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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

一次創作 最強と最弱の彼女 第3話

講師たちが集まって開かれた会議は、順調に議題を消化し、
残るは水月の卒業試験についてとなった。

ルーシェ国立魔法学校では、学年で卒業が決まるのではなく、
生徒の能力、個性に合わせて個別に課せられる試験を
クリアすることで卒業できるのだ。

講師たちの案を精査し、最適と思われる試験が適用され、
その内容は多岐に渡るのだが、水月については長い間保留されていた。

何をやらせても絶対に合格しそうで試験にならない、というのが理由である。

「もう、無条件で卒業でいいのではないでしょうか。あれほどの才能を
 いつまでもこの学校に置いておくのは、あまりにもったいないですよ」

「しかし、そんな前例も無いですし・・・」

「いや、前例は一応あるのですよ。たった一人だけ・・・
 300年前に開校して、一番最初の卒業生がそうでした」

この学校に詳しい、勤務暦の長い講師たちが、彼女を見る。

その伝説の卒業生と、同姓同名の彼女を。

無論、ただの偶然だと彼らは思っている。

思っている・・・が、万が一ということもあるかもしれないと感じてもいた。

視線の先の彼女は、どうみても10歳前後の容姿で、
300年も続く名門校の長を務めている謎の少女なのだから。

もっとも、それを本人に直接聞く勇気のある者は、誰もいなかったが。

「学校長と星出の一騎打ち、というのはどうでしょう?」

その案は皆が首を振って否定する。

以前まともに正面から二人がぶつかった結果、
校舎が半壊した悪夢を思い出したのだ。

「あはは、校舎は結界で守りながら戦うつもりだったんだけど、
 水月ちゃんって強いよね!そんな余裕、全然なかったよ」

バトルの後、教頭にこっぴどくしかられたマリアも思い出したらしい。

「星出はそんなにすごいのですか・・・」

「しかし、さすがに星出でも、学校長には叶わないでしょう」

「そうでもないんだよぉ?今はマリアの方が強いけど、
 いつかは勝てなくなるんじゃないかな」

マリアは軽く言うが、講師たちを驚愕させるに十分だった。

「まぁ・・・勝てなくても、負けはしないけどね」

ぼそっと呟いたマリアに、講師たちは刹那、戦慄を覚える。

得体の知れない恐怖、見えない刃を首筋に押し付けられたような
感覚という表現が正しいだろうか。

そんな殺気じみたものを、刹那マリアは放っていた。

「そ、そもそも何故星出はこの学校に入学したのですか?
 あれだけ強いのだから、全く必要ないと思うのですが」

冷や汗をかきながら講師の一人が尋ねる。

「それがね、水月ちゃんは最初、とても目立たない子だったんだよ。
 同級生の中でも、強さは下の方だったんじゃないかな?」

信じられないと言った体で講師たちが顔を見合わせる。

無理もない、水月は今、100年に一人の天才と謳われているのだから。

「そんなある日、突然強くなっちゃったの。才能が開花したんだね。
 でも、まだ子どもだから、自分の能力を制御しきれなくて、
 魔法を所構わず暴発させてたから、マリアが水月ちゃんに魔法をかけて
 魔力を少しずつ、自然に放出させてるんだよ」

小さな器に水を注ぎすぎると、水は溢れてしまう。

そういう意味では、まだ幼く、体が成長しきっていないことが、
水月の唯一の弱点と言えるだろうか。

「とりあえず水月ちゃんの試験は、マリアに任せちゃってほしいな。
 こっちで考えとくから」

学校長がそう言うならと、講師たちも頷いた。

「さぁ~て、これで会議は終わりかな?」

「あの、もう一つだけいいでしょうか・・・?」

講師の一人が挙手する。

「何かな?」

「志宝院優雨についてです」

水月だけではない。
優雨もまた、処遇が決めかねられていた。

その理由は、正反対だった。

「志宝院は・・・真面目な生徒です。しかし・・・」

その先は言葉にしなくても容易に把握できる。

恐らく、志宝院優雨はこの学校を卒業することはできないだろう。

しかし、今まで誰もその残酷な現実を本人に告げることはなかった。

才能が無いから、魔法の練習をしても無駄だと切り捨てるのは、
講師という立場でも躊躇われるのは当然だろう。

優雨が凡人なため実父から勘当されているのは周知の事実であり、
更に傷口に塩を塗るような真似を、好き好んでできるはずがない。

一方で、いつまでも先延ばしにもできなかった。

このまま学校に在籍させるか、優雨のためを思い心を鬼にして、
自主退学を勧めて別の道に進めさせるか。

二つに一つだった。

「いい子なのですけどね・・・」

だからこそ、講師たちも悩んでいる。

講師たちに優雨を嫌う者は一人もいない。生活態度は真面目であり、
真摯に魔法を練習する姿は、他の生徒たちの手本にしたい程だ。

しかし、魔法使いを志す限り、魔法を使えなければ話にならない。

優雨の問題は、あまりにも複雑だった。

「・・・マリアが言うよ」

「え・・・?」

いつになく真剣な表情で告げる。

「優雨ちゃんのことも、マリアに任せて。もちろん優雨ちゃんの気持ちが最優先だけど、
 言わなきゃいけない状況になったら、マリアが伝えるよ。
 それがマリアの役目だと思うから」

「・・・では学校長、よろしくお願いします」

マリアは面持ちを崩さず、小さく頷いた。


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  1. 2013/04/30(火) 00:26:54|
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