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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

ましろ色シンフォニー 瓜生桜乃SS~うすべに色の糸~ 第3話

「桜乃、今日の放課後空いてるかしら?」

「大丈夫。何か用事?」

「ええ。授業が終わったら桜乃の教室で待っててくれる?」

「うん、わかった」

今も私はお兄ちゃんと歩み寄れずにいる。

家にいるのも気まずくて、愛理の用事は好都合だ。

このままではいけないと知りつつ、一歩踏み出す勇気を出せない。

私は、きっかけを求めていた。



放課後。終業のチャイムが鳴り、下校を生徒に促す。

クラスメイトたちが帰宅の途につく中、私は教室で愛理を待っていた。

12月の空は早くも暮れ始め、教室の隅のカレンダーが
目まぐるしかった今年も終わりが近づいていることを教えてくれる。

持ち上がった結女との仮統合。

そこで出会った姉と呼べるような存在と、個性豊かな仲間達。

そして・・・変わるかもしれない、私たちの関係。

たとえそれがどんな結果になっても、受け止めたい、ちゃんと。

「おーい、桜乃っちゃん」

来訪者は意外な人物だった。

「隼太さん?」

「瀬名ちゃんから案内を頼まれた。ついてきてくれ」

「は、はい」

鞄を持って廊下へと出た。



「あ、来たわね」

たどり着いたのは、ぬこ部の部室の前だった。

そこには愛理のほかに天羽先輩、アンジェの姿があった。

「愛理、これは・・・?」

状況がつかめず首をかしげる。

「今からここに、瓜生君が来るわ」

「え・・・?」

お兄ちゃんがここに・・・どうしよう。私はまだ答えを出し切れていない。

「瓜生君の気持ち、知りたくない?」

「・・・・・・」

「めんと向かったら言えないこともあるでしょう?
 今のあなたたちに必要なのは、素直になることよ」

「紗凪ちゃんが新吾君を連れてくるの。桜乃ちゃんは隠れててね」

天羽先輩に腕を引かれ、部室の裏へ回りこんだ。
愛理たちからは死角となる場所だ。

「ここにいてね。出てきちゃダメだからね~」

天羽先輩が戻っていく。

私は観念して、壁に背中を預ける。夜の帳が下りつつある空を見上げていると、
やがてお兄ちゃんと紗凪さんの声が聞こえてきた。

「みう先輩、連れてきました!」

「強引に拉致した、の間違いじゃないかな」

「うっさいぞクズムシ」

「ったく。それで、みんな集まってどうしたんだ?」

どうやらお兄ちゃんも何も聞かされないまま来たらしい。

「桜乃のことよ」

「・・・・・・」

「実は桜乃から相談を受けていたの。瓜生君との関係で悩んでいるってね」

あ、愛理ぃ・・・

「単刀直入に聞くわ。瓜生君、桜乃のことをどう思ってるの?」

「って愛理、直球すぎない?」

「こういうことははっきりさせるべきなのよ。たとえあたしたちの
 やってることがおせっかいでしかないとしてもね。それで、どうなの?」

「・・・好きだよ。妹としてじゃなく、女の子として」

ぎゅっとスカートの裾を握る。

「それがどんな意味を持つか、あなたならわかるわよね」

「そうだね。目を背けても桜乃が妹だって事実は変わらない。
 この想いが本当は許されないこともわかってるつもりだ」

「それでも、桜乃が好きだと言うの?」

「いつも一緒にいてくれた一番大切な存在だから。この気持ちは
 決して一時の気の迷いなんかじゃないよ」

お兄ちゃんの想いが、私の心に喜びと痛みを伴って溶け込んでくる。

お兄ちゃんの気持ちは、私の気持ちの裏返し。

私はずっと、お兄ちゃんを見てきた。

この感情が恋になったのは、いつからだっただろう。

「なぁ椋梨、義兄妹って結婚できるんじゃなかったか?」

「まぁ、法律上は一応な」

「じゃあ、二人がくっついても何の問題もないじゃん」

「ところがそうは問屋がおろさないんだよ乾っちゃん。
 俺たちはともかく、世間は好奇の目で見るだろうからな」

それは私が一番危惧していることだった。

私はお兄ちゃんのためならどんなことでも耐えられる。

でも、そのことでお兄ちゃんが傷つくのは絶対に嫌だった。

「桜乃って本当にしっかりした子よね。だからこそあんなにも苦しんでいる。
 最近の桜乃は見ていて痛々しいくらいよ」

「桜乃ちゃん、あんまり部活にも顔を出さなくなったもんね・・・」

「みう先輩が悲しんでるじゃねーか!クズムシ、全部お前が悪い!」

「さすがさっちゃんさん、シリアスな時でも罵倒を忘れませんね!」

「・・・変な感心のしかたはやめろっての」

「と、とにかく。ねぇ、瓜生君、どうして桜乃を好きになったの?」

「え・・・」

お兄ちゃんが私を好きになった理由・・・?

「兄妹の絆を覆すくらいの強い理由があったんじゃないの?」

「・・・わからない。でも、ずっと前から好きだったんだと思う。
 それに気づいて意識したのは・・・最近だけど」

自分に当てはめてみる。どうして私は、お兄ちゃんを好きになったのかな。

お母さんを失って悲しみにくれていた私に突然できたお兄ちゃん。

いつも無理していて私にいっぱい優しくしてくれた。

嬉しい反面、まだ子どもだった私は何もしてあげることができず
歯がゆい思いでいたことを覚えている。

そんなある日、私は遠出をして迷子になってしまった。

お兄ちゃんの誕生日プレゼントを買ってあげようとして、
旧市街まで行ったのがいけなかった。

夜空に星が瞬き始めた頃、歩きつかれてうずくまっていた私を
見つけてくれたのはお兄ちゃんだった。

「桜乃」

「あ・・・」

泣き顔を見られたくなくて、目元の涙をぬぐう。

「よかった、やっと見つけ・・・ごほっ、けほっ・・・」

気づく。お兄ちゃんが額から汗を流していることを。

きっと私のことを必死になって捜してくれたんだ。

「ごめんなさい・・・無理させちゃってごめんなさい・・・」

お兄ちゃんの背中をさすってあげる。

「だ、大丈夫・・・」

お兄ちゃんは私を立ち上がらせて手をひっぱって歩き出す。

「それより、どうしてこんな遠くまで一人で来たの?」

「迷惑、かけたくなかったから・・・」

それがこんな事態になっては本末転倒だ。自分の情けにまた涙が溢れてくる。

「迷惑だなんて思わないよ。僕たち、家族だよ?もっとわがまま言っていいんだ」

その言葉は嬉しいと思う。でも、私の心は申し訳なさのほうが勝っていた。

そんな私の気持ちを見透かしたように、お兄ちゃんは繋いだ手に力を込める。

私を一生懸命捜してくれた、汗ばんだ小さな手は温かかった。

「桜乃は僕の妹なんだ。迷子になったら必ず見つける。約束する」


「だからもう、泣かないで。ずっと傍にいるから」


それはとても優しい、魔法の言葉。

ただ温かくて、うれし涙に変わった涙がぽろぽろと零れ落ちる。

私はお兄ちゃんに向かって、言った。

「ありがとう、お兄ちゃん」

「・・・・・・」

ぽかんと口を開けたお兄ちゃん。

初めて、私がお兄ちゃんのことを「お兄ちゃん」と呼んだ瞬間。

・・・ああ、そうか。

次第に鮮明になっていく記憶。

あの時に、この想いが芽生えてしまったんだと思う。

優しいお兄ちゃん。大好きな、私のお兄ちゃん。

あの頃から、この気持ちはちっとも変わってない。

「これからどうするつもりなの?」

「桜乃と話したいと思う。もう一度俺の気持ちを伝えたいんだ」

「今の桜乃は気持ちの整理がついてないから、逃げるかもしれないわよ」

「それなら、どこまでも追いかけるよ。ずっと一緒にいると約束したからね」

お兄ちゃん、あの時のことを覚えてる・・・?

「なんだか新吾らしくないな。桜乃っちゃんは特別ってことか」

「この件だけは、空気を読んでいられないからね」

「はは、そりゃそうだ」

「けっ、馬に蹴られて骨折しろ」

「・・・いろいろツッコミ所が多いけど、とにかく、もう行くから」

「待って」

愛理が呼び止める。

「あたしね、羨ましいと思ったの」

「え・・・?」

「あなたたちと初めて会った時、あんなに仲の良い兄妹は見たことなかったから、
 二人がすごく眩しかった」

優しい愛理の声。慈しむように紡ぎだす。

「そうしたら、次の日に学校で再会したでしょ。本当に驚いたけど、
 今のあたしは、あなたたちを見つめることにしたの」


「どうしたら、あたしもこんな風になれるかなってね」


「・・・・・・」

「瓜生君は、誰かのためなら平気で自分を後回しにする人よね。
 それは、悪いことじゃないと思う。でも、そんな自分を
 本当に想ってくれる人がいる、それを忘れたらダメよ?」

「・・・うん、肝に銘じる」

「あなたたちが過ごした時間は、きっと兄妹の鎖に負けないわ。
 愛しい人のために自分のできることを精一杯がんばる。
 それが、誰かを好きになるということじゃないかしら」

これは、私にも向けられた言葉だろうか。何故かそう思った。

「悔しいけど、あたしにできることなんてたかが知れてる。
 でも、二人をずっと見てきたんだもの。二人がどんなにお似合いか、
 あたしがきっと一番知ってるわ」

足音。愛理がお兄ちゃんに近づいたのかもしれない。


「大丈夫。きっとうまくいく。あたしはそう信じてる。
 だから瓜生君も、桜乃のことを信じてあげて」


「好きになった人を、受け止めてあげて」


お兄ちゃんの返事はなかった。たぶん、言葉はもう必要ないと思ったのだろう。

遠ざかっていく足音が聞こえ、あたしは表へと移動した。

「愛理・・・」

「・・・まったく、人の気も知らないで」

「え?」

「なんでもないわ。それより桜乃、瓜生君は勇気を出したわ。
 あなたは・・・どうする?」

答えは決まっていた。

「行くね」

「うん。朗報を期待しているわ」

愛理の尽力に応えたい。

明日、彼女にありがとうと言う為に。

ここから、一歩を踏み出そう。

胸に息づく自分の気持ちを抱きしめて。

私は、お兄ちゃんの元へ向かった。
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  1. 2012/05/27(日) 00:28:47|
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