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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

最強と最弱の彼女 第5話

世界には、確認されただけで50ほどの遺跡がある。

闇の中には、まだ未知の遺跡が多く眠っているだろう。

遺跡の共通点として、内部は凶暴な魔物たちの巣と化していることが挙げられる。

うかつに足を踏み入れて、二度と生きて外に出れない者も多く危険なため、
遺跡は最も近くにある学校の長が管理する決まりとなっており、
中へ入るには許可が必要だ。

だが、盗賊など無断で侵入する者も後を絶たない。

最深部には、古の財宝が眠っているからだ。

「何だこりゃ。どこの馬鹿の仕業だ」

遺跡の入り口の門が、無残に破壊されている。

爆弾を使ったのだろう。周囲にはまだ火薬の臭いが漂っている。

破壊されてからあまり時間は経ってないようだ。

「財宝目当ての盗賊の仕業かもしれませんね」

「歴史的遺産に傷をつけやがって。星出、見つけたら半殺しにしていいぞ」

「教師のくせに物騒・・・でも、同感」

何もカレンのためだけに護衛を引き受けたのではない。

水月には水月の目的がある。

それを邪魔するなら、看過はできない。

「そんじゃ、行くとしますか」

水月が先頭に立ち、内部へ踏み出してゆく。

「光の風よ、生命を抱く繭となれ・・・」

カレンの肩の上で、ミューイが防御魔法を唱えた。

魔法の膜が、二人を包み込む。その膜は何よりも頑丈で、
あらゆる攻撃を弾き返す。

攻撃魔法を一切使えない代わりにヒーリングや防御魔法のスペシャリストであり、
本来は優雨を護らせるために仮初めの命を与えられたミューイ自慢の魔法だ。

遺跡の内部は薄暗く、水月たちは警戒しながら進む。

「待て。血の臭いだ・・・近いね」

前方に人が倒れていた。恐らくは盗賊だろう。
心の臓を矢で貫かれており、既に絶命していることは明白だった。

「こんな所でくたばりやがって。命を粗末にするな、ばかやろう」

カレンが力任せに矢を引き抜く。

飛び散った血はカレンの頬を汚した。

遺体が淡い光を放ち、ゆっくりと消失していく。

雪が溶けるように静かに形が無くなってゆく。

やがて光が収まった頃、そこにはもう、何もなかった。

魔力――マナ――となって、世界へ還っていったのだ。

人は皆、その生涯を終えると跡形も無く消滅する。

これは人として生まれた者の、避けようのない終末だ。

「うかつに進めばあたしらも二の舞だ。こいつを使うよ」

カレンが取り出したのは特製のペイントボール。

破裂して中の液体が飛び散ると、ワナが仕掛けられた床や壁に
意思を持つかのように動いて付着する。

後はそこを避けて慎重に進めばいい。

「便利ですよね~、これ」

水月は頷き、再び足を動かす。

「敵がいる・・・」

水月の指摘より早く、前方から火炎の渦が水月たち目掛けて襲ってくる。

水月は腕を突き出し、マナを扇形に展開することで受け止めた。

ばちっ、ばちっとマナと火炎放射がせめぎ合い、火花を散らす。

立ち塞がったのは、地獄の番犬だ。

その鋭い爪と牙は獲物を捕えれば二度と離さないだろう。

「お~あれはケルベロスじゃないか。しかも5つ首とはレアだねぇ」

「ぶっさいくな顔ですねぇ」

緊張感のない二人の軽口は、水月の勝利を確信しているからだ。

「そのマナ、もらう」

水月は扇から同質のマナを炎に混入させ侵食し満たすことで、
炎の渦を己の制御下に置いた。

敵の攻撃を、乗っ取ったのだ。

「そして・・・返す・・・!」

扇を払い、炎が発生した熱風と共にケルベロスを襲う。

ケルベロスは全身を焼かれ、切り刻まれ、断末魔をあげて動かなくなった。

「マスターの敵じゃなかったですね」

「まったく、こうも実力差があると敵に同情したくなるね」

「殺らなきゃ、殺られるから」

「その通りだけどさ、やっぱりお前は残酷だよ」

「残酷・・・?」

水月は首をかしげる。

「もっと一瞬で楽にしてあげたほうがよかった・・・?」

「そうじゃなくて。その強さで、志宝院の傍にいることがだよ」

「・・・・・・」

「ことあるごとにどうしようもない才能の違いを見せつけられるんだ。
 まともな神経じゃやってられないと思うんだけどね」

「そんな繊細な人じゃないと思いますよ。
 優雨さんは諦めの悪さだけが取り得ですから」

「ミューイは黙ってて・・・私は優雨と約束した、優雨の成長を傍で見守るって。
 だから先生にそんなことを言われる筋合いはない」

「ま、そりゃそうだ」

カレンはあっさり引き下がり、別の話題を振る。

「その右手の指輪。それが学校長にもらったってやつか?」

「・・・そう。常に私の身体から一定のマナを放出してる」

水月の右手の薬指に黄金色に輝く指輪。これがなければ
水月は魔法を制御することができない。

「もし、それが壊れたらどうなるんだ?」

「行き場を失ったマナが暴発して、傍にいる人を襲うと思う」

水月の底知れない才能は、まだ少女である水月本人さえもてあます。

大人になるまで外してはいけないという、マリアの命令だ。

「大丈夫なのか?敵の攻撃で割れたりしないのか?」

「ひっどいなぁ、マリアが造ったんだよぉ?大丈夫に決まってるじゃ~ん・・・って
 学校長が言ってた」

「そ、そうか・・・学校長がそう言うなら大丈夫だよな・・・たぶん」

学会ではアウトローである自分を拾ってもらった恩義はあるが、
カレンにとってもマリアは変な人物という位置付けである。

「そんなことより早く先に行きましょうよ。夜になりますよ」

3人は再び調査を再開する・・・


同時刻。

校門を出て表通りは抜けず横道にそれ、裏通りを数分ほど直進した所に
そのカフェは存在する。

人目につかない立地ながら、客足が途絶えることはない。

店内に入れば荘厳なピアノの旋律が客を出迎え、
アンティーク調のテーブルや椅子、わざと暗めに調節された照明が
大人の雰囲気を醸し出している。

「優雨、そろそろあがっていいぞ」

「あ、はい」

ここは、志宝院優雨が働いているカフェだ。

店のマスターは優雨の事情を知る良き理解者であり、一応の保護者でもある。

その顔立ちや立ち振る舞いはダンディという表現がふさわしく、
独身なこともあり彼を目当てに訪れる女性客も多い。

ちなみに、ここの客層の9割は女性である。

なぜならば、マスターが魔法で作った
「食べても太らないケーキ」が売られているからだ。

「いらっしゃいませ」

来店を知らせる鈴の音が鳴り、ドアに目をやると

「あ、学校長」  「やっほー、優雨ちゃん」

マリアは自分の背よりも高いカウンターの椅子に身軽に飛んで腰掛けた。

「いつものやつですか?」

「うん、お願い!」

「かしこまりました。マスター。厨房をお借りしますね」

「ああ」

数分後・・・・


「いっただっきま~す」

チキンライス・ハンバーグ・ポテトにサラダ・デザートにプリンが
子供用のプレートに盛り付けられている。

マリアが注文したのは、裏メニューの優雨特製のお子様ランチ。

「熱いから気をつけてくださいね」

「うん!」

優雨の注意を聞いているのかどうか。

マリアは矢継ぎ早に飲み込んで案の定、熱さに苦しむことになった。

慌てて水を大量に飲み込んだことで今度は盛大にむせる。

「だ、大丈夫ですか?」 優雨がマリアの背中をさすってあげる。

その光景に名門校の長たる威厳はどこにもない。

マスターもやれやれと肩をすくめている。

世界最強の魔法使いは、かなりのおっちょこちょいでもあった。


優雨は自宅へ。マリアは校舎へ。

姉妹のように手を繋ぎながらア歩く二人は校門で足を止めた。

「それでは、ここで失礼しますね」

「うん、気をつけて帰ってね」

どちらからともなく手を離し、優雨は背をマリアに向ける。

「あ、そうだ。優雨ちゃん」

「何ですか?」

斜陽の光に照らされながらマリアはいたずらっぽい笑みで、

「二重契約してみない?」と、言った。



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  1. 2014/11/12(水) 18:11:52|
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