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君の知らない玉手箱

溶けそうで溶けない、アイスクリイムのようなブログ。

アルノサージュSS イオン×アーシェス 次元(トキ)をかける少女 第4話

虫たちも寝静まる深夜、語り疲れてベッドの上で静かな寝息を立てるイオンを起こさないよう
注意を払いながら、真空管の明かりを頼りに僕は数枚のメモ用紙にペンを走らせていた。

アーシェスの手ではペンのような小さなものを操るのは一苦労だが
電子の海にこの記録を残すのは一抹の不安がある。

メモの内容は、大多数の人には子供の落書きレベルのものでしかないが、
イオンたち技術者が見れば、磨けば光るダイヤの原石かもしれない。

あくまでも希望的観測に過ぎないし、おそらくは無駄なあがきに終わるだろう。

でも、再会へ向けてイオンにだけがんばらせるのは申し訳ない。

僕にできることはないか―――イオンたちの半分もないだろう僕の知恵を絞ったとき、
不意に閃くものがあった。。

記憶の糸をたぐりよせて、どうにかソレを思い出す。

「ん・・・あなた・・」

起こしてしまっただろうか?

振り向いてみるとイオンの目は閉じられたままだ。

寝言だったらしい。

「一人に・・・しないで・・・」

『・・・・・・』

イオンに近寄り、頭を撫でてあげる。

僕はここにいるよ。

そんな想いを込めて・・・


貸し切りのネィアフランセで、僕のための送別会が始まった。

円卓につく参加メンバーは、僕から時計回りにイオン、ネイ、レナルル、白鷹、
サーリ、カノン、デルタ、キャス、プリム、そしてネロだ。

隣を見ると、ネロが気まずそうに俯いていた。

「私・・・本当にここにいていいのかしら」

どうやら僕たちと敵対していたことを気にしているらしい。

「プリムなんてアーシェスを壊しちゃったのに・・・」

プリムはネロを上回る落ち込みようだ。

確かにソラで旧型のボディを破壊した時のプリムの表情は、悪役そのものだった。

だから僕が二人を恨んでいるかというと、決してそうではない。

「プリムちゃんはインターディメンドで操られてたんだから悪くないよ。
 ネロも、デルタにインターディメンドを解除する鍵を渡したりしたんでしょ?
 いろいろあったけど、今は二人ともわたしたちの大切な友だちだよ」

「そうさ。なにせ二人も呼ぼうと言い出したのはアーシェスなんだから」

サーリの言葉に驚いたネロとプリムが僕を見る。

「・・・そうなの?」

『二人がいてくれないと寂しいと思ったから』

嘘偽りのない、僕の本心だ。

『昨日の敵は今日の友。僕の世界のことわざなんだ』

人もジェノムも異世界の住人も関係ない。

心を開けば、僕たちは分かり合うことができる。

「優しいのね。イオナサルがあなたに惹かれる理由がちょっとだけわかった気がする」

この場所に来て初めてネロが微笑んでくれた。

「・・・本当にごめんなさい、アーシェス」

『いいよ。それより、この話はもうよそう。ご飯が美味しくなくなるよ』

「・・・うん」

プリムもまだ少し引きずっているようだけど、僕の意を汲んでくれた。

「・・・よし、出来た!デルタ、運ぶの手伝って」

厨房から出てきたデルタにネイが声をかける。

「ったく、人使いが荒いな」

「私も手伝うわ」

デルタとキャスが厨房へ消える。

「イオナサル・・・このメニューを見ているとこれから運ばれてくる料理に
 嫌な予感しかしないのですが・・・」

「あ、あはは・・・」

「残念だけどカノイール、君の不安は正しい。まあいくらなんでも死にはしないだろうから 
 その点だけは安心していい」

「サーリちゃん、フォローになってないっス・・・」

「だけど白鷹も見ただろう。先のネイさんとデルタによる料理対決を。あんな自信満々に
 『キライヤキ』なんてゲテモノを出されたら、もうどうしようもないじゃないか」

わざとゲテモノを作ってる説は、店の所有権を賭けた戦いで
ネイ自身の手によって否定されてしまっている。

なぜネィアフランセが潰れないのか・・・きっと誰も解き明かせないに違いない。

「まずは当店の開店時からあるメニュー、キライヤキよ!」

円卓に置かれた鍋に視線が注がれる。

「名前はともかく、見た目は美味しそう・・・え?」

ネロの顔から血の気が引くのを僕は見逃さなかった。

「わ、私の目がおかしいのかしら。すき焼きにあってはならないものが入ってるんだけど・・・」

鍋の中に鎮座する白く四角いもの・・・それは豆腐ではなく、ナタデココだ。

このすき焼きもどきは、肉と豆腐の代わりに魚とナタデココが投入されている。

「陛下・・・これは何ですか?」

常に冷静沈着なレナルルすら冷や汗をかいている。

「ここではネイさんだって。言ったでしょ、キライヤキよ」

「そ、そうではなく・・・なぜ鍋にナタデココが入っているのです・・・?」

「これがすき焼きじゃなくて、キライヤキだからよ」

答えてるようで、答えになっていない。

「戦慄してるところ悪いんだが・・・次の品だ」

デルタが置いたのは、イオンのトラウマの珈琲茶漬だ。

「う・・・」

イオンが口元を手で抑える。口内に味が蘇ったのかもしれない。

「もう聞くのも怖いんだけど・・・これは、何?」

「珈琲茶漬け。夜ふかしのお供に最適よ」

「どこからつっこめばいいかわからないわ・・・」

「これはまだマシな方かもね。ねこさまランチよ」

「・・・安心しました、まともなものもあるのですね」

「・・・それ、元は猫にあげる餌のレシピから作られたものだけどね」

「・・・・・・」

ゲテモノ料理が運ばれてくるたびに、場の雰囲気が盛り下がっていく。

そして全ての料理が出揃った時、もはや歓談するものはおらず
ネイと僕を除くメンバー全員が真っ青な顔をしていた。

「待たせたわね。さぁ、召し上がれ」

ネイの明るい声が場違いに響く。

「え、ちょっと待って・・・え?私たち、これを食べなくちゃいけないの?」


「ってかみんなひどくない?一生懸命作ったのに・・・」

(ちょっとデルタ、ネイさんが泣きそうじゃない!なんとかしなさいよ・・・!)

(んなこと言われたって、どうしろってんだよ・・・!?)

(男はあんたと白鷹しかいないんだから、あんたたちがたくさん食べなさい!)

(無茶言うなよ!これらの不味さは、お前もよく知ってるだろ!)

(だからって、ネイさんが泣いてもいいの・・・!?)

(ぐっ・・・ああっちくしょう!)

半ばやけになったデルタがキライヤキに突撃していった。

具をおたまで掬って器に大量に盛り、箸で口内に思い切りかきこむと
一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔になったが、構わず飲み込んでいく。

その勇気ある行動に同じ男として敬意を表さずにはいられない。

それはもう一人の男も同様で・・・

「流石っスねデルタ。じゃあ、俺はこの珈琲茶漬を食べるっス」

「白鷹・・・無理しなくてもいいんだ。みんなでわけて食べよう」

「サーリちゃん、止めないでくれ。プリティーベリーちゃんが作った料理を残すなんて
 罰当たりなこと、俺にはできないっス・・・!」

「白鷹・・・おまえってやつは・・・」

ちゃっかりサーリからの好感度を上げながら、白鷹もデルタに倣い強敵に立ち向かっていく。

「うぐっ・・・」

メガネの奥に光るものがあったが、白鷹はあくまで手を止めない。

「・・・私たちも食べましょうか」

「プリム、がんばる・・・!」

女性陣も、比較的食べやすいねこさまランチや、ネィアフランセの皿に箸を伸ばし始めた。

「・・・まぁ、食べれなくはないですね。お金を払ってまで食べたい味ではありませんが」

「なんて言うか・・・ネイちゃんの料理って感じですよね」

『がんばって、イオン』

「うん。ありがとう、あなた」

延々と食べ続け、ついに全ての料理が皆の胃に収まった。

「勝った・・・俺たちは勝ったんだ・・・」

「お疲れ様、デルタ・・・」

満身創痍のデルタと白鷹の背中を、キャスとサーリが擦ってあげている。

「もうネイの料理はこりごりよ・・」

もしかしたら少しでも寂しさをまぎらわせるよう、
ネイは不評を承知で料理を振る舞ったのかもしれない・・・というのは、考え過ぎか。

「腹ごしらえをしたら、ラズェーラでもやってみる?」

「やめろよ!死人が出るだろ!」

・・・こんな感じで、会は時々明後日の方向へ行きながらも賑やかに進行していった。

ドジっ子属性を発揮したネロがカノン・デ・カノンを店の奥から持ち出してきて、
勝手にモデルにされたカノンに発覚しネイが大目玉を食らうという場面もあったが
誰もが終始楽しげだった。

僕の故郷である地球の話をすると、みな興味深々に聞いてくれて、
特にサーリからは最後だからと質問攻めにあってしまった。

寧のいたアースと比較してみると、やはりそれほど違いはないらしい。

人がいればそこには人の数だけ想いがあって、愛がある。

それは何も変わらない―――地球も、アースも、ラシェーラも。

「・・・そろそろ、時間だな」

「そうね・・・」

さぁ。最高の仲間たちに最後の言葉を交わそう。

「あなた・・・」

『わかってる。イオン、頼む』

「うん、任せて」

僕の想いは対象に触れることで伝わるため、イオンに仲介を頼む。

「皆、忙しい中僕のために集まってくれてありがとう。
 異世界の住人である僕を大切な仲間と言ってくれて本当に嬉しかった。
 永いわかれになってしまうけど、皆のことは決して忘れない。
 どうかいつまでも、元気でね」

・・・沈黙のあと。

「なんてゆーか・・・面白みのまったくない挨拶ねぇ」

やっぱりネイはいつものようで。

「面白みなんて必要ないさ。こちらこそありがとう、アーシェス。
 君には本当に感謝してるよ」

サーリ・プランク。イオンから授けられし名を光明陵子。

どちらかと言えばソフトウェアに強く、実際に機械に触れるのは苦手とは本人の弁だが、
彼女の作り上げる創作物を見れば、謙遜にも程がある。

メカニックとしてイオンと話が合う貴重な人物なので、時には二人ですごいものを
作ったりするのかもしれない。

「萌えは次元を超えて誰の心にも宿ってるッス。
 いつかそっちの世界にある萌えを見れる日を楽しみにしてるッスよ」

白鷹―――本名レオルム・セオジウム。イオンから授けられし名を律界天。

サーリに引けを取らない技術者で、萌えの伝道師でもある。

イオンのフィギュア(僕にも作って欲しい)を七徹で作り上げるほどの
萌えのこだわりは留まるところを知らない。

謳う丘のコントロールルームをプリティベリーのグッズで埋め尽くすような熱愛が、
いつかサーリのヤキモチを買ってしまわないか、それだけが心配だ。

「ずっとイオンを護ってくれてありがとう。実際に触れ合うことすらできない二人だけど、
 貴方とイオンの絆は確かにここに在るのよ。だからこれで終わりじゃなくて、
 貴方たちがまた再会できることを心から願っているわ。もちろん、私もね」

レナルル・タータルカ。イオンから授けられし名を皇謳。

もし彼女がいなかったら、あるいはイオンはネロのように暴走していたかもしれない。

たとえそれが罪悪感からであっても、天文という組織の中で一人だけイオン――結城寧――に
優しさを注いだレナルルは、ラシェーラに来たばかりの寧にとって唯一の心の拠り所だった。

ジェノメトリクスで互いの心のわだかまりも解消し、きっとこれからもレナルルは
時には姉のように、厳しくも優しくイオンを見守っていくのだろう。

「私は最初、あなたのことをただの機械人形としか思っていませんでした。
 ですが、アーシェスを通じて伝わってくるあなたの心は本当に温かかった。
 想いは、遠く離れてても誰かに届くのだと・・・あなたが教えてくれました。
 どうかいつまでもお元気で・・・」

カノイール・ククルル・プリシェール。イオンから授けられし名を菩提命王。

昔はライバルとして。今は友として。少しづつ関係を変えながら、
二人は尊重しあい今日までやってきた。

共同経営するちゅちゅ屋がどんな店になっていくのか、
それが見れないのが残念だ。

・・・あと、時々イオンはカノンを踏んであげればいいのではないでしょうか。

「いろいろあったけど、なんだかんだ言ってお前には世話になったな。
 昨日の約束、忘れんなよ?」

デルタ・ランタノイル。イオンから授けられし名を唯世。

彼が万樹沙羅でイオンに手を差し伸べていなかったら、
イオンはどうなっていたことか。

いや、イオンだけじゃない。僕も彼に救われた一人だ。

悪意はなくても、結果的に身体を乗っ取ろうとしていた僕を赦した彼の
優しさと強さを、僕は忘れない。

「今思えば、クオンターヴで私とサーリの元へデルタを導いてくれたのは
 あなただったのよね。あなたにも、ありがとね。
 そして、アバターコアに祈った私の願いを叶えてくれてありがとう」

キャスティ・リアノイト。イオンから授けられし名を愛宮。

デルタと愛を確かめ合ったろう夜に、キャスは僕に語りかけてきた。

この世界とデルタをよろしくと。

僕を信頼し、インターディメンドという諸刃の剣に自ら再接続をしたデルタを
生涯を賭して支えると決意した意志の強さこそ、彼女の愛そのものだった。

ところで未来から来たネロいわく、この二人は二年後にようやく結婚するんだとか。

いつまでも関係を進めようとしないデルタとキャスに業を煮やしたネイが
背中を押したらしいが、それまで無自覚にいちゃつくバカップルぶりを
散々見せつけられたに違いないネイが不憫でならない。

「えっと・・・元気でね・・・・」

プリム。キャスがデルタを宿主にして生んだ空想型ジェノム。

ネロの世界の住人に操られ、最後まで僕たちを苦しめた。

僕がイオンを護ることを可能にしたインターディメンドが、
牙をむいて僕の旧い身体を破壊したのは皮肉と言わざるをえない。

それでも僕たちはプリムが異世界の住人に操られながら、
プリムも内側から戦っていたことを、詩に込められた想いを通して知っている。

だから過去の諍いを水に流すことに、何の躊躇いもない。

「別の可能性軸の未来から、もう一人の私が来てたって聞いたんだけど・・・
 何か変なこと言ってなかった?」

『語尾ににゃをつけて、にゃんこ言葉を喋ってたよ』

「・・・・・・」

『・・ネロ、にゃって言って!』

「っ・・・!あまり調子に乗ると、イオナサルに叱ってもらうわよ」

ネロ。元いた世界での本名はウルゥリィヤらしい。

イオンより5000年も前に連れてこられ、レナルルがいたイオンと違って
ずっと一人ぼっちだった彼女が、どんな手を使ってでも帰ろうと画策したのは
誰にも責められないことだったのかもしれない。

だからといって、僕たちはそれを黙って見過ごすわけにはいかなかったが。

どうかネロには幸せになってほしい。

一万年の時を超えてついにできた本当の友だちと、ネロが心から笑いあえる日は、
もうすぐそこまでやってきているはずだから。

「・・・助けてもらった恩もあるから一度だけ言ってあげる。・・・ありがとにゃ」

僕だけに聞こえる、囁くような甘い声で。

・・・もしイオンがいなければ、堕ちてたかもしれない破壊力だった。

「最後はあたしかー。でもみんなが先に言いたいこと言っちゃったし、
 禊ぎの時に何度も話してるから今更とくにないんだよね。
 う〜ん・・・あ、あんたと離れてる間イオンの面倒はあたしが見てあげるから安心しなさい」

「面倒って・・・わたしそんなに手がかかるかなぁ?」

「そうね。昔と比べたらだいぶしっかりしてるけど、どっか目が離せないのよイオンは」

「うぅ・・・ごめんなさい」

そして、ネィアフラスク。イオンから授けられし名を天統姫。

結果的に結城寧に全てを奪われた、本当のイオナサル・ククルル・プリシェール。

運命に翻弄された二人は、コロン・夢の珠で出逢いを果たし、
寧に復讐するために近づいたネイは、しかし悪役になりきることはできなかった。

憎い相手にすら世話を焼く面倒の良さは、紆余曲折の後に
互いに親友と呼び合うほどの絆を二人の間に結びつけた。

ネイには本当に頭が下がる思いだ。

だから僕は、ネイにだけこんなお願いをする。

『寧を・・・よろしくね』

イオンではなく、寧、と。

「あんた・・・」

ネイは僕をじっと見る。

アーシェスではなくその向こう側にいる僕を見透かすかのように。

ネイの心の奥底にはおそらくまだ傷が残っている。

いつか癒えるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

それはネイにしかどうにもできない領域だ。

それでも、確かなこともある。

『ネイは、どんなことがあっても、寧から離れていかないでしょ?』

以前の二人の、歪んだ共依存の関係ではなく・・・

―――そう、親友として。

「当たり前でしょ。あたしのたった一人の親友なんだから」

7つの次元を越えて紡がれし絆は、誰にも断ち切れはしない。


僕は改めて、一人ずつ見つめる。

誰か一人欠けても辿りつけなかったこの良き日を僕は絶対に忘れない。

『今まで本当にありがとう!』

願わくば彼らに永久の幸せを。



そして、イオンとこっちの世界で過ごす、最後の夜がやってくる。





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  1. 2016/11/10(木) 22:30:17|
  2. アルノサージュSS(完結)
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