シャーリービーンズ』を
 出せばいいじゃん。姉さんたちが買ってくれればもっといいんだけど・・・」

「人間のわたしとフェリエちゃんには食べられないよぉ・・・」

シャールの味覚は人間とかけ離れているため、
人間にとってのゲテモノがシャールたちにはごちそうになりうることがある。

そういえば、ネイが作る料理がゲテモノばかりなのは、
シャールであるネイが自分の味覚を前提に作っていたとしたら合点がいく。

・・・いや、でもネイの料理はヒトガタのキャスにも不評だったし・・・

やっぱり、アレはもはやネイの才能なのだろう。

『フェリエは、何か食べたいものはある?』

「あのね、前にお母さんが買ってきた本に載ってた『ばなみる』って
 デザートが食べたいな」

「いいね、わたしも食べたいよ!」

『なら、天領沙羅に行こう。カノンにも伝えないと』

「じゃあ俺たちも準備するか。ヴィオ、貸切の札を表に出しといて」

「まったく、これくらい自分でやりなよ」

「・・・ほんと、何で薬屋に貸切の札があるんだろう?」

イオンの当然の疑問に、タットリアもヴィオも答えてくれることはなかった。

ちゅちゅ屋に着くと、外から覗く店内はシャールたちでごったがえしていた。

数分ほど待って、足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ。こんにちは、イオナサル、アーシェス」

僕たちに気づいたカノンが、笑顔で迎えてくれた。

「こんにちは、カノンさん」

『景気は良さそうだね』

「ええ。お金儲けのために経営しているわけではありませんが、
 たくさん来てくれるお客様を見ると嬉しく思います」

「シャールだけじゃなくて、人間のお客さんも来てるんですね」

「そうですね。今では当たり前になってきました。
 中には人間とシャールのカップルで来られるお客様もいるのですよ」

「すごく素敵なことだと思います」

「それで、今日はお二人はお買い物ですか?」

「あ、ばなみるとチェルノトロンを、それぞれ4つください」

「ありがとうございます」

お金を払い商品の入った袋を受け取ろうとすると、
それより早くイオンに取られてしまった。

「あなた・・・わたしは先に駅に戻ってるね」

『あ、イオン・・・』

引き止める間もなく風のように去ってしまった。

「・・・イオナサルは何か用事でもあったのでしょうか?」

僕とカノンに気を使ったのかもしれない。

だけど僕はあえて触れず、本題を切り出す。

『・・・これからイオンやシャールのタットリアたちと、僕のお別れ会を開くんだ』

「え・・・・・・」

表情を凍りつかせるカノン。

『サーリが、そろそろ僕の接続が切れるって言ってたんだ。
 その前にみんなで集まろうってことになった』

「そう・・・ですか・・・その会には、私は参加してはいけませんか・・・?」

『ごめん、人見知りの子がいるから遠慮してほしい。
 でも3日後にフェリオンのネィアフランセでデルタやキャスたちも
 集まってくれるから、そっちには来てほしいんだ』

「はい・・・行きます、必ず・・・」

『無理して前みたいに倒れないようにね』

「ふふ、お心遣いありがとうございます。
 イオナサルにも言われたとおり、もう無理はしないのでご安心ください」

『それじゃカノン、またね』

「ご来店、ありがとうございました」

駅へ戻ると、イオンは困ったような―今にも泣きそうな―笑顔を浮かべていた。


再びくるりんてん。

「美味しい・・・!」

「めっちゃうめぇ!」

「こんなに美味しいもの初めて食べたよ。これは何個でもいけるね。
 もっと買ってきてくれたらよかったのに」

「思ったとおりタットリアやヴィオにも大好評だね」

小さな口で懸命にかぶりつくヴィオが微笑ましい。

『そういうイオンも、もう食べちゃったの?』

「えへへ・・・だって本当に美味しいんだもん」

「それで、アーシェスはいつラシェーラに行くの?」

「え?」

一瞬、時間が静止したような錯覚を覚えた。

僕たちの視線がフェリエに集中する。

だがフェリエは、僕たちの強張った様子に気づかずに続ける。

「アーシェスはラシェーラに行ってしばらく会えなくなっちゃうから、
 この会を開いたんでしょ?」

『・・・・・・』

「あのね、フェリエちゃん。アーシェスは・・・」

辛そうなイオンに代わり、僕は自分で真実を告げた。

『フェリエ。僕はラシェーラじゃなくて、自分の世界に戻るんだ』

「アーシェスの世界?それって、遠いの?」

『すごく遠い。もう会えないかもしれないくらい』

そもそも遠いという表現も正しくないかもしれない。

ただ、少なくとも僕は詳細に説明出来るだけの術を持たない。

「そんなの嫌だよ・・・友達になれたのに」

『ごめんね、フェリエ』

どうにもしてあげられない自分がもどかしくてしかたない。

「・・・わがまま言わないで、送り出してやろうよ。
 アーシェスだって、寂しいって思ってくれてるはずだからさ。
 それに、これはお別れじゃなくて、アーシェスの新しい旅立ちなんだ。
 だったら、笑顔で見送ってやるのが友だちってもんだろ?」

「・・・そうだね。それに会えないかもしれないってことは、
 会えるかもしれないってことだよ」

言葉を選んでフェリエを励ます、二人の優しさが嬉しい。

こんな時、僕は本当に良い人たちに恵まれたと実感する。

「・・・・・・わかった」

「フェリエちゃんはいい子だね」

「でも!・・・また絶対会おうね、アーシェス」

『・・・うん』

約束、とは言えなかった。


楽しい時間も辛い時間も、時は残酷なまでにその針を止めてはくれない。

深まる夜にフェリエが船を漕ぎ出したところで
お別れ会はお開きと決まった。

「フェリエは送ってきたよ」

「お疲れ様、ヴィオ。それじゃわたしたちも、宿に行こうか」

「別に今日くらい泊まっていってもいいのに」

「さすがにそれは悪いよ。わたしたちはここのところ毎日
 遅くまで会話してるから、タットリアにも迷惑だと思うし」

「そんなこと気にしないけどなぁ。俺、寝つきはいい方だし」

「タットリア、イオンの気持ちを酌んであげなよ。
 イオンはアーシェスと二人きりになりたいんだ」

「・・そうなの?」

「う、うん・・・」

「なら・・・しかたないか。それじゃ・・・ここでお別れだね」


出会ってから長いとは言えない時間だけど、いろいろなことがった。

調合で作ったのはカソードやTXバイオス、奇天烈な物だけじゃなく、
僕たちの思い出でもある。


「・・・姉さんは、これからもいるんだよね?」

「うん。ずっと・・・ここにいるよ」


イオンは・・・ネロと共にラシェーラに帰化する道を選んだ。


プリムはイオンたちが元の世界へ帰る方法を示したが、それでもイオンとネロは
この世界で出来た仲間たちと生きると決めた。

その選択が正しかったのかどうかはわからない。

でも僕は、二人の意志を尊重してあげたいと思う。

「フェリエを助けてくれて本当にありがとう、アーシェス」

『がんばったのはタットリアだよ』

「いや、アーシェスの頭がなかったらあの薬はできなかったよ。
 詩魔法のことも気づかせてくれたし。やっぱアーシェスのおかげさ」

『役に立てたなら、嬉しい』

名残は尽きないけれど。

『タットリア、これからもお店の経営がんばってね』

「へへ、まかせとけって。ヴィオもフェリエもいるし、心配はいらないよ」

『・・・それじゃ、行こうかイオン。いつまでもここにいたら、
 タットリアも泣けないだろうし』

「な、なんてこと言うんだよアーシェス!? 泣くわけないだろ!」

『・・・僕の時は泣いてくれないの?』

「こ、子どもじゃないんだから泣かないって!」

その割りには、目が潤みはじめてるけど。

「もう、あんまりタットリアをからかっちゃダメだよ」

イオンにたしなめられたので、ここまでにしよう。

『・・・じゃあ、こんどこそ行くよ。二人共、ずっと元気でね』

「アーシェスもね」

「またな、アーシェス!」

大きく手を振って、アーシェスになって初めてできた友だちに別れを告げた。


「タットリア、またねって言ってくれたね」

『いいやつだった、本当に』

「そうだね。それで、明日はどうする?
 あなたの行きたいとこ、やりたいこと、何でも付き合うよ」

残り少ない時間を使ってでもやらなければならないことが、一つある。

『デルタと風呂に入ろう』

「・・・・・・え?」

呆気にとられたイオンの表情が、なんだかとても愛らしかった。





  1. 2016/10/25(火) 23:28:41|
  2. アルノサージュSS(完結)
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第3話

風情というものは、時に国境はおろか次元を越えるらしい。

星詠台になぜか五右衛門風呂があるように、
和の心はエクサピーコの宇宙の人々にも宿っている。

「・・・いい湯だな」

『そうだね。まぁ、僕は湯加減はわからないけど』

僕たちがいるのは、ほのかのの温泉郷。

ネイに無理を言ってデルタを呼び出してもらい、まずは身体にたまった疲れを
流そうと露天風呂に漬かった次第だ。

ちなみにイオンは、デルタについてきたキャスと一緒に女風呂にいる。

・・・余談だけど、最近までここは混浴だったという。

性別のないシャールだから分ける必要もない・・・と言うより、
そもそもそんな発想すらなく、
人間の増えてきた最近になって男女別になったそうだ。

『まぁ、女性的な外見のシャールがラブコメみたいに同じ湯船に入ってきたところで、
 僕には見れないんだけどね』

「なんの話だ?」

『インターディメンドも、次元を越えて規制する倫理審査機構には勝てないということさ』

「なに言ってるのかさっぱりわからねぇぞ」

『こっちの話だから気にしないで』

「んで、今日はなんだって呼び出したんだ?まさか本当にこれが
 目的ってわけじゃないよな」

『その前に、そろそろ僕のインターディメンドが切れることは知ってる?』

「ん・・・ああ、一昨日のキャスとのデートの後、サーリから聞いたよ。
 お別れ会をやるってことも、ネイさんから教えてもらった」

『僕にはもう時間がない。それで、電源が落とされる前に
 デルタには言わないといけないことがあるんだ』

「マジな話みたいだな・・・けど、湯に漬かりながらってのは
 ちょっと締まらないんじゃねぇか?」

『違いないね。なら、上がってイオンたちも交えてからにしようか』

キャスにも、聞く権利はあるのだから。


「なんで女ってのは、こんなに風呂が長いんだ・・・?」

「うっさいわね。女の子はいろいろ時間がかかるのよ」

「ごめんね、二人とも」

『気にしないで』

むしろ美少女二人の湯船からあがったばかりの色気十分な姿が見れて、
僕としては眼福でした。

「長くなりそうだし立ち話もなんだから、くるりんてんへ行くか」

くるりんてんへ足を運ぶと、

「・・・ずいぶん早い再会だね、アーシェス」

「なんなんだよ!ヴィオたちといいアーシェスといい・・・!俺の涙を返せ!」

いじけるタットリアの姿がそこにあった。

記憶を消すために今度こそアムネシアの雪を使おうとするタットリアを止めるという
ひと悶着のあと、僕たちは店の奥の部屋に腰を下ろした。

「いい機会だ。アーシェス、俺もお前とイオンに言うことがある。
 俺から先でいいか?」

『どうぞ』

なんとなく想像はついているけど、黙ってデルタの言葉を待つ。

イオンとキャスも口をつぐんで、デルタから視線を離さない。


「―――――すまなかった!」


デルタはあぐらを組んだ足にぶつけんばかりの勢いで僕とイオンに頭を下げた。

「え、え?」

突然の行動にイオンはぽかんと口を開け、まばたきを繰り返す。

僕もネロから聞いてなかったら、同じような反応だったろうから無理もない。

ネロいわく―――デルタは僕たちと戦った時のことがトラウマになっているらしい。

「あの時・・・ろくに話も聞こうとしないで、おまえらに攻撃しちまったよな。
 もしシャールロードの重力制御装置が壊れてたらと思うと・・・」

「ちょ、ちょっと。頭をあげてよ、デルタ」

「デルタ。悪いのはあんただけじゃないわ。一緒に戦った私も同罪なんだから。
 ・・・ごめんなさい、イオン、アーシェス」

デルタに続いてキャスも頭を下げる。

「キャスちゃんまで・・・!二人ともやめてってば!」

「キャスはちゃんとイオンの話に耳を傾けようとしてたじゃねぇか。
 それを遮っちまったのは俺だ。全部、俺が悪いよ」

「それを言うなら、二人を突き落としたのは私の詩魔法よ。
 あんたよりずっと責任は重いわ」

デルタもキャスも、長い間気に病んでいたのだろう。

真剣な気持ちが画面越しに伝わってくる。

「ふ、二人とも顔を上げてよ。わたしもアーシェスも怒ってないし、
 むしろ忘れてたくらいなんだから。ね、アーシェス?」

『そうだよ。僕たちはとっくに水に流してる』

「それじゃ俺の気がすまないんだ。なんかの形で償わさせてくれないか」

イオンは心底困った、という面持ちで僕を見る。

どうしよう・・・と、わかりやすく目が語っている。

ここで僕が選ぶ選択肢は・・・

1  『だったら、イオンの助けになってほしい』

2 →『イオン・・・罰としてデルタを踏んであげたら?』


『イオン・・・罰としてデルタを踏んであげたら?』

「「はぁっ!?」」

「ちょっ、あ、アーシェス!? 何を言ってるの!?」

手元が狂い、1を選ぶはずが2を選んでしまった。

『ち、違うんだ。僕はイオンの助けになってあげてと言おうとしたんだ(震え声)』

「どうしたらそんな言い間違いするんだよ!」

「ってかイオン・・・あんたそんな性癖あったの・・・?」

「な、ないよ!?ありません!」

僕がイオンのジェノメトリクスで見てきたことは、言わぬが花だろうか。

いや、やはりイオンの隠れSという性癖は、カノンやネイというMがいてこそ
最大限に発揮されるのだろう。

その点デルタはノーマルのようなので、イオンの相手として力不足だ。

『話を戻すけど、イオンが困っていたら力になってあげてほしい』

「そんなこと当たりまえだろ。言われるまでもねえよ」

「そうよ、イオンは友だちで仲間なんだから」

「デルタ、キャスちゃん・・・ありがとう」

『僕としては、それで十分だ』

そのうちキャスのヤキモチを買って、デルタは手痛い一撃をもらうことになるだろうし。

「・・・わかったよ。これはこれで、責任重大だからな」

こんな風に、互いが大切な仲間だと想い合っていれば
落とし所は簡単に見つけることができる。

・・・だけど。

『なら次は、僕の番だね』

真実を知った時、デルタとキャスは僕をそれでも仲間と思ってくれるだろうか・・・?

『今から話すことは、イオンも知らない僕だけの秘密なんだ』

正確には僕と、もう一人の異世界から来た少女だけが知っている。

『・・・僕なんだ』

「は?」


『デルタをインターディメンドで操ってたのは、僕なんだよ』


―――ああ、きっと場の空気が凍りつくというのは、この状況を指すのだろう。

キャスは絶句しているし、イオンは口に手を当て瞳を揺らしている。

デルタは・・・無表情だ。想いや感情を読み取れない。

『いろいろ言いたいことがあると思う。でもその前に僕の話を聞いてほしい』

そして僕は明らかにする。

これまでの顛末を。



『・・・これが全てだ』

秘めてきた真実を包み隠さず打ち明けた。

「・・・そう、だったんだ・・」

キャスの呟きが虚空に吸い込まれてゆく。

はっきり言って、二人には僕を殴り飛ばす権利がある。

いや、機械のこの身体は痛みを感じないから、分解する権利か。

それでも、どうかこれだけは。

『だけど僕は、デルタの身体を乗っ取る気なんてこれっぽっちもなかったし、
 デルタの身体を使って、悪事を働こうなんて一度たりとも思わなかった。
 これだけは、信じてほしいんだ』

「・・・・・・」

沈黙が続く重苦しい雰囲気を壊したのは
一瞬で僕との距離を詰めてそのたくましい腕を振り上げるデルタの姿だった。

「デルタっ!?」

かなりの力を込めただろう一撃が、僕の頭部を殴打する。

だが鈍い音を立てただけで、僕には1ポイントのダメージもない。

「ってぇ〜〜〜っ!」

必然的に、痛がったのはデルタばかりだ。

「な、なにやってんのよデルタ・・・?」

「少年漫画でよくあるじゃねぇか。友を殴って目を醒まさせる、みたいなやつ。
 あれをやってみたくなってさ」

「はぁ・・?」

「俺たちなりのけじめってことだ」

デルタは朗らかに笑う。

「よくわかんないよ、デルタ・・・」

「今更疑うわけねぇだろ。お前がいいやつだってことはイオンを見てればわかるよ。
 そりゃ、身体を乗っ取られるのはごめんだけど、お前のおかげでキャスを護ることができた。
 だから感謝してる。キャスだってそうだろ?」

「うん・・・私、異世界のあなたが優しい人だって知ってるから」

「なのに、俺たちの気持ちを全くわかってないような言い方をされたら、
 一発殴りたくもなるだろうが」

その通りだと思った。

僕は二人の気持ちをわかってなかった。

身体は痛くなくても、心がズキズキと痛む。

『・・・デルタの言うとおりだ。ごめん、デルタ、キャス』

「許してほしかったら、約束しろ。絶対にイオンと再会するって」

「デルタ・・・」

「俺の頭じゃ、その可能性がどれくらいあるかはわからない。
 だけどこのまま終わっていい訳ないだろ。
 お前らの絆は、そんな簡単に途切れるもんじゃねぇはずだ」

『・・・・・・』

「俺はさっきの約束どおり、イオンが困っていたら絶対に力になる。
 だから、おまえも約束しろ。男同士の約束だ」

どうする・・・なんて考えるまでもない。

『約束する。デルタとイオンに約束する。いつか絶対再会してみせる』

断言した以上、もう後戻りはできない。そのつもりもない。

だれよりも迷惑をかけてきて、それでも許してくれた盟友に
嘘つきだと思われたくないから。

「わたしもがんばる。いつか絶対、あなたの世界に行く!」

僕たちは力強く頷きあった。




  1. 2016/11/04(金) 23:31:05|
  2. アルノサージュSS(完結)
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第4話

虫たちも寝静まる深夜、語り疲れてベッドの上で静かな寝息を立てるイオンを起こさないよう
注意を払いながら、真空管の明かりを頼りに僕は数枚のメモ用紙にペンを走らせていた。

アーシェスの手ではペンのような小さなものを操るのは一苦労だが
電子の海にこの記録を残すのは一抹の不安がある。

メモの内容は、大多数の人には子供の落書きレベルのものでしかないが、
イオンたち技術者が見れば、磨けば光るダイヤの原石かもしれない。

あくまでも希望的観測に過ぎないし、おそらくは無駄なあがきに終わるだろう。

でも、再会へ向けてイオンにだけがんばらせるのは申し訳ない。

僕にできることはないか―――イオンたちの半分もないだろう僕の知恵を絞ったとき、
不意に閃くものがあった。。

記憶の糸をたぐりよせて、どうにかソレを思い出す。

「ん・・・あなた・・」

起こしてしまっただろうか?

振り向いてみるとイオンの目は閉じられたままだ。

寝言だったらしい。

「一人に・・・しないで・・・」

『・・・・・・』

イオンに近寄り、頭を撫でてあげる。

僕はここにいるよ。

そんな想いを込めて・・・


貸し切りのネィアフランセで、僕のための送別会が始まった。

円卓につく参加メンバーは、僕から時計回りにイオン、ネイ、レナルル、白鷹、
サーリ、カノン、デルタ、キャス、プリム、そしてネロだ。

隣を見ると、ネロが気まずそうに俯いていた。

「私・・・本当にここにいていいのかしら」

どうやら僕たちと敵対していたことを気にしているらしい。

「プリムなんてアーシェスを壊しちゃったのに・・・」

プリムはネロを上回る落ち込みようだ。

確かにソラで旧型のボディを破壊した時のプリムの表情は、悪役そのものだった。

だから僕が二人を恨んでいるかというと、決してそうではない。

「プリムちゃんはインターディメンドで操られてたんだから悪くないよ。
 ネロも、デルタにインターディメンドを解除する鍵を渡したりしたんでしょ?
 いろいろあったけど、今は二人ともわたしたちの大切な友だちだよ」

「そうさ。なにせ二人も呼ぼうと言い出したのはアーシェスなんだから」

サーリの言葉に驚いたネロとプリムが僕を見る。

「・・・そうなの?」

『二人がいてくれないと寂しいと思ったから』

嘘偽りのない、僕の本心だ。

『昨日の敵は今日の友。僕の世界のことわざなんだ』

人もジェノムも異世界の住人も関係ない。

心を開けば、僕たちは分かり合うことができる。

「優しいのね。イオナサルがあなたに惹かれる理由がちょっとだけわかった気がする」

この場所に来て初めてネロが微笑んでくれた。

「・・・本当にごめんなさい、アーシェス」

『いいよ。それより、この話はもうよそう。ご飯が美味しくなくなるよ』

「・・・うん」

プリムもまだ少し引きずっているようだけど、僕の意を汲んでくれた。

「・・・よし、出来た!デルタ、運ぶの手伝って」

厨房から出てきたデルタにネイが声をかける。

「ったく、人使いが荒いな」

「私も手伝うわ」

デルタとキャスが厨房へ消える。

「イオナサル・・・このメニューを見ているとこれから運ばれてくる料理に
 嫌な予感しかしないのですが・・・」

「あ、あはは・・・」

「残念だけどカノイール、君の不安は正しい。まあいくらなんでも死にはしないだろうから 
 その点だけは安心していい」

「サーリちゃん、フォローになってないっス・・・」

「だけど白鷹も見ただろう。先のネイさんとデルタによる料理対決を。あんな自信満々に
 『キライヤキ』なんてゲテモノを出されたら、もうどうしようもないじゃないか」

わざとゲテモノを作ってる説は、店の所有権を賭けた戦いで
ネイ自身の手によって否定されてしまっている。

なぜネィアフランセが潰れないのか・・・きっと誰も解き明かせないに違いない。

「まずは当店の開店時からあるメニュー、キライヤキよ!」

円卓に置かれた鍋に視線が注がれる。

「名前はともかく、見た目は美味しそう・・・え?」

ネロの顔から血の気が引くのを僕は見逃さなかった。

「わ、私の目がおかしいのかしら。すき焼きにあってはならないものが入ってるんだけど・・・」

鍋の中に鎮座する白く四角いもの・・・それは豆腐ではなく、ナタデココだ。

このすき焼きもどきは、肉と豆腐の代わりに魚とナタデココが投入されている。

「陛下・・・これは何ですか?」

常に冷静沈着なレナルルすら冷や汗をかいている。

「ここではネイさんだって。言ったでしょ、キライヤキよ」

「そ、そうではなく・・・なぜ鍋にナタデココが入っているのです・・・?」

「これがすき焼きじゃなくて、キライヤキだからよ」

答えてるようで、答えになっていない。

「戦慄してるところ悪いんだが・・・次の品だ」

デルタが置いたのは、イオンのトラウマの珈琲茶漬だ。

「う・・・」

イオンが口元を手で抑える。口内に味が蘇ったのかもしれない。

「もう聞くのも怖いんだけど・・・これは、何?」

「珈琲茶漬け。夜ふかしのお供に最適よ」

「どこからつっこめばいいかわからないわ・・・」

「これはまだマシな方かもね。ねこさまランチよ」

「・・・安心しました、まともなものもあるのですね」

「・・・それ、元は猫にあげる餌のレシピから作られたものだけどね」

「・・・・・・」

ゲテモノ料理が運ばれてくるたびに、場の雰囲気が盛り下がっていく。

そして全ての料理が出揃った時、もはや歓談するものはおらず
ネイと僕を除くメンバー全員が真っ青な顔をしていた。

「待たせたわね。さぁ、召し上がれ」

ネイの明るい声が場違いに響く。

「え、ちょっと待って・・・え?私たち、これを食べなくちゃいけないの?」


「ってかみんなひどくない?一生懸命作ったのに・・・」

(ちょっとデルタ、ネイさんが泣きそうじゃない!なんとかしなさいよ・・・!)

(んなこと言われたって、どうしろってんだよ・・・!?)

(男はあんたと白鷹しかいないんだから、あんたたちがたくさん食べなさい!)

(無茶言うなよ!これらの不味さは、お前もよく知ってるだろ!)

(だからって、ネイさんが泣いてもいいの・・・!?)

(ぐっ・・・ああっちくしょう!)

半ばやけになったデルタがキライヤキに突撃していった。

具をおたまで掬って器に大量に盛り、箸で口内に思い切りかきこむと
一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔になったが、構わず飲み込んでいく。

その勇気ある行動に同じ男として敬意を表さずにはいられない。

それはもう一人の男も同様で・・・

「流石っスねデルタ。じゃあ、俺はこの珈琲茶漬を食べるっス」

「白鷹・・・無理しなくてもいいんだ。みんなでわけて食べよう」

「サーリちゃん、止めないでくれ。プリティーベリーちゃんが作った料理を残すなんて
 罰当たりなこと、俺にはできないっス・・・!」

「白鷹・・・おまえってやつは・・・」

ちゃっかりサーリからの好感度を上げながら、白鷹もデルタに倣い強敵に立ち向かっていく。

「うぐっ・・・」

メガネの奥に光るものがあったが、白鷹はあくまで手を止めない。

「・・・私たちも食べましょうか」

「プリム、がんばる・・・!」

女性陣も、比較的食べやすいねこさまランチや、ネィアフランセの皿に箸を伸ばし始めた。

「・・・まぁ、食べれなくはないですね。お金を払ってまで食べたい味ではありませんが」

「なんて言うか・・・ネイちゃんの料理って感じですよね」

『がんばって、イオン』

「うん。ありがとう、あなた」

延々と食べ続け、ついに全ての料理が皆の胃に収まった。

「勝った・・・俺たちは勝ったんだ・・・」

「お疲れ様、デルタ・・・」

満身創痍のデルタと白鷹の背中を、キャスとサーリが擦ってあげている。

「もうネイの料理はこりごりよ・・」

もしかしたら少しでも寂しさをまぎらわせるよう、
ネイは不評を承知で料理を振る舞ったのかもしれない・・・というのは、考え過ぎか。

「腹ごしらえをしたら、ラズェーラでもやってみる?」

「やめろよ!死人が出るだろ!」

・・・こんな感じで、会は時々明後日の方向へ行きながらも賑やかに進行していった。

ドジっ子属性を発揮したネロがカノン・デ・カノンを店の奥から持ち出してきて、
勝手にモデルにされたカノンに発覚しネイが大目玉を食らうという場面もあったが
誰もが終始楽しげだった。

僕の故郷である地球の話をすると、みな興味深々に聞いてくれて、
特にサーリからは最後だからと質問攻めにあってしまった。

寧のいたアースと比較してみると、やはりそれほど違いはないらしい。

人がいればそこには人の数だけ想いがあって、愛がある。

それは何も変わらない―――地球も、アースも、ラシェーラも。

「・・・そろそろ、時間だな」

「そうね・・・」

さぁ。最高の仲間たちに最後の言葉を交わそう。

「あなた・・・」

『わかってる。イオン、頼む』

「うん、任せて」

僕の想いは対象に触れることで伝わるため、イオンに仲介を頼む。

「皆、忙しい中僕のために集まってくれてありがとう。
 異世界の住人である僕を大切な仲間と言ってくれて本当に嬉しかった。
 永いわかれになってしまうけど、皆のことは決して忘れない。
 どうかいつまでも、元気でね」

・・・沈黙のあと。

「なんてゆーか・・・面白みのまったくない挨拶ねぇ」

やっぱりネイはいつものようで。

「面白みなんて必要ないさ。こちらこそありがとう、アーシェス。
 君には本当に感謝してるよ」

サーリ・プランク。イオンから授けられし名を光明陵子。

どちらかと言えばソフトウェアに強く、実際に機械に触れるのは苦手とは本人の弁だが、
彼女の作り上げる創作物を見れば、謙遜にも程がある。

メカニックとしてイオンと話が合う貴重な人物なので、時には二人ですごいものを
作ったりするのかもしれない。

「萌えは次元を超えて誰の心にも宿ってるッス。
 いつかそっちの世界にある萌えを見れる日を楽しみにしてるッスよ」

白鷹―――本名レオルム・セオジウム。イオンから授けられし名を律界天。

サーリに引けを取らない技術者で、萌えの伝道師でもある。

イオンのフィギュア(僕にも作って欲しい)を七徹で作り上げるほどの
萌えのこだわりは留まるところを知らない。

謳う丘のコントロールルームをプリティベリーのグッズで埋め尽くすような熱愛が、
いつかサーリのヤキモチを買ってしまわないか、それだけが心配だ。

「ずっとイオンを護ってくれてありがとう。実際に触れ合うことすらできない二人だけど、
 貴方とイオンの絆は確かにここに在るのよ。だからこれで終わりじゃなくて、
 貴方たちがまた再会できることを心から願っているわ。もちろん、私もね」

レナルル・タータルカ。イオンから授けられし名を皇謳。

もし彼女がいなかったら、あるいはイオンはネロのように暴走していたかもしれない。

たとえそれが罪悪感からであっても、天文という組織の中で一人だけイオン――結城寧――に
優しさを注いだレナルルは、ラシェーラに来たばかりの寧にとって唯一の心の拠り所だった。

ジェノメトリクスで互いの心のわだかまりも解消し、きっとこれからもレナルルは
時には姉のように、厳しくも優しくイオンを見守っていくのだろう。

「私は最初、あなたのことをただの機械人形としか思っていませんでした。
 ですが、アーシェスを通じて伝わってくるあなたの心は本当に温かかった。
 想いは、遠く離れてても誰かに届くのだと・・・あなたが教えてくれました。
 どうかいつまでもお元気で・・・」

カノイール・ククルル・プリシェール。イオンから授けられし名を菩提命王。

昔はライバルとして。今は友として。少しづつ関係を変えながら、
二人は尊重しあい今日までやってきた。

共同経営するちゅちゅ屋がどんな店になっていくのか、
それが見れないのが残念だ。

・・・あと、時々イオンはカノンを踏んであげればいいのではないでしょうか。

「いろいろあったけど、なんだかんだ言ってお前には世話になったな。
 昨日の約束、忘れんなよ?」

デルタ・ランタノイル。イオンから授けられし名を唯世。

彼が万樹沙羅でイオンに手を差し伸べていなかったら、
イオンはどうなっていたことか。

いや、イオンだけじゃない。僕も彼に救われた一人だ。

悪意はなくても、結果的に身体を乗っ取ろうとしていた僕を赦した彼の
優しさと強さを、僕は忘れない。

「今思えば、クオンターヴで私とサーリの元へデルタを導いてくれたのは
 あなただったのよね。あなたにも、ありがとね。
 そして、アバターコアに祈った私の願いを叶えてくれてありがとう」

キャスティ・リアノイト。イオンから授けられし名を愛宮。

デルタと愛を確かめ合ったろう夜に、キャスは僕に語りかけてきた。

この世界とデルタをよろしくと。

僕を信頼し、インターディメンドという諸刃の剣に自ら再接続をしたデルタを
生涯を賭して支えると決意した意志の強さこそ、彼女の愛そのものだった。

ところで未来から来たネロいわく、この二人は二年後にようやく結婚するんだとか。

いつまでも関係を進めようとしないデルタとキャスに業を煮やしたネイが
背中を押したらしいが、それまで無自覚にいちゃつくバカップルぶりを
散々見せつけられたに違いないネイが不憫でならない。

「えっと・・・元気でね・・・・」

プリム。キャスがデルタを宿主にして生んだ空想型ジェノム。

ネロの世界の住人に操られ、最後まで僕たちを苦しめた。

僕がイオンを護ることを可能にしたインターディメンドが、
牙をむいて僕の旧い身体を破壊したのは皮肉と言わざるをえない。

それでも僕たちはプリムが異世界の住人に操られながら、
プリムも内側から戦っていたことを、詩に込められた想いを通して知っている。

だから過去の諍いを水に流すことに、何の躊躇いもない。

「別の可能性軸の未来から、もう一人の私が来てたって聞いたんだけど・・・
 何か変なこと言ってなかった?」

『語尾ににゃをつけて、にゃんこ言葉を喋ってたよ』

「・・・・・・」

『・・ネロ、にゃって言って!』

「っ・・・!あまり調子に乗ると、イオナサルに叱ってもらうわよ」

ネロ。元いた世界での本名はウルゥリィヤらしい。

イオンより5000年も前に連れてこられ、レナルルがいたイオンと違って
ずっと一人ぼっちだった彼女が、どんな手を使ってでも帰ろうと画策したのは
誰にも責められないことだったのかもしれない。

だからといって、僕たちはそれを黙って見過ごすわけにはいかなかったが。

どうかネロには幸せになってほしい。

一万年の時を超えてついにできた本当の友だちと、ネロが心から笑いあえる日は、
もうすぐそこまでやってきているはずだから。

「・・・助けてもらった恩もあるから一度だけ言ってあげる。・・・ありがとにゃ」

僕だけに聞こえる、囁くような甘い声で。

・・・もしイオンがいなければ、堕ちてたかもしれない破壊力だった。

「最後はあたしかー。でもみんなが先に言いたいこと言っちゃったし、
 禊ぎの時に何度も話してるから今更とくにないんだよね。
 う〜ん・・・あ、あんたと離れてる間イオンの面倒はあたしが見てあげるから安心しなさい」

「面倒って・・・わたしそんなに手がかかるかなぁ?」

「そうね。昔と比べたらだいぶしっかりしてるけど、どっか目が離せないのよイオンは」

「うぅ・・・ごめんなさい」

そして、ネィアフラスク。イオンから授けられし名を天統姫。

結果的に結城寧に全てを奪われた、本当のイオナサル・ククルル・プリシェール。

運命に翻弄された二人は、コロン・夢の珠で出逢いを果たし、
寧に復讐するために近づいたネイは、しかし悪役になりきることはできなかった。

憎い相手にすら世話を焼く面倒の良さは、紆余曲折の後に
互いに親友と呼び合うほどの絆を二人の間に結びつけた。

ネイには本当に頭が下がる思いだ。

だから僕は、ネイにだけこんなお願いをする。

『寧を・・・よろしくね』

イオンではなく、寧、と。

「あんた・・・」

ネイは僕をじっと見る。

アーシェスではなくその向こう側にいる僕を見透かすかのように。

ネイの心の奥底にはおそらくまだ傷が残っている。

いつか癒えるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

それはネイにしかどうにもできない領域だ。

それでも、確かなこともある。

『ネイは、どんなことがあっても、寧から離れていかないでしょ?』

以前の二人の、歪んだ共依存の関係ではなく・・・

―――そう、親友として。

「当たり前でしょ。あたしのたった一人の親友なんだから」

7つの次元を越えて紡がれし絆は、誰にも断ち切れはしない。


僕は改めて、一人ずつ見つめる。

誰か一人欠けても辿りつけなかったこの良き日を僕は絶対に忘れない。

『今まで本当にありがとう!』

願わくば彼らに永久の幸せを。



そして、イオンとこっちの世界で過ごす、最後の夜がやってくる。





  1. 2016/11/10(木) 22:30:17|
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アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第5話


イオンと過ごす、最後の夜。

だからといって、何か特別なことをするわけじゃない。

あくまでいつも通りのように。

暗い部屋の中、二人で真空管の灯りを見つめながら、
たわいのない話をするだけでいいのだと彼女は微笑った。

「しばらく会えなくなっちゃうから、いっぱいお話しないとね」

もちろん僕も同じ想いだ。

『でも、そろそろ日付が変わるけど眠らなくて平気なの?』

「そんなもったいないことできないよ。それに・・・もし目が覚めた時に、
 もうあなたがいなかったらと思うと怖いから・・・」

『・・・・・・』

「・・・そうだ、今度はアースにいた頃の、ちょっと変わった素敵なお友達の話をするね。
 わたしが作ったロボットなんだけど、ネットで見つけたリアノフ量子ビットAIアルゴリズムを
 搭載してて、自分で考えて自分で発言するの。それで、名前は・・・」

『ゆめきち、でしょ?』

「そ、そうだけど・・・何で知ってるの!?」

『白鷹のジェノメトリクスで見てきたから』

「そうだったんだ・・・ゆめきちは、あなたみたいにとっても優しい子だったよ」

まだ弱気で臆病だった結城寧の背中を押し、叱咤激励しながら見守り続けて、
最後はプールで溺れかけた寧を助けた代償に二度と動かなくなってしまったロボット。

「ソラで衛星のレーザーからわたしをかばってくれたあなたのように、
 ゆめきちもわたしを助けるために自分の危険を顧みないでプールに飛び込んでくれたの。
 ロボットなんだから水に浸かったら壊れちゃうのにね・・・」

それはまるで、人間よりも人間らしいロボット。

「わたしが都会の大学に進んだのは、好きなことをやりたかったのはもちろんだけど、
 絶対にゆめきちを直してあげるんだって強い気持ちもあったからなの」

そこでイオンはくすくすと笑って、

「そういえばゆめきちもけっこうエッチなところがあったよ。先生の大きな胸に反応したり、
 わたしの友だちの前できざっぽく振る舞ってみたり・・・あれ、なんだか思い出してみると
 本当にそっくりだね、あなたとゆめきちって」

『そ、そうかな?』   

「・・・もしかしてゆめきちもあなたがインターディメンドで操ってたりして・・・なんて、
 いくらなんでもそんなわけないよね」

『あ、あはは・・・』

僕としては苦笑するしかない。

「エッチと言えば・・・本、まだ持ってるの?」

『・・・え』

「ねりこさんの世界で聞いたら、そういう本を持ってるって言ってたよね。
 男の人だからそういうの持っててもおかしくないと思うし、
 わたしとも画面越しでしか会えないから仕方ないよねって
 思ってたけど・・・いまはもう夫婦なんだから、浮気はだめだよ?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・善処します』

「・・・長い間がすごく気になるなぁ。そっちの世界のあなたの部屋に行った時、
 まだ置いてあったら全部捨てちゃうからね」

『・・・イオンとねりこさんの本も捨てなくちゃダメ?』

「な、何でそんなもの持ってるの!?」

ねりこさんがとうだいもりとの薄い本を描いていいと言ったからです。

「とにかく、厳しくチェックするからね」

うぅ・・・さよなら、僕のお宝本。


「・・・・・・・ふふ」

『・・・あはは』

夜だということも忘れ、二人でしばらく笑いあった。

別れの時が近いのに、交わすのはこんなとりとめのない話ばかり。

でもきっと、僕たちはこれでいいんだ。

目前に迫った避けられぬ現実にに怯えるでもなく、ただ、ありのままで、くだらない話をする。

そのほうがよっぽど僕たちらしいから。


時計が音を鳴らし、昨日の終わりと今日の始まりを告げた。

「・・・それじゃ、そろそろ出ようか」

イオンが立ち上がり、突然の提案をする。

『出るって・・・もうこんな時間にお店は開いてないんじゃない?』

僕の疑問に、イオンは驚くべきことを言った。

「フェリオンじゃなくて、外。ラシェーラだよ」

『・・・え?』

イオンが真空管の灯りを消し、室内は闇に染まる。

それだけのことが、何故かとても寂しく感じてしまった。

「あなた・・・お願いがあるの」

『お願い?』

表情は伺い知れないが、声色は真剣そのものだった。


「わたしのこと・・・寧って呼んで」


どうしたの、急に?

とか、

それくらい別にお願いしなくても・・とか。


頭をよぎったが、どこか有無を言わせぬイオン・・・いや、寧の迫力に
僕は何も言えず頷かざるを得なかった。




『・・・寧、どこまで行くの?』

寧は夜のラシェーラを先導する。

出来たばかりの星に街灯などはなく、頼りは月明かりだけ。

『危ないから戻ったほうがいいんじゃ・・・』

慣れ親しんだ場所ならともかく、寧もラシェーラに降りるのは初めてのはずだ。

そもそも安全性が確認されるまで一般人のラシェーラへの
立ち入りは禁止されてるはずだが・・・

「それは大丈夫。ちゃんと最高責任者のネイちゃんとカノンさんに許可はもらってるから。
 目的地までの地図も頭に入ってるから、安心してね」

『それならいいけど・・・』

一歩々々足を踏み出すたびにじゃりっと音がする。

さぁっ・・・と木々の枝葉を揺らすラシェーラの風は、どんな匂いがするのだろう。

「・・・・・・」

夜の世界は長くいることで時間の感覚を狂わせる。

ソレイルを出てから二時間・・・いや、もっと経っただろうか?

目的地についたらしい、寧が足を止める。

「ほら、見てみて」

彼女の指差す先にあったのは、湖だった。

だが、ただの湖ではい。

その水面には、無数の光点が揺れている。

そこにあるものを確かめたくて宙を見上げた僕は、
その光景にくぎづけになった。

―――満天の光。

新しく生まれたばかりのこの星を祝福するかのように、
僕らの遥か頭上で星々が煌めいている。

「綺麗だね・・・」

僕も寧もしばらく時間を忘れ、その美しい光景に心を奪われる。

帯状に集まったそれは、天の川。

エクサピーコの世界の天の川。

「ミルキーウェイサンド、作って持ってくればよかったなぁ・・・」

天の川を愛でながら、その名を冠するサンドウィッチを頂く・・・なんて贅沢だ。

『ありがとう、寧。こんな素晴らしい物を見せてくれて』

「ふふ、最後のとっておきがまだ残ってるよ。ほらっ!」

水平線の向こう―――昇りゆく恒星、ベゼル。

夜は終わり、朝が全ての上に訪れる。

草は光り、水は跳ね、虫は歌い、樹々は踊る。

この営みをラシェーラはこれからずっと繰り返していくのだろう。

この星に生まれた、生きとし生けるもの全ての想いを乗せて。

『寧・・・』

寧が僕の胸に飛び込んでくる。

その華奢な身体を傷つけないよう、優しく背中に腕を回す。

かつてバーストで死を撒き散らしたベゼルは、
今は僕たちを暖かく包んでくれていた。


湖を離れ少し歩くと、開けた草原のような場所に出た。

「風が気持ちいいね・・・」

そよ風が寧の髪を揺らしている。

僕の妻はそんな姿も絵になる。

「そうだ。ちょっと待ってて」

寧は足元のシロツメクサのような草を何本か抜くと、
せっせと手を動かし始めた。

『何を作ってるの?』

「見てのお楽しみだよ」

数分後、寧は「できたー!」と声をあげた。

『花冠・・・?』

そう、寧の手元にあるのはちょっと不格好な花冠だ。

「シャールは、好意を持った人に花冠をあげるでしょ?
 わたしも、あなたに作ってあげたいと思ったの」

『僕にかけてくれる?』

「うん!」

喜び勇んで寧は僕の頭部に冠をかけてくれた。

『似合うかな?』

「うん。とっても・・・とっても似合ってるよ」

『せっかく寧がつくってくれたのに、持って帰れないのが残念だな』

「・・・・・・」

『・・・・・・寧?』

「このまま・・・時間が止まってくれればいいのに・・・」

寧の顔から喜色は消え、刹那寂しげな表情になる。

だが寧は、すぐに作り笑いとわかるような笑顔を顔に貼り付けた。

「わたし・・・あなたと繋がることができて本当によかった。
 ずっと一人ぼっちだったけど、あなたがいたから寂しくなかったよ」

『僕も・・・寧に会えてよかった』


―――そうか。


寧の、決断の瞬間が来たんだね。


「今も、あなたと話してると思うと安心できるの。
 なんだか、このまま接続が切れちゃうなんて信じられないよ…」


ならば僕は、寧の心のままに。


『これからも見守ってる』

「ありがとう。そう言ってくれるだけで、私は一人じゃないんだって思える。 
 きっとこの先、この世界でいろんなことが起こると思うけど、ずっとあなたが見守ってくれるんだね。
 なんだか、凄くワクワクして来たよ!きっとこれから、楽しい事がいっぱいあるよね!」

強がっているのはバレバレだ。

だが寧は、僕を心配させまいとあくまで陽気に振る舞う。

「よ〜し、がんばるぞ〜〜〜〜!」


『・・・・・・・』


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」

寧の瞳から一筋の涙がこぼれたのをきっかけに、堰を切ったように涙が溢れ出してきた。

「ごめんなさい・・・」

耐え切れなくなった寧は、うつむいて両手で顔を覆ってしまった。

「やっぱり、ダメ・・・電源を切るなんて、できない・・・!
 あなたがいないと・・・わたし、また一人ぼっちになっちゃうよ・・・!」

それは違う・・・!

『寧は一人ぼっちじゃない』

気づいてないだけなんだ。寧の周りには優しい人が溢れている。

一人ぼっちだと思い込んでいるのは,寧だけなんだ。

「あなたっ・・!」

寧は顔を上げて、僕を見つめる。

「だって、わたしとあなたは結婚までしたんだよ?
 それなのに、これでお別れなんて・・・・・・・・・・・・ううん」

瞳に決意が宿る。

「違う、お別れになんかしない。わたし、絶対いつか、あなたの世界に行く!
 きっとあなたの元へ行って、今度こそ本当に、ずっと一緒に暮らすの!」

さきほどまでの弱気が嘘のように、寧は決然と言い切った。


「だから今は、お互い笑顔で旅立とう?」

『・・・そうだね』

また出逢うために、今は別々の道を行こう。

いつか僕たちの道が交わり、一つになる日まで。

『寧、これを』

僕は懐から一冊のノートを取り出し、寧に手渡す。

「見ていいの?」

『うん』

寧はノートのページをめくり、その内容に目を丸くした。

「これ・・・調合のレシピ・・・?」

『アルシエルのアイテムのレシピなんだ』

「アルシエル・・・?あなた、いつこれを手に入れたの?」

寧の疑問も当然だ。

『え〜っと・・・信じてもらえないかもしれないけど・・・』

そして僕は、最後の真実を暴露する。


『実は僕・・・今から700年後のアルシエルに行ったことがあるんだよね』


「ええええええっ!?」

衝撃の内容に、寧はすっとんきょうな声をあげた。


『それで、三度ほど救ってたり・・・』


「そっ、そうなのっ!?」


「これは、その時代の人たちと作ったアイテムのレシピを載せたものなんだ』


そう、僕が昨夜書いていたのがこのレシピノートだった。

ある意味ではオーパーツ、あるいはオーバーテクノロジーと言ってもいいかもしれない。

なにせ載ってるもの全てが、700年後のアルシエルの技術で作られるものなんだから。

もしかしたら、僕たちが出逢うための取っ掛かりになる可能性もゼロではないはずだ。

「・・・・・・」

寧の頭脳でもこの衝撃のカミングアウトを処理しきれなかったのか、
口を開け瞬きを繰り返している。

『やっぱり、信じられないかな?』

「ううん・・・信じるよ。だってあなたは冗談やエッチなことは言うけど、嘘はつかないもん。
 でも・・・あなたって本当に不思議・・・」

確かに、我ながらすごい経験をしてると思う。

ちなみに700年後のアルシエルでは、シュレリアが塔の管理者として様付けで崇拝されていたり、
ミシャとクローシェという、寧と全く同じ謳声の少女たちがいるが、それはまた別の話。

『ただ、いくつか致命的な問題もあるんだ』

例えば―――このレシピは、アルシエルで入手できる材料を元に作られている。

つまり、その材料がラシェーラで手に入るとは限らない、ということ。

更に、僕は調合によって出来る結果だけを書いている。

AとBというアイテムを合わせるとCになるのはわかっていても、
なぜそうなるのか、どのような効果が作用してCになるのかがわからない。

―――そんな欠陥だらけのレシピノート。

それを承知の上で、最悪寧を混乱させることもわかった上で、
僕は寧に渡すことを決めた。

寧が次元の壁を超えてくるのをただ待ってるだけなんて、
男として格好悪すぎるから。

「・・・大事にするね」

僕の気持ちを汲んでくれたのか、寧はノートをぎゅっと抱えた。

『そういえば、接続が切れたら、このアーシェスのボディはどうするの?』

「もちろん、ずっとわたしのお家にいるよ。朝におはよう、夜はおやすみって言うの」

『そっか』

置いておく、ではなく、いる、と言ってくれたことが嬉しかった。


さぁっ・・・と再び風が吹いて、草葉が宙を舞う。

触覚なんかなくても、優しい風だってわかる。

「逢えない日が続いても、あなたとわたしが夫婦だってことは揺るがない。
 これからもずっとあなたを想って、あなたの思いから元気をもらって、
 幸せに生きていきます。いつかまた、あなたと出逢えるその日まで」

柔らかな風に背中を押されるように、
画面全体に映り込むほど寧が顔を近づけてきた。

その紺碧の海を連想させる瞳は閉じられたまま・・・唇を突き出すように・・・


「・・・・・・・・・・」


真摯な愛が込められた、僕だけの花嫁のキスだった。



「・・・愛してます。わたしの大切な旦那様・・・」













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BREAK;
INTER_DIMMEND_MISSION_SUCCEED
PRG:test_A_Id
♯close:
kernel Shutdown・・
Spirit ditector−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
Motion ditector−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
Surge would brige−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok] 
S.H.W ≪≫ Tz.H.W−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
D.H.W ≪≫ S.H.M−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
7−dimention connector−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
ALL_SYSTEM_SHUTDOUN≫−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−[ok]
SYSTEM_SHUTDOUN≫−−−−−−−−−−−−−−−−−ok
Thank you for your hard work
Bye!







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  1. 2016/12/19(月) 00:11:21|
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