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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

パワプロクンポケット7 霧島玲奈SS 追憶

もしかしたらそれは一目惚れだったかもしれないし、
そうじゃなかったかもしれない。

確かなのは、あたしはあの時、いいなぁって思ったこと。

誰よりも一生懸命に白球を追いかけていた
キミとの再会は、3年後の桜舞う季節。

「俺は甲子園に出て、プロ野球選手になる!」

男の子らしく背が伸びて体つきも逞しくなってたけど
そのまっすぐな眼差しは全然変わってなくて。

キミの夢も、ずっと同じままだった。

初めて会ったとき、心の中で「こいつバカだ」って思ったこと、
まだ謝ってなかったよね。

ああ、でもキミはあたしのことを覚えてなかったから、
それでおあいこでしょう?

あたしが野球部のマネージャーになったのは
キミに会えたからなのに。

・・・うん、許してあげる。

もう誰も笑ったりしないし、バカにしたりしないよ。

だってキミは———本当に夢を叶えたんだもの。


キミは甲子園にエースとして出場して。


日本一という最高の結果を残して。


秋のドラフト会議で指名されて。


あたしの手の届かない所までいっちゃった。


かたやプロ野球選手。

かたやどこにでもいる野球好きの女の子。

全然釣り合わないや。

でもね。

時々はこうやって、心の中に大切に仕舞っている思い出を
引っ張り出してひたってもいいでしょ?


あたしの夢はキミの夢で。


キミの夢は・・・あたしの夢だったんだから。







「玲奈って、部活は何やるか決めてるの?」

しわ一つない新しい制服に身を包んで、
あたしは友達とこれから3年間通う花丸高校の
通学路を並んで歩いている。

隣の彼女とは小学校の頃からの付き合いで、
入学式の日は一緒に登校しようと前から決めていた。

「あたしは・・・野球部のマネージャーやろうかなって」

桜並木をくぐり抜けながら、あたしは答えた。

伸ばした掌にひらひらと花びらが舞い落ちる。

陽だまりを吹き抜けるそよ風は、春の匂いがした。

「えっ、また?中学の時もやってたじゃん」

そう、あたしは中学生の頃、男子野球部のマネージャーを務めていたのだ。

最初は右も左もわからなくて、野球のルールすら覚束なかったけど、
しばらくしてからはあたしも野球部にちゃんと貢献できていたと思う。

「高校くらいは別の部活やったら?玲奈は運動神経も悪くないんだからさ」

「いいの。あたしは野球が好きだから」

「じゃあ女子ソフトボール部に入ればいいんじゃない?」

「野球とソフトボールは全然違うよ」

「そうなの?私には同じに見えるけど」

もちろん、ソフトボールを否定する気は全くない。

夢に向かって一生懸命に打ち込む姿は、野球とかソフトボールとか
競技を問わずにみんなカッコいいから。

でも・・・あたしにとって、野球は特別なの。

「まぁ、玲奈の好きにすればいいけどさ」

「うん、そうする」

その理由は誰にも言えない、あたしだけの秘密・・・


入学式が終わり、自分のクラスに移動してこれから一年間お世話になる
担任と顔を合わせたりして、つつがなく時間は過ぎていった。

友達とは別のクラスになっちゃったけど、変わらずこれからもよろしくね。


放課後、あたしは野球部の練習を見るため
グラウンドへと降りて行った。

ランニングを続ける野球部員たちの姿を、邪魔にならないよう端の方で
視線の先に捉える。

「よし、声を出していくぞ!」

先頭を走るキャプテンらしき人に続いて、オウ、オウ、とみんなが応える。

あたしはその先頭の人に見覚えがあった。

「あの人・・・生徒会長だ」

確か、東センパイ。

美形の顔立ちに加えて成績優秀、運動神経にも恵まれ、
生徒や教師たちからの信頼も厚く
生徒会長まで務める完璧超人・・・・らしい。

そういえばクラスメイトの女の子たちが騒いでたっけ。

ランニングが終わり本格的な練習が始まった頃には
気が付くとあたしの他にもギャラリーはいっぱいいた。

みんな目当ては東先輩みたいだけど。

まぁ、イケメンだもんね。

「東先輩ってほんとカッコいいよね~」

「今フリーなんだよね。私、アタックしちゃおうかな?」

周囲の黄色い声援には加わらず、あたしはグラウンドの横を抜けて
その日はまっすぐに家へと帰宅した。



「野球部顧問の佐和田だ。よろしく」

顧問の佐和田先生は温厚そうな人だった。ドラマに出てくるような鬼顧問だったら
どうしようかと思ったけど、一安心。

でも・・・なんだろ。

覇気に欠けてるような・・・気のせいかな?

「今日の放課後、上級生と新入部員の顔合わせをするから君も出てくれ」

「あ、はい」



そして———放課後。



待ってたのは、キミとの再会。


3年という時間は、人を変えるに十分な時間だったみたい。

背が伸びて、体つきもしっかり男の子らしくなってて、
思い出の中のキミよりずっとかっこよくなってた。

「あの・・・」

練習に向かう僅かな間、あたしは思い切って話かけてみたの。

もしかしたらあたしのこと、覚えてくれてるかも。

そんな淡い期待を抱きながら。

「え?」

キミと目が合う。たったそれだけのことで
あたしの体温は上昇して胸の奥が甘く痛んだ。

「あたし、霧島玲奈(きりしま れな)。新入生同士、よろしくね」

「あ、うん。俺は小南慎悟(こなみ しんご)。よろしく」

「小南・・・・くん」

3年ごしにわかった彼の名前。あの時は訊けなかったから。

と、突然小南くんの隣にいた眼鏡の男の子がはしゃぎだした。

「やったでやんす!美人マネージャーでやんす!」

や、やんす・・・?

「おいおい、声が大きいぞ湯田くん」

「湯田浩一でやんす。よろしくでやんす」

「あ、うん。よろしく」

小南くんを真ん中に、自然と並んで歩き出す。

「あたし、中学の時も野球部のマネージャーをやってたから、
ちゃんとみんなの役に立てる思うよ」

ちらっと小南くんを見る。

小南くんは感心したように目を見張っているけど、
それ以上の反応は返ってこなかった。

・・・やっぱりあたしのこと、覚えてないみたい。

あたしは忘れたこと、なかったんだけどな。

自分で思った以上に残念がってるあたしがいた。

「霧島さんみたいにかわいい子が部内にいたら、
つらい練習にも身が入るというもんでやんす」

「あ、キリちゃんでいいよ。男の子の友達はそう呼ぶから」

「わかったでやんす」

「へぇ・・・俺もそう呼んでいいかな?」

私は悩んだ後、

「・・・・・・ダメ」と答えた。

「ええっ!?」

この世の終わりのような顔をされてしまった。

もしかしたらメンタルはけっこう打たれやすいのかもしれない。

「小南くん・・・ドンマイでやんす」

「トホホ・・・」

今にも泣きそうな彼の表情に罪悪感が募るけど、
ごめんね、でも譲れないの。


だって・・・・


キリちゃんって呼ばれたら・・・


友達で終わっちゃいそうなんだもん。



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  1. 2015/05/21(木) 00:12:16|
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